カインズ、AlphaEvolveで需要予測の誤差19%減 生成AIがモデルを書き換え
悠 Yu NiiboriAIエンジニアプロフィール
出典 3件

要点
対象:需要予測にAIを使いたい担当者
- 人が最初のモデルと採点の仕組みを用意
- 複数のモデルを1つに統合
- 欠品や在庫水準への効果は測定前
カインズは、需要予測モデルのプログラムをAlphaEvolveに書き換えさせ、人が3年かけて調整してきたモデルと比べて、予測の誤差を19%減らしました。1
この記事の目次(5節)
- 人手の調整は3年で手詰まりに
- 人とAIの分担
- AlphaEvolveの仕組みと、使えない用途
- 導入の前と後
- 自社の需要予測で試す前に確かめること
数字は、Google Cloudが10月30日に公開した導入事例の中で、カインズの担当者が明らかにしたものです。1
AlphaEvolveは、Googleの生成AI「Gemini」を土台にした、プログラムを良くするためのAIエージェント(目標に向けて自分で作業を進めるAI)です。2
AlphaEvolveはプログラムを書き換えた候補を出し、人が用意した採点の仕組み(評価用のプログラム)で点数を付けます。その点数をもとに次の候補を作り、これを繰り返します。2
人手の調整は3年で手詰まりに
カインズは全国に約290店のホームセンターを展開しています。需要予測の仕組みは2022年6月に一部で本番運用を始め、2025年10月に全店舗へ広げました。1
今回の対象は長期予測モデルです。PB(プライベートブランド)商品は海外生産が多く、リードタイム(発注から納品まで)が長くなります。そのため、食品から雑貨まで約1万品目の需要を、単品ごとに39週先まで予測しています。1
需要予測グループは週1回、現場の部署から要望を聞き、特徴量(予測に使う項目)や設定を調整していました。しかし人が考えて試せる回数には限りがあり、これ以上の改善は難しいという手詰まり感が出ていました。1
人とAIの分担
AlphaEvolveが受け持ったのは改良の試行で、その前後の作業は人が受け持ちました。1
| 作業 | 担い手 |
|---|
| 土台になる最初の予測モデルを作る | 人 |
| 予測の当たり具合を正しく測る採点の仕組みを作る | 人 |
| 特徴量と設定を作り替えた候補を、何百・何千回と試す | AlphaEvolve |
| できた予測モデルを、本番の仕組みに組み込む | 人 |
人の作業には、Antigravityなどのコーディングエージェント(プログラムを書くのを手伝うAI)を使いました。1
カインズは、データリークを防いで精度を正しく測れるように、採点の仕組みを作りました。1 データリークは、予測する時点ではまだ分からないはずの情報が、学習や検証のデータに混じることです。
需要予測グループの矢口未知彦グループマネジャーは、一般的な生成AIとの違いを話しています。一般的な生成AIも改善の案は出します。ただ、その案を実際に試して結果を確かめ、次の案を考える作業は、人が1回ずつするしかないといいます。1
AlphaEvolveの仕組みと、使えない用途
AlphaEvolveで予測モデルを改良するときの流れです。AlphaEvolveが予測モデルのプログラムを書き換えた候補を出し、人が用意した採点の仕組みが点数を返します。Google Cloudの説明とカインズの事例をもとに作成しました。
AlphaEvolveは、文章の指示だけでプログラムを作らせる用途や、正しく動かないプログラムを直す用途には使えません。正しく動くプログラムを、決めた評価指標(良し悪しを測る物差し)でより良くするためのものです。3
カインズが使ったのは、プレビュー版のAlphaEvolveです。1 一般提供は2026年7月に、GoogleのAI開発の基盤「Gemini Enterprise Agent Platform」で始まりました。2
導入の前と後
| 項目 | 導入の前 | 導入の後 |
|---|
| 予測の誤差 | 人が3年かけて調整したモデルの誤差 | それより19%減 |
| 改良の試し方 | 人が考えて試せる分だけ | AlphaEvolveが何百・何千回と試す |
| 運用 | Vertex AI Forecastingで、条件ごとに複数のモデル | 1つに統合し、運用の手間とランニングコストが減った |
新しい長期予測モデルは、本番で動き始めてから約4〜5週間です。39週先までを予測するモデルなので、本番での予測が当たったかの答え合わせは、まだこれからです。1
精度が上がったカテゴリーで、欠品の削減や在庫水準の適正化にどれだけ効くかは、これから測ります。1
カインズとGoogle Cloudは、次のことを公表していません。
- 19%の誤差を、何の物差しで、どの期間のデータで測ったか
- ランニングコストがいくら下がったか
- 採点の仕組みを作るのに、どれだけの時間と人手がかかったか
自社の需要予測で試す前に確かめること
- いまの予測モデルが、正しく動くプログラムとして手元にあるか3
- 何をもって「当たった」とするかを、数字で決められるか(カインズには「需要予測の精度を高める」という明確な目標がありました)1
スーパーの発注をAIに任せた事例は、いなげやなどの記事にまとめています。
社内の仕事の一部をAIエージェントに任せた例は、バイエルとRescaleにもあります。
需要予測に生成AIを使うなら、いま動いている予測モデルと、当たり外れを測る物差しを先にそろえておくと始めやすいと考えています。