要点

対象:AIが数学の難問を解いたと聞いて気になった人

  1. 論証を確かめて責任を負ったのは著者
  2. Leanで機械検証、査読の記述は見つからず
  3. 任せる前に確かめ方と責任者を決める

数学者のJiesong Zhang氏が、ギス予想(Ghys予想)の複素3次元の場合を証明した論文を、2026年9月29日にarXiv(査読を受けていない論文も載る論文公開サイト)に投稿しました。1

この記事の目次(4節)
  1. 証明されたのは何か
  2. AIがした部分と、人がした部分
  3. 確かめられたことと、まだ分からないこと
  4. 長い作業をAIに任せる前に

10月13日の改訂版で、AIの使用の申告が加わりました。上海AI研究所のAI「Intern-S2」の社内版と何度も対話して考えを進め、証明の中身はすべて自分で確かめた、と書いています。12

証明は、人が方向を決め、AIと対話を重ねて進めたものです。論文の主な定理はLeanで機械検証されましたが、論文が査読を受けたという記述は見つかりませんでした。

AIに仕事を任せる人にとっての見どころは、確かめ方と責任の置き方です。

証明されたのは何か

ギス予想は、ある種の図形の上の動きが、単純な動きと同じ形に直せるかを問う数学の予想です。1995年にフランスの数学者エティエンヌ・ギスが提起しました。24

論文は、そのうち複素3次元の場合を証明しました。一般の場合は未解決です。2

AIがした部分と、人がした部分

作業AIがしたこと人がしたこと
証明を作る8月から様々な方向を試し、数千ページの導出を書き出した5研究チームが全体の方向を決め、有望な筋を選び、AIに指摘を返し続けた45
論文にするアイデアと論証を、複数回の対話で練るのを助けた2著者が論証を全部自分で確かめ、論文の責任を負った2
Leanの形にするAIエージェントのSHEAFが、証明をLeanの形に書き起こした26北京大学のチームが行い、最後の定理は人が確かめた2

論証を確かめて責任を負ったのは、著者です。2

GHYS予想の証明の流れ 人(数学者) 方向を決め筋を選ぶ Intern-S2 長い導出を出す 複数回くり返す 論文(arXiv) 9/29 投稿・10/13 第3版 Leanで機械検証 北京大学のチーム・済み 査読の記述・見つからず 論証は著者が全部自分で検証
論文と報道から分かるGhys予想の証明の流れ。人が方向を決めてAIと何度も対話し、完成した証明は別のチームがLeanで検証しました。査読を受けたという記述は見つかりませんでした。

確かめられたことと、まだ分からないこと

Leanは、証明の一歩一歩を計算機が検査する、数学用のソフトです。北京大学のチームが、論文の主な定理をLeanの言葉に置き換え(形式化し)ました。作業にはAIエージェントのSHEAFを使っています。26 コードは公開されています。3

公開されたコードでは、4つの定理が、未証明を示す記号sorryなしで証明されています。3

ただし、そのうち3つは、別の数学者が過去に示したとコードの説明にある結果を、正しいものとして使っています。この結果は、このコードの中では確かめていません。3

論文が査読を受けたという記述は、読んだ範囲では見つかりませんでした。検証をしたのは、著者とは別のチームです。24

長い作業をAIに任せる前に

この事例から、AIに任せるときの確認点が3つ挙げられます。

  • 何で確かめるか。この件では、論文のあとに別のチームがLeanで検証しました
  • 誰が責任を持つか。著者は、証明の中身をすべて自分で確かめたと書いています2
  • 確かめたことと、まだ確かめていないことを分けて書くか。この件では、Leanでの検証はあり、査読の記述は見つかりませんでした

たとえばAIに月次の集計表を作らせるなら、元の帳簿と合計が合うかを確かめる人と手順を、先に決めておくということです。

AIの成果は、確かめ方と責任者が決まってはじめて、ほかの仕事の土台にできると考えています。

関連記事:

まずは、いまAIに任せている長い作業を1つ選び、結果をどう確かめるかを書き出してみてください。

出典

  1. arXiv「Codimension-one holomorphic Anosov diffeomorphisms」Jiesong Zhang(2026年9月29日投稿、10月13日にv3)(参照 2026-10-19)
  2. 同論文v3の本文(Declaration of AI Use と Formalised proof の記述)(参照 2026-10-19)
  3. GitHub「frenzymath/HolomorphicAnosov」(論文のLean 4による形式化)(参照 2026-10-19)
  4. CGTN「Chinese researchers solve 3D Ghys conjecture with homegrown AI model」(2026年10月15日)(参照 2026-10-19)
  5. Yicai Global「Chinese Scientists Use Shanghai AI Lab's Scientific Model to Solve First World-Class Match Problem」(2026年10月16日)(参照 2026-10-19)
  6. GitHub「frenzymath/SHEAF」(Lean 4への自動の形式化の枠組み)(参照 2026-10-19)