要点

対象:SAPの保守をAIに任せられるか知りたい人

  1. AIが頼めるツールは決めた68種類だけ
  2. データベースが止まるまでサーバーは止めない
  3. 更新の直後に停止の操作が重なり、仕組みを3つ足した

会社の基幹システムの保守で、何時間も画面を行き来していませんか。

この記事の目次(7節)
  1. BasisPilotとは
  2. AIと技術者の役割分担
  3. カーネル更新の流れ
  4. どれだけ短くなったか(チームの見積もり)
  5. SAPを止めるときの順番と確認
  6. 更新の直後に、停止の操作が重なった
  7. 自社の基幹システムに当てはめるなら

トヨタ北米(北米トヨタ、Toyota Motor North America、トヨタ・モーター・ノースアメリカ)は、その段取りの一部をAIエージェントに手伝わせています。1

AIエージェントは、作業に合ったツールを選ぶAIです。BasisPilotでは、AIが選んだツールを、プログラムが確かめてから動かします。1

たとえばカーネル(SAPを動かす土台のプログラム)の更新では、AIが新しいファイルの置き場所を技術者に尋ねます。プログラムが事前の確認をして計画を見せ、技術者が承認すると、あとは決まった順に進みます。

トヨタ北米のチームは、この更新が約2.5時間から45分に短くなったと見積もっています。1

BasisPilotとは

BasisPilot(ベーシスパイロット)は、トヨタ北米のSAPチームが社内で作った運用の基盤で、監視からコストの確認まで扱います。売り物ではありません。1

BasisPilotで扱うのは、開発から本番までの20のSAPシステムで、サーバーは60台を超えます。1

これまで技術者は、ターミナル、SAP GUI、スプレッドシート、AWSのマネジメントコンソールを行き来していました。SAPの作業は、ふつうでも10〜90分かかり、数時間続く更新もあります。1

いや、画面を切り替えるだけで日が暮れるやつですよね。

AIと技術者の役割分担

AIと技術者のあいだに、手順の決まったプログラムが入ります。1

誰が何をするか
AIエージェント質問に答える・診断の結果を要約する・メンテナンスの時間帯をチャットで予約する・決まった作業の流れを案内する
手順の決まったプログラム権限と入力を確かめる・許可した命令だけを実行する・結果を確かめて記録を残す
技術者本番環境の操作、複数のシステムが同居するデータベースサーバーの操作、元に戻せない操作を承認する

AIが呼び出しを頼めるツールは、あらかじめ決めた68種類だけで、プログラムが確かめてから実行します。AIが書いた文章が、そのままサーバーへの命令になることはありません。1

AIが扱う範囲も絞っています。たとえば「バックアップの状態は?」とだけ聞くと、どのSAPシステムかを尋ねてきます。1

カーネル更新の流れ

技術者がカーネル更新を頼むと、次の順に進みます。1

  1. AIが、新しいカーネルのファイルの置き場所を技術者に尋ねる
  2. プログラムが、今のバージョンと新しいバージョン、動いているインスタンス、ディスクの空きを事前に確かめる
  3. チャットに計画が表で出る。この時点では、まだ何も変えない
  4. 技術者が承認すると、サーバーごとにバックアップ、停止、入れ替え、起動、確認の順に進む
  5. 結果をチャットに書き、監査ログに残す

起動の確認に失敗したら、バックアップから前のカーネルに戻します。1

BasisPilotでカーネルを更新するときの流れ 技術者が 更新を頼む AIが置き場所を尋ね、 プログラムが事前確認 計画を表で見せる まだ何も変えない 技術者が承認する サーバーごとに決まった順に進む バックアップ 停止 入れ替え 起動 確かめて記録に残す 起動の確認に失敗したら、バックアップから前のカーネルに戻す AIが書いた文章は、そのままサーバーへの命令にならない 出典:AWSのブログ(2026年11月5日)
BasisPilotでカーネルを更新するときの流れ。プログラムが事前の確認をして計画を見せ、技術者が承認すると、バックアップ・停止・入れ替え・起動・確認が決まった順に進む。起動の確認に失敗したら、前のカーネルに戻す。

試験運用の間、技術者は手順書を手で進める役から、承認した作業の流れを監督する役に変わったとのことです。1

どれだけ短くなったか(チームの見積もり)

トヨタ北米のチームが示した数字です。1

作業使う前使った後根拠
カーネル更新(1システムあたり)約2.5時間45分2026年5月の15件以上の経験
ファイルシステムの縮小3〜4時間約1時間2026年3月の30件以上の観察
運用情報を集めて調べる時間—少なくとも20%減チームの見積もり
システムの状態を問い合わせるチケット—推定25%減チームの見積もり(各チームが自分で状態を見られるようにした後)

45分は、15件以上の更新を経験したチームの見積もりです。技術者が手を動かした時間は、別には測っていません。1

チケットの減り方は、状態を聞く問い合わせだけの数字です。障害の件数や、直るまでの時間が減ったかは、この数字では分かりません。1

出典のブログは、BasisPilotが動くクラウドを提供しているAWSの技術者が、トヨタ北米のSAPチームと一緒に書きました。1

SAPを止めるときの順番と確認

BasisPilotは、アプリケーションのインスタンス、セントラルサービス、データベースの順に止め、頼まれたときはサーバーも止めます。1

アプリケーションが止まったと確かめてから、次へ進みます。データベースが止まったと確かめられなければ、サーバーは止めません。1

「命令を受け付けた」という返事は、成功に数えません。変わった後の状態を、その場で見て確かめます。1

サーバーへの入り方も絞っています。BasisPilotが行う操作ではSSH(離れた場所からサーバーに入る仕組み)を使いません。許可した命令だけを、AWS Systems Manager(システムズマネージャー)から送ります。1

SAPが動く別のAWSアカウントに入るときの権限は、15分で切れます。1

リスクの高い作業では、先にバックアップを取り、切り戻せるようにしておきます。ただし、すべての変更を元に戻せるわけではありません。1

更新の直後に、停止の操作が重なった

初期の社内テストで、AIに手伝わせた更新が成功し、システムが立ち上がった数分後のことです。

前に途中で止まっていた、ダッシュボードからの停止の作業がありました。その作業が自動でやり直され、立ち上がったばかりのシステムに停止の操作が重なりました。

AIの作業も、ほかの自動の処理と一緒に動く前提で組む必要がある、という教訓です。1

チームは、次の3つの仕組みを加えました。1

  • システムごとにロックをかけ、同時に1つの作業しか流さない
  • 再試行と承認に、有効期限を設ける
  • 作業の後に、状態をもう一度確かめる時間を設ける

成功の直後こそ危ない、というのは人の現場と同じなんです。

自社の基幹システムに当てはめるなら

AIの役目を聞き取りと案内までに区切り、変更は人が承認してから進めるようにした点は、ほかの会社でもまねしやすいと考えています。

  • AIが頼めるツールを、先に一覧にして数を決める
  • 本番の変更と戻せない操作は、人の承認を通す
  • 「命令を受け付けた」ではなく、変わった後の状態で成功を確かめる

AIに調べさせ、人が承認する分け方は、マレーシアの通信会社の例でも同じでした。AgentCoreの事例の記事にまとめています。

請求書の食い違いを任せた物流会社の例は、Worldwide Expressの記事にあります。

分析基盤への質問を任せたバイエルの農業部門の例は、バイエルの記事で読めます。

任せる前に、止める場所を決める。

出典

  1. AWS ブログ「トヨタはいかにして BasisPilot を構築したか – AWS 上の AI アシスト型 SAP 運用プラットフォーム」(2026年11月5日)(参照 2026-11-06)
  2. AWS for SAP Blog「How Toyota Built BasisPilot – an AI Assisted SAP Operations Platform on AWS」(2026年10月28日)(参照 2026-11-06)