要点
対象:SAPの保守をAIに任せられるか知りたい人
- AIが頼めるツールは決めた68種類だけ
- データベースが止まるまでサーバーは止めない
- 更新の直後に停止の操作が重なり、仕組みを3つ足した
会社の基幹システムの保守で、何時間も画面を行き来していませんか。
この記事の目次(7節)
トヨタ北米(北米トヨタ、Toyota Motor North America、トヨタ・モーター・ノースアメリカ)は、その段取りの一部をAIエージェントに手伝わせています。1
AIエージェントは、作業に合ったツールを選ぶAIです。BasisPilotでは、AIが選んだツールを、プログラムが確かめてから動かします。1
たとえばカーネル(SAPを動かす土台のプログラム)の更新では、AIが新しいファイルの置き場所を技術者に尋ねます。プログラムが事前の確認をして計画を見せ、技術者が承認すると、あとは決まった順に進みます。
トヨタ北米のチームは、この更新が約2.5時間から45分に短くなったと見積もっています。1
BasisPilotとは
BasisPilot(ベーシスパイロット)は、トヨタ北米のSAPチームが社内で作った運用の基盤で、監視からコストの確認まで扱います。売り物ではありません。1
BasisPilotで扱うのは、開発から本番までの20のSAPシステムで、サーバーは60台を超えます。1
これまで技術者は、ターミナル、SAP GUI、スプレッドシート、AWSのマネジメントコンソールを行き来していました。SAPの作業は、ふつうでも10〜90分かかり、数時間続く更新もあります。1
いや、画面を切り替えるだけで日が暮れるやつですよね。
AIと技術者の役割分担
AIと技術者のあいだに、手順の決まったプログラムが入ります。1
| 誰が | 何をするか |
|---|---|
| AIエージェント | 質問に答える・診断の結果を要約する・メンテナンスの時間帯をチャットで予約する・決まった作業の流れを案内する |
| 手順の決まったプログラム | 権限と入力を確かめる・許可した命令だけを実行する・結果を確かめて記録を残す |
| 技術者 | 本番環境の操作、複数のシステムが同居するデータベースサーバーの操作、元に戻せない操作を承認する |
AIが呼び出しを頼めるツールは、あらかじめ決めた68種類だけで、プログラムが確かめてから実行します。AIが書いた文章が、そのままサーバーへの命令になることはありません。1
AIが扱う範囲も絞っています。たとえば「バックアップの状態は?」とだけ聞くと、どのSAPシステムかを尋ねてきます。1
カーネル更新の流れ
技術者がカーネル更新を頼むと、次の順に進みます。1
- AIが、新しいカーネルのファイルの置き場所を技術者に尋ねる
- プログラムが、今のバージョンと新しいバージョン、動いているインスタンス、ディスクの空きを事前に確かめる
- チャットに計画が表で出る。この時点では、まだ何も変えない
- 技術者が承認すると、サーバーごとにバックアップ、停止、入れ替え、起動、確認の順に進む
- 結果をチャットに書き、監査ログに残す
起動の確認に失敗したら、バックアップから前のカーネルに戻します。1
試験運用の間、技術者は手順書を手で進める役から、承認した作業の流れを監督する役に変わったとのことです。1
どれだけ短くなったか(チームの見積もり)
トヨタ北米のチームが示した数字です。1
| 作業 | 使う前 | 使った後 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| カーネル更新(1システムあたり) | 約2.5時間 | 45分 | 2026年5月の15件以上の経験 |
| ファイルシステムの縮小 | 3〜4時間 | 約1時間 | 2026年3月の30件以上の観察 |
| 運用情報を集めて調べる時間 | — | 少なくとも20%減 | チームの見積もり |
| システムの状態を問い合わせるチケット | — | 推定25%減 | チームの見積もり(各チームが自分で状態を見られるようにした後) |
45分は、15件以上の更新を経験したチームの見積もりです。技術者が手を動かした時間は、別には測っていません。1
チケットの減り方は、状態を聞く問い合わせだけの数字です。障害の件数や、直るまでの時間が減ったかは、この数字では分かりません。1
出典のブログは、BasisPilotが動くクラウドを提供しているAWSの技術者が、トヨタ北米のSAPチームと一緒に書きました。1
SAPを止めるときの順番と確認
BasisPilotは、アプリケーションのインスタンス、セントラルサービス、データベースの順に止め、頼まれたときはサーバーも止めます。1
アプリケーションが止まったと確かめてから、次へ進みます。データベースが止まったと確かめられなければ、サーバーは止めません。1
「命令を受け付けた」という返事は、成功に数えません。変わった後の状態を、その場で見て確かめます。1
サーバーへの入り方も絞っています。BasisPilotが行う操作ではSSH(離れた場所からサーバーに入る仕組み)を使いません。許可した命令だけを、AWS Systems Manager(システムズマネージャー)から送ります。1
SAPが動く別のAWSアカウントに入るときの権限は、15分で切れます。1
リスクの高い作業では、先にバックアップを取り、切り戻せるようにしておきます。ただし、すべての変更を元に戻せるわけではありません。1
更新の直後に、停止の操作が重なった
初期の社内テストで、AIに手伝わせた更新が成功し、システムが立ち上がった数分後のことです。
前に途中で止まっていた、ダッシュボードからの停止の作業がありました。その作業が自動でやり直され、立ち上がったばかりのシステムに停止の操作が重なりました。
AIの作業も、ほかの自動の処理と一緒に動く前提で組む必要がある、という教訓です。1
チームは、次の3つの仕組みを加えました。1
- システムごとにロックをかけ、同時に1つの作業しか流さない
- 再試行と承認に、有効期限を設ける
- 作業の後に、状態をもう一度確かめる時間を設ける
成功の直後こそ危ない、というのは人の現場と同じなんです。
自社の基幹システムに当てはめるなら
AIの役目を聞き取りと案内までに区切り、変更は人が承認してから進めるようにした点は、ほかの会社でもまねしやすいと考えています。
- AIが頼めるツールを、先に一覧にして数を決める
- 本番の変更と戻せない操作は、人の承認を通す
- 「命令を受け付けた」ではなく、変わった後の状態で成功を確かめる
AIに調べさせ、人が承認する分け方は、マレーシアの通信会社の例でも同じでした。AgentCoreの事例の記事にまとめています。
請求書の食い違いを任せた物流会社の例は、Worldwide Expressの記事にあります。
分析基盤への質問を任せたバイエルの農業部門の例は、バイエルの記事で読めます。
任せる前に、止める場所を決める。
