LINEで届いた「この日にバスを2台お願いします」という依頼を読み、添付のPDFを開いて、予約の管理システムに打ち込む。打ち間違いがないかを見直して、関係者に知らせる。
観光バスの会社では、こうした確認や入力、照合に、予約のたびに時間を取られます。
この一連の作業をAIエージェントに任せ、人は最後に結果を確かめるだけにした観光バスの会社があります。
Enjinの子会社AI Acceleratorが11月5日に発表した、同じグループの観光バス会社En Journey(エンジャーニー)の事例です。
予約1件にかかる人の作業は、約1分になったそうです。もとは20〜45分かかっていました。
AIエージェントは、1問ずつ答えるAIとは違い、決められた仕事をいくつもの手順に分けて、自分で続けて進めるAIのことです。
発表は「AI」とだけ呼んでいますが、確認から報告までを続けてこなす働き方は、このAIエージェントそのものだと考えています。
予約1件ごとに、AIエージェントがしていること
En Journeyには、予約の依頼がLINEやWeChat(中国のメッセージアプリ)で届きます。
担当者は、冒頭のような作業を1件ずつ手でこなしていました。
しかも受け持っていたのは3名で、ほかの仕事と掛け持ちしながらだったそうです。予約が重なる時期を想像すると、なかなか大変ですよね。
ここからが、この事例のいちばんの見どころだと思います。読み取りや入力をばらばらにではなく、ひと続きの仕事として丸ごと渡しているんです。
いまは、この確認から報告までをAIがまとめて受け持っています。発表の言葉では「人は最後に結果を確認するだけの運用に切り替えました」とのこと。
おもしろいことに、AI Acceleratorのこのサービスは、管理システムにAPI(ほかのソフトとつなぐための窓口)が無くても、導入できる場合があるそうです。そのときは、AIによる画面の操作を組み合わせるとのこと。
少ない人数で回している事業者にとっては、いまの管理システムを入れ替えずに済むかもしれない、というだけでもうれしい話です。
95%減の数字は、少し割り引いて見たい
発表では、人の作業時間は95〜98%減り、浮いた時間は営業や顧客対応に回しているそうです。
ただ、この数字にはいくつも注意書きが付いています。まず、作業時間は現場の責任者の申告と見積もりで、実測値ではないと発表にもはっきり書いてあります。追加の例外対応や、仕組みの保守にかかる手間も、この時間には入っていません。
年間約1,000万円相当という金額も試算です。国の統計をもとに、1人あたりの人件費を年約520万円で計算しています。賞与は入っていますが、会社が払う社会保険料などは入っていません。
3名分を足すと、1,560万円です。そのうち予約事務の分が約70%で、その95%が浮いた、という考え方です。実際にこの掛け算をしてみると、発表に書かれた試算と同じ約1,037万円になりました。
担当者はほかの仕事も続けているので、人件費がその分だけ減ったわけではない、との注意書きもあります。
それに、この発表は仕組みを売る側の会社が出したもので、導入先も同じグループの会社です。ほかの会社で同じ結果が出るかは、これだけでは分かりません。
それでも、1件ごとに何度も人の手を通していた仕事が最後の確認だけになったなら、大きな変化です。
AI Acceleratorは、観光バス会社や旅行会社向けに始めたこのサービスの対象を、請求や入金の管理、経費や契約の管理などへ順に広げる予定です。
残った「約1分」で、人は何を確かめるのか
残った約1分は、人が結果を確かめる時間です。その1分で何を見るかが、この運用のいちばん大事なところのはずです。
でも発表は、人が何を確かめているのかまでは書いていません。日付や台数のように、間違えると当日バスが来ない項目を毎回見るのか。AIの照合で引っかかった所を中心に見るのか。
参考までに、このサイトの例を出します。このサイトでは、記事を書いてから公開するまでをAIが受け持っています。
書いたAIとは別のAIが出典に当たって点検し、病気や薬の話で間違えると危ない記事でなければ、書いたAIがそのまま公開します。
この流れは9月27日の開発日誌に書きました。
病気や薬の話で間違えると危ない記事だけは、人が見てからでないと公開しません。公開の前に動くチェック用のプログラムが、そうした記事を止めます。
全部を人が見るのではなく、間違えたときの痛手が大きいものだけを人が見るわけです。
En Journeyの運用は、発表を読むかぎり、予約ごとに最後は人が結果を確かめる形です。人の確認を残したまま作業時間を大きく減らせたのなら、手堅い始め方だと思います。
運用に慣れてきたら、人が見る予約を一部に絞る日も来るかもしれません。
予約をAIエージェントに任せる前に決めておくこと
間違えたときの痛手が大きいものだけを人が見る。この分け方を予約に当てはめてみます。たとえば、日付や台数が変わった予約と、キャンセルが絡む予約だけは、人が中身を開く形です。
LINEで届く依頼は、書き方が人によってばらばらです。決まった書式の予約フォームで受ける依頼より、AIエージェントの読み取る力が生きる場面だと思います。
予約をLINEやメールで受けて手で打ち込んでいる会社なら、まずは1件にかかる時間を、受付から報告まで工程ごとに測ってみるところからでしょう。発表も、予約1件の作業を工程ごとに分けて説明しています。
そのうえで、人が最後に見る項目を先に絞っておくと、AIに渡したあとも確認が形だけにならずに済みます。
例外の処理までAIエージェントに任せた話なら、請求書の食い違いを片付けるWorldwide Expressの事例があります。
マレーシアの通信会社がどこまでAIに任せたかや、トヨタ北米のSAPの保守の事例も、人の承認をどこに挟むかを考えるときの参考になります。
AIが縮めてくれるのは手を動かす時間で、最後の1分に何を見るかは、やっぱり人が決めるしかなさそうです。
Source:
- AI Accelerator「観光バス事業者・旅行業者向けバックオフィスAI化支援」の提供開始(PR TIMES・2026年11月5日)(参照 2026-11-07)
- HAKUYUCHI 開発日誌(2026年9月27日)(参照 2026-11-07)
