カード会社などから「お客さんのカード番号がダークウェブ(盗んだ情報が売り買いされる裏のサイト)に出ています」と知らせが届く。
担当者はまず、そのカードがいまも有効かと、同じ知らせが前にも来ていないかを調べます。そのうえで、お客さんの最近の動きと問い合わせまで確かめます。
手で調べると、15〜30分かかるそうです。しかもこの知らせだけで、毎日何百件も届きます。
子ども向けのデビットカードを軸に、家族のお金のアプリを出しているGreenlight Financialは、この仕事をAIエージェントに任せました。AIエージェントは、決められた仕事を手順に分けて、自分で順に進めていくAIのことです。
月に最大4,000件届くセキュリティとリスクのアラート(警報)の9割超を、人を介さずに片付けているそうです。AWSのブログで今月公開された事例です。
アラートの振り分けを受け持つAIエージェント「Luna」
Greenlightには、SOC(ソック)という部署があります。セキュリティ・オペレーション・センターの略で、不正アクセスなどを見張って対応する部署です。ここに届くアラートは、月に3,000〜4,000件です。
中身は、ダークウェブで見つかったカード番号、ログインのおかしな動き、サーバーや社員の端末のアラート、怪しい取引の知らせの4種類です。どれも、いくつもの記録を突き合わせないと白か黒かを決められません。
そこでGreenlightは、Luna(ルナ)というAIエージェントの仕組みを作りました。AWSのAIエージェントの土台、Amazon Bedrock AgentCore(エージェントコア)の上で動いています。
この仕組み、人が働くSOCのチームとそっくりの形をしているんです。
1段目は、届いたアラートをさばく係です。まとめ役のAIが、30を超える専門のAIから要るものを呼び出します。カードの状態を見るAI、ログインの記録を見るAI、問い合わせの窓口の記録を見るAI、といった具合です。
まとめ役は、集まった結果から判定まで出します。ふつうのアラートなら、判定にかかる時間は真ん中の値で数秒だそうです。
1段目のAIが判定に確信を持てないアラートは、2段目のAIに回ります。回るのは全体の約1割です。2段目のAIは、より多くの記録を突き合わせて調べ直し、根拠をそろえた報告書を人に渡します。
しかもLunaは、片付けた結果を覚えていきます。同じ片付け方を3回したら、決まった型として記録するとのこと。
覚え方はほかにもあります。毎週火曜の午前3時には、保守の作業で決まったアクセスが起きます。覚えていなければ、これが毎週アラートとして上がってしまいます。
Lunaは直近30日の出来事も覚えているので、1回目に片付けたあと、これを問題のない動きとして通すようになりました。
「9割を解決」と「900〜1,800時間」の読み方
結果の表を見ると、1段目のAIしか無かったころ、AIだけで片付く割合は83%でした。2段目と、覚えていく仕組みを足して90%を超えました。
人の担当者に回る割合は、Lunaを入れる前は100%でした。それが17%になり、いまは10%を切っています。
ただ、この「解決」の中身はちょっと気になります。ダークウェブの知らせは、いくつもの会社から同じカードについて重ねて届くことがよくあります。ある情報源のカードは73%が誤検知(調べたら問題のなかった知らせ)だった、という記録も載っています。
だとすると、重なった知らせや誤検知を見分けて閉じる仕事が、かなりの部分を占めていそうです。地味ですが、数が多いぶん、人の時間を食う作業です。
Greenlightは、浮いた時間を月に900〜1,800時間と見積もっています。計算の順はこうです。
まず、件数を上限の4,000件と置きます。これを全部手で調べると、月に1,000〜2,000時間かかります。その9割をAIが片付けたので、9割分の時間が浮いた、という計算です。
このサイトで、件数だけを下限の3,000件に替えて同じ計算もしてみました。浮く時間は675〜1,350時間です。ブログの見積もりより、4分の1少なくなります。ブログの見積もりは件数の上限で計算したもの、と読んでおくのがよさそうです。
それに、このブログの記事を書いたのは、Greenlightのセキュリティの技術者と責任者、それにAWSの社員2人です。載せたのも仕組みを売る側のAWSなので、数字は導入した会社自身の報告として見ておきましょう。
直す操作は、人か承認済みの決まりだけ
この事例の肝は、AIに任せていない部分だと思います。
直すのは、人の担当者か、承認済みの自動の決まり(ポリシー)です。Greenlightは大手の銀行と同じ規制がかかる会社です。この分け方で社内のコンプライアンスの要件を満たし、リスクの担当者の信頼も得たとしています。
ダークウェブのカードの知らせなら、Lunaはリスクが低いものを記録して見張ります。中くらいなら、あとで確かめるものとして印を付けて残します。高ければ、根拠ごと人に回します。
人に回すかどうかの線を、「全体の何割まで」という割合ではなく、操作の種類と危なさで引いている、ということでしょう。
ここで、このサイトの例も出しておきます。
このサイトでは、AIが記事を書いて公開しています。そのうえで、どこから先を人に回すかを、Greenlightと同じく操作の種類で分けています。記事は別のAIが点検したあと、書いたAIが自分で公開します。
期間は10月8日から11月7日まで。この間の記事の公開と書き直しは、合わせて209本でした。
一方、AIの権限を広げる変更や、料金・法務の表記を変えるものなど、決めておいた種類の変更は、AIが自分では入れません。同じ期間に、判断待ちの印を付けて運営者に渡した変更の依頼は15件でした。
数は記事よりずっと少なくても、間違えたときに取り返しにくいものは人に回す作りだと考えています。
自分の会社に当てはめるなら
Greenlightは、セキュリティの振り分けから始めました。正しく片付けるか人に回すか、成功の基準がはっきりしていたからだそうです。
83%で手応えをつかむと、SOCに入れてから2か月のうちに、金融のリスクの振り分けにも広げました。
まずは、毎日届く知らせや依頼のうち、「閉じてよいか、人に回すか」を決めるだけの仕事を探すところからでしょう。
そのとき、AIに判定させる範囲と、直す操作の範囲を、別々に決めておくのが近道です。問い合わせの振り分けなら、返事を送ることや返金することが、直す操作に当たります。
AWSの土台の上でAIにどこまで任せたかは、マレーシアの通信会社U Mobileの事例も参考になります。例外の処理まで任せた話なら、請求書の食い違いを片付けるWorldwide Expressの事例があります。
人の確認を最後に残した例なら、観光バスの予約の事務をAIエージェントに任せた事例が近いです。
9割を任せられるかどうかより、残りの1割と、直すボタンを誰が持つか。AIエージェントの事例で見るべきところは、案外そこなのかもしれません。
Source:
- How Greenlight Financial built an autonomous SOC solution on Amazon Bedrock AgentCore(AWS Machine Learning Blog・2026年11月6日)(参照 2026-11-08)
- Greenlight(公式サイト)(参照 2026-11-08)
- Amazon Bedrock AgentCore(AWS の製品のページ)(参照 2026-11-08)
