要点

対象:AIに聞いて済ませることが増えた職場

  1. 316人の実験ではやりとりする同僚が増えた
  2. AIをよく使う人ほど仕事上のつながりが少ない
  3. AIの答えに詳しい人の名前を添える

生成AIで同僚とのつながりが増えたという研究と、AIをよく使う人ほど仕事上のつながりが少ないという研究が、2026年に相次いで出ました。

この記事の目次(5節)
  1. 2026年の2つの研究は、逆の向きを示した
  2. 新しい情報は、たまに会う人から届きやすい
  3. ここから先は想像です
  4. この未来が近づくなら、先に現れる兆し
  5. 自社で試せること

人と人とのつながりを、社会学では「紐帯(ちゅうたい)」と呼びます。AIが「ちょっと聞く」相手の代わりになったとき、職場のどのつながりが細るのか。社会学の「弱い紐帯の強さ」という考え方から、その先を想像します。

2026年の2つの研究は、逆の向きを示した

社内の資料を読み込ませたAIを3か月使った実験

1つ目は、ドイツのマンハイム大学などの研究者が、中欧のITサービス会社で行った実験です。316人が働く42のチームを、AIを使うチームと使わないチームに、くじで分けました。1

AIを使うチームには、社内の資料を読み込ませたAIアシスタントを用意しました。3か月後には、使わないチームより、一緒に仕事をした同僚も、担当の商品について助言を求めた同僚も増えていました。1

AIが専門の違う人どうしの話を補い、話が通じやすくなったためだと、著者たちはみています。1

ただし、つながりの数は社員へのアンケートの答えから数えました。調べたのは1社で、期間も3か月だけです。論文は、まだ学術誌の審査を通っていません。1

AIをよく使う人ほど、仕事上のつながりが少なかった調査

2つ目は、中国の大学の研究者が、IT企業で働く561人を調べた研究です。時期をずらして、同じ人に2回尋ねました。2

AIをよく使う人ほど、仕事上のつながりが少なく、気持ちを支え合うつながりが多い傾向がありました。2

こちらは学術誌に載った論文です。ただ、くじで分けた実験ではないので、AIを使ったせいでつながりが少ない、とまでは言えません。2

AIに悩みを相談する人が増えると職場がどうなるかについては、仕事の悩みを最初に相談する相手の記事で考えました。

新しい情報は、たまに会う人から届きやすい

米国の社会学者マーク・グラノヴェターは1970年、ボストン郊外に住むホワイトカラーの男性282人に、いまの仕事をどう見つけたかを聞きました。3

すると、いつも会う人より、まれにしか会わない人から、役に立つ仕事の情報を得ている人が多くいました。3

いつも会う人どうしは、同じ情報を持ちやすいものです。新しい情報は、別の集団とつながる、たまに会う人から届きやすいと、グラノヴェターは考えました。1973年に、この考えを「弱い紐帯の強さ」という論文にまとめています。3

ここからは、いつも会う人とのつながりを「強いつながり」、たまに会う人とのつながりを「弱いつながり」と書きます。

弱い紐帯の強さ 集団A 集団B たまに会う間柄 新しい情報を橋渡しする 太い線=強いつながり(いつも会う人どうし) 点線=弱いつながり(たまに会う人どうし) 出典:渡辺深『日本労働研究雑誌』2016年4月号の図をもとに作成
グラノヴェターの「弱い紐帯の強さ」の考え方。2つの集団を結ぶのは、たまに会う人どうしの弱いつながりだけで、別の集団の新しい情報はここを通って届く。

LinkedInの2,000万人超の実験でも確かめられた

ビジネス向けのSNSのLinkedInと、米国の大学の研究者が、5年にわたる複数の実験でこの考え方を確かめ、2022年に発表しました。知り合いを勧める機能で、勧める相手のうち弱いつながりの人の割合を、利用者ごとにくじで変えています。4

対象は2,000万人を超えます。5年の間に、利用者の転職は60万件ありました。4

弱いつながりは転職に結びつきましたが、弱ければ弱いほどよいわけではありませんでした。共通の知り合いが少しいる、ほどほどに弱いつながりが、最も多くの転職に結びついていました。4

業界によっても違いました。デジタル化の進んだ業界では弱いつながりが、そうでない業界では強いつながりが、転職に結びついていました。4

東京の転職では、強いつながりが役立った時期もある

上智大学の渡辺深氏(2016年の時点で教授)は、東京の男性の転職を、時期を変えて2回調べました。1985年の調査では、強いつながりを使って職を得た人のほうが、年収も仕事の満足度も高い結果でした。3

2002年の調査では逆に、弱いつながりを使って転職した人のほうが、年収が上がっていました。1985年からの17年で、失業率が上がり、非正規で働く人も増えました。渡辺氏は、この変化が理由ではないかと考えています。3

在宅勤務で、部署をまたぐつながりが減った

米マイクロソフトは2020年、全社で在宅勤務に切り替えました。その間の米国の社員6万人余りのメールや会議の記録を、マイクロソフトの研究者らが分析しました。5

在宅勤務になると、社員がやりとりする相手は顔ぶれが固まり、部署の中に閉じがちになりました。離れた部署どうしを橋渡しするつながりも減りました。新しい情報を得たり広めたりしにくくなるおそれがあります。5

ここから先は想像です

職場の「ちょっと聞いていい?」は、答えをもらうだけの会話ではなかったと思います。経費の扱いを隣の部署に聞いたついでに、その部署の困りごとが耳に入る、ということもあったはずです。

AIに聞けば済むようになると、まずこうした声かけが消えていきそうです。在宅勤務の研究で見えたように、部署をまたぐ弱いつながりが、知らないうちに細るかもしれません。

5年もすれば、入社して数年の人が、ほかの部署の誰に何を聞けばよいかを知らないままになりそうです。困ったときに思い浮かぶのがAIだけなら、社内の新しい案件の話も届きにくくなるでしょう。

先輩に聞く機会が減ると、難しい技能が受け継がれにくくなる、と技能が失われる順番の記事で考えました。

AIが人を紹介する使い方

ただ、AIの作り方しだいで逆にもできるはずです。LinkedInの実験のように、人を勧める仕組みは、弱いつながりを増やすようにも作れます。

社内のAIも、答えのあとに「この件は経理の〇〇さんが詳しい」と人を紹介するように作れます。答えるだけでなく、ほかの部署の人と話すきっかけも渡すAIです。

10年後には、社内のAIが、ほどほどに弱いつながりの人どうしを引き合わせるのが当たり前になっているかもしれません。どちらになるかは、会社がAIに何をさせるかで決まりそうです。

一緒に働くAIが増えたときに、人が気を配れる相手の数については、ダンバー数の記事で考えました。

この未来が近づくなら、先に現れる兆し

弱いつながりが細っていくなら、次のことが先に見えてくるはずです。

  • 社内のチャットで、部署をまたぐ質問の数が減っていく
  • 新人の研修に、ほかの部署の人と話す時間をあえて組み込む会社が増える

社内のAIが人を引き合わせる方に進むなら、次のことが見えてくるはずです。

  • 社内のAIが、答えと一緒に、詳しい人や担当の部署を示すようになる
  • ほかの部署に知り合いが何人いるかを、面談で話題にする会社が出てくる

自社で試せること

この1週間にAIに聞いて済ませた仕事の質問を、3つ書き出し、前なら誰に聞いていたか、その人の名前を横に添えてみてください。

名前が浮かんだ人に、AIの答えを見せて「これで合っていますか」と聞くと、答えを確かめながら、その人と話すきっかけにもなります。

AIの答えを社内で共有するときは「詳しいのは〇〇さん」と一言添えておくと、人の名前が社内に残ります。

出典

  1. Büchsenschuss・Koch-Bayram・Biemann・Puranam「The Impact of Generative AI Adoption on Organizational Networks: Evidence From A Field Experiment」(INSEAD Working Paper 2026/01/STR)(参照 2026-10-15)
  2. Zhang・Yan「Understanding artificial intelligence usage and knowledge sharing: The social ties perspective」(Acta Psychologica 266, 2026)(参照 2026-10-15)
  3. 渡辺深「グラノヴェター『転職─ネットワークとキャリアの研究』」(日本労働研究雑誌 No.669、2016年4月)(参照 2026-10-15)
  4. Rajkumar・Saint-Jacques・Bojinov・Brynjolfsson・Aral「A causal test of the strength of weak ties」(Science 377, 2022)(参照 2026-10-15)
  5. Yangほか「The effects of remote work on collaboration among information workers」(Nature Human Behaviour 6, 2022)(参照 2026-10-15)