米国では、仕事の悩みを最初に相談する相手に生成AI(以下AI)を選んだ人が約3割となり、上司と並びました。 日本は約1割にとどまりました。 人に相談しない理由では、日米とも「相手に迷惑がかかる」が多く挙がっています。 頼みごとをためらう心理を調べてきた社会心理学の研究をもとに、AIに相談する人が増えると職場の相談はどう変わるかを考えます。

この記事の目次(6節)
  1. 最初の相談相手、日米で分かれる
  2. 頼みごとは思うより通り、機械には打ち明けやすい
  3. 聞きやすいチームほど、学び合いが多い
  4. ここから先は想像です
  5. この未来が近づくなら、先に現れる兆し
  6. 自社で試せること

最初の相談相手、日米で分かれる

インディードリクルートパートナーズは2026年3月、日米の就業者を対象にインターネットで調査し、9月1日に結果を発表しました。 対象は日本と米国に住む20〜59歳の会社員・会社役員で、有効回答数は日米各1万304人、計2万608人です。1

最初に相談する相手を1つ選ぶ設問では、日米で結果が分かれました。 日本では「同僚」と「上司」がおおむね3割ずつで並び、「友人・家族」が約2割、「生成AI」は約1割で4位でした。 米国では「上司」と「生成AI」がおおむね3割ずつで並び、「同僚」の2割強を上回りました。1

相談しない理由は「相手に迷惑」

人に相談しないことがあると答えた人に理由を聞くと、日米とも「相手に迷惑がかかる(かもしれない)」が上位でした。 日本では「相談しても変わらない/意味がない」が目立ち、米国では「評価に影響する(かもしれない)」「機密が漏れるのではないか」が多く選ばれています。 同社は、日本では「あきらめ」、米国では「リスク回避」が理由の中心だと分析しています。1

米国では「人への相談が増えた」が約半数

AIを使うようになって、上司や同僚への相談の頻度がどう変わったかも尋ねています。 日本では「変わらない」が約7割で、約2割が「少し減った」と答えました。 米国では「変わらない」と「少し増えた」がそれぞれ約3割で、「とても増えた」と答えた人も2割ほどいました。 米国では、合わせて約半数が人への相談が増えたと答えたことになります。1

同社は推測と断ったうえで、この結果に次のような見立てを示しています。 AIに相談できるようになって相談の件数そのものが増え、最後に決める場面では人が要るため、人への相談も増えているのではないか、というものです。1 ただ、1時点の調査なので、AIを使ったから人への相談が増えたのかどうかまでは分かりません。

頼みごとは思うより通り、機械には打ち明けやすい

ここでは2つの研究を紹介します。 いずれも生成AIが広まる前の実験です。

頼めば、思った以上に引き受けてもらえる

米国のフリンらは2008年、人は頼みごとを引き受けてもらえる見込みを低く見積もりがちだとする論文を発表しました。 論文にまとめた3つの実験では、実験室と実際の街中の両方で、頼む側がこの見込みを実際より最大で50%低く見積もっていました。 論文は、頼む側が引き受ける手間ばかりに目を向け、断るときの気まずさを見落としていたと分析しています。2

この論文の共著者のボーンズ(2008年の論文ではレイク姓)は2016年、一連の研究を総説論文にまとめました。 研究の参加者が頼みごとをした相手は、延べ1万4000人を超える見知らぬ人でした。 頼む側は、引き受けてもらえる見込みを平均で48%低く見積もっていました。 同時にボーンズは、この傾向が強まる条件や弱まる条件、逆になる条件もあると指摘しています。3 これらは見知らぬ人への頼みごとを調べた実験で、職場の同僚や上司への相談を調べたものではありません。

人が見ていないと思うと、打ち明けやすい

南カリフォルニア大学のルーカスらは2014年、画面に映るCGの面接官を使った実験の結果を発表しました。 参加者は、米国の地域情報サイト「クレイグスリスト」で募った18〜65歳の239人です。4 研究チームは、健康状態を尋ねる面接の前に、参加者の一部には「面接官は完全に自動で動いている」と伝えました。 別の参加者には「別の部屋の人が操作している」と伝えました。

自動だと伝えられた人は、人が操作していると伝えられた人に比べ、自分を取り繕う傾向が弱く、打ち明けることへの不安も小さいという結果でした。 悲しみを強く表し、第三者の評価でも、より多くを打ち明けていると判定されました。5 相手が機械だと、評価を気にせず話しやすいとみられます。 ただし、実験は1回きりの面接で、職場で毎日使うAIに同じことが言えるかは分かっていません。

聞きやすいチームほど、学び合いが多い

ハーバード大学のエドモンドソンは1999年、製造業の1社で51のチームを調べ、チームの「心理的安全性」という考え方を実証研究で打ち出しました。 チームの中では対人関係のリスクを取っても安全だと、メンバーが共有している考えのことです。 心理的安全性が高いチームほど、学び合いの行動が多く、それがチームの成果につながっていました。6 これも1時点の調査なので、心理的安全性が学び合いを生んだとまでは言い切れません。

ここから先は想像です

職場でAIに相談する人が増えると、相談の形が変わるのかもしれません。 いまは多くの人が「こんなことを聞いたら迷惑かも」と、人に聞くのをためらっています。 その手前に、気兼ねなく話せる相手が一つ加わります。

例えば、見積もりの出し方で迷っている入社1年目の営業担当がいるとします。 今のままなら、忙しそうな先輩に声をかけられず、自己流で出してしまうかもしれません。 AIに相談できれば、まず何が分からないのかを整理できます。 「この条件のときの値引きの考え方だけ教えてください」と、短い質問にして先輩に聞けるようになるかもしれません。

一方で、日本では別の道をたどる可能性もあります。 「相談しても変わらない」と感じている人は、AIに愚痴をこぼして、それで終わりにするかもしれません。 すると、職場の困りごとが上司や会社に届きにくくなるかもしれません。 会社が、社員の突然の退職で初めて問題に気づくこともありそうです。

会社はそこで、社員がAIに何を相談しているかを知りたくなるでしょう。 ただ、前半の実験を当てはめると、ここに落とし穴があります。 人が見ていないと思うから打ち明けやすいのであって、会社が読むと分かれば、社員はAIにも本音を書かなくなるかもしれません。 記録の扱いを決めておくことが、AIへの相談を職場で生かす条件になりそうです。

10年ほど先には、AIが「この件は誰に聞くとよいか」を教える仲介役になっているかもしれません。 前半で見たように、頼む側は、引き受けてもらえる見込みを低く見積もりがちです。 AIが「経理の○○さんは同じ件を先月片付けています」と教え、頼む文面の下書きまで作ってくれれば、声をかけるときのためらいは小さくなるかもしれません。 AIが、人と人をつなぐ役を担う職場もありうるのではないでしょうか。

この未来が近づくなら、先に現れる兆し

  • 同様の調査で、日本でも「AIを使うようになって人への相談が増えた」と答える人の割合が上がる
  • 社内の生成AI利用ガイドラインに、社員がAIに入力した相談の記録を誰が見るかを定める項目が入り始める
  • 企業向けのAIサービスに、質問の内容から詳しい社員を紹介する機能が加わる
  • 社内研修で、1on1(上司と部下の定期的な面談)の前にAIで話すことを整理するやり方が紹介される

自社で試せること

社内でAIを使っているなら、やり取りの記録を会社の誰がどこまで見るのかを、まず確かめてみてください。 決まっていなければ、それを決めて社員に伝えるだけでも、AIへの相談のしやすさは変わるかもしれません。 入力してはいけない情報の決め方は、社員が私用の生成AIに個人情報を入力した場合の対応を扱った記事が参考になります。

次の1on1で、部下に「最近、人に聞かずにAIで済ませたことは何か」と尋ねてみるのも一つの手です。 AIで片付いたことと、AIでは片付かずに誰にも聞けなかったことが分かれば、職場のどこで相談が止まっているかが見えてきます。 新人の質問に答えるときのAIの使い方は、看護の現場を例にした記事で取り上げました。

AIの答えをどこまで信じるかは、AIへの過信と不信を心理学から考えた記事で扱っています。 人に聞かずに済ませることが続くと技能継承がどうなるかは、進化人類学から考えた記事にまとめました。

出典

  1. インディードリクルートパートナーズ「生成AIは道具から同僚へ」AIと仕事に関する日米実態調査(就業者編)(2026年9月1日)(参照 2026-09-30)インターネットモニター調査。性別・年齢・職種で割り付け。割合は発表の文中の概数。
  2. Flynn, Lake「If you need help, just ask: Underestimating compliance with direct requests for help」(Journal of Personality and Social Psychology, 2008)(参照 2026-09-30)95巻1号、128〜143ページ。「最大で50%」は論文の要旨の表現。
  3. Bohns「(Mis)Understanding Our Influence Over Others: A Review of the Underestimation-of-Compliance Effect」(Current Directions in Psychological Science, 2016)(参照 2026-09-30)25巻2号、119〜123ページ。「平均で48%」は論文の要旨の表現。
  4. Neuroscience News「Virtual Humans Inspire Patients to Open Up」(南カリフォルニア大学の発表の転載、2014年)(参照 2026-09-30)論文の著者が所属する南カリフォルニア大学の発表を転載した記事。
  5. Lucas, Gratch, King, Morency「It's only a computer: Virtual humans increase willingness to disclose」(Computers in Human Behavior, 2014)(参照 2026-09-30)37巻、94〜100ページ。
  6. Edmondson「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」(Administrative Science Quarterly, 1999)(参照 2026-09-30)44巻2号、350〜383ページ。

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