要点
対象:AIエージェントを増やし始めた職場の管理職
- SOMPOは数か月でエージェント1万個超
- 150人の根拠に再計算で異論(約16〜109人)
- エージェントごとに担当者を決める(筆者)
Google Cloudは2026年10月8日、仕事用のAI「Gemini agent」を発表し、チームの一員として働く「同僚エージェント」を紹介しました。1
同僚エージェントには名前とメールアドレスがあり、社員はチャットのグループに加えたり、メンションで呼びかけたりできます。1
AIの同僚が増えたとき、1人が気を配れる相手の数がどう変わるかを、「ダンバー数」とその批判から考えます。
同僚エージェントは自分の名義で働く
同僚エージェントは、使う人の名義ではなく、自分の名義で動きます。 見られるのは、人が共有した情報だけです。エージェントが直した箇所は、文書の変更履歴にエージェントの名前で残ります。1
発表では、Gemini agentの使い方の例として、チームの進行役のように働く使い方や、財務部門の分析担当のように1つの役割を受け持つ使い方を挙げています。1
AIに名前を付けて社員として迎える会社は、日本にもあります(名前を付けたAIを職場に迎えた例の記事)。
SOMPO、社員が作ったエージェントが1万個超
SOMPOホールディングスは2026年1月、「SOMPO AIエージェント」をグループの全社員3万4000人に展開しました。 Google Cloudの企業向けAI「Gemini Enterprise」を使ったものです。2
社員が業務に合わせて設定したエージェントは、数か月で1万個を超えたといいます。 導入から半年で、週に1回以上使う社員は8割を超えたといいます。2
単純に割ると、社員3〜4人に1つです。
従業員を置かず、AIエージェントが実務を担う会社も生まれています(HENNGE AIの記事)。
付き合える相手は約150人までとする説
ダンバー数は、オックスフォード大学の進化心理学者ロビン・ダンバーが示した数です。 ダンバーは1993年の論文で、霊長類では、脳に占める大脳新皮質の割合が大きい種ほど、群れの規模が大きいことに注目しました。3
この関係を式にし、人の大脳新皮質の割合を当てはめて出した数が、約150人です。 ダンバーは、ただの知り合いではなく、継続して付き合いのある相手の数だと説明しています。6
同じ論文では、言葉の役割も論じています。3
霊長類のうち、旧世界ザルと類人猿では、群れが大きいほど毛づくろいにかける時間も長くなります。 ダンバーは、人ほどの大きな集団になると毛づくろいだけでは時間が足りず、言葉がその代わりに発達したのではないかと考えました。3
人がつくる集団の段
ジョウ(Zhou)らは2005年、ダンバーも著者に加わった論文で、人がつくる集団の大きさがいくつかの段に分かれると報告しました。4
文献から集めた61件の集団の大きさを調べると、平均で約5人、約15人、約40人、約130人となり、ほぼ3倍ずつ大きくなっていました。さらに外側にも段がありました。4
2003年に英国の42人のクリスマスカードの送り先を調べた別の研究のデータでも、ほぼ3倍ずつという近い比率が出ています。4
150人の根拠を疑う論文
ストックホルム大学などのリンデンフォースらは2021年、霊長類の脳と群れの規模のデータを増やし、2通りの統計の方法で、人の集団の大きさを推定し直しました。5
推定値は方法と使ったデータによって約16人から約109人までばらつきました。5
1つひとつの推定値の幅(95%信頼区間)も広く、最も広いものは約5人から520人でした。5
リンデンフォースらは、この方法では、人がつくれる集団の上限は出せないと結論づけました。 論文の結びには、無駄かもしれないとしながらも、研究者も報道も「ダンバー数」を使わなくなってほしい、と書いています。5
ダンバーの反論
ダンバーは同じ月に、一般向けのニュースサイト「The Conversation」に反論を寄せました。6
ダンバーの主張では、批判側の回帰分析の方法は、この種のデータでは傾きを小さく出してしまいます。同じデータでも、その方法なら71人、自分の方法なら158人になるといいます。6
同じ寄稿で、ごく親しい友人は5人ほどしか保てない一方、名前を知っている相手は1500人ほどまでいる、とも書いています。6
150人という数が正しいかどうかの論争は、まだ決着していないと筆者は見ています。 そのうえで、150という数よりも、親しい層ほど人数が少ないという考え方のほうを、職場を考える手がかりにしたいと考えます。
ただし、段の研究にもダンバー自身が加わっています。150人への批判が段の考え方にどう影響するかは、今回調べた範囲では確かめられませんでした。
題名の問いに戻ると、ダンバー数は人どうしの付き合いの数で、AIエージェントは数に入っていません。 30人ほどの会社なら、150人という上限より、毎日話す数人の段のほうが関わってくると筆者は考えます。
ここから先は想像です
ここからは、AIエージェントも人と同じ段に入ると仮定します。 毎日やり取りをして、仕上がりを確かめ、ときどき指示を出し直す相手なら、人は同僚エージェントにも同じように気を配ることになりそうです。
いちばん内側の段に入る相手を5つまでとすると、毎日話す上司や同僚のあいだに、エージェントが2〜3個割り込むことになります。 そうなれば、人の同僚に向ける注意はそのぶん減るでしょう。
SOMPOのようにエージェントが1万個もあれば、その多くは、図の段のさらに外側にある、名前を知っているだけの1500人ほどの層に近いものになりそうです。
作った人が異動したり辞めたりすると、誰も面倒を見ていないエージェントが社内に残るおそれがあります。
技能が受け継がれるかどうかには、教える人と学ぶ人の数が関わる、という研究もあります(技能が失われる順番の記事)。
内側の段がエージェントで埋まると、若手が先輩から学ぶ機会も減っていくかもしれません。
一方で、毛づくろいの代わりに言葉を使うことで集団が大きくなった、というダンバーの考えを当てはめると、逆の見方もできます。
AIが同僚の近況をまとめたり、取引先とのやり取りを覚えていたりすれば、1人が気を配れる相手の数は、言葉が生まれたときのように増えるのではないでしょうか。
10年後には、チームを組むときに、人の数ではなく、1人が気を配る相手の数(人とエージェントの合計)で考えるようになっていそうです。 そのころには、どのエージェントにも担当者が1人ずつ付いているはずです。
この未来が近づくなら、先に現れる兆し
- 社内の名簿や組織図に、エージェントが名前と担当者つきで載るようになる
- 使われなくなったエージェントの棚卸しが、定期作業になる
- 「1人が受け持つエージェントは何個まで」という社内の決まりが出てくる
- 同僚や取引先の近況を、AIのまとめで追う人が増える
自社で試せること
この1週間に仕事でやり取りした相手を書き出し、やり取りの多い順に並べてみてください。 上位5つにAIが入っていたら、そのぶん人と話す時間が減っていないかを振り返るきっかけになります。
社員が自分で設定したAI(ChatGPTのGPTsやGeminiのGemなど)があれば、それぞれに担当者を決めて一覧にしておくと、誰も見ていないAIがすぐに分かります。
新しいエージェントを1つ足す前に、そのぶん誰と話す時間が減るのかを、一度考えてみてください。
出典
- Google Cloud「Welcome to Gemini at Work 2026: Introducing the Gemini agent」(2026年10月8日)(参照 2026-10-08)
- TECH.ASCII.jp「『Gemini Enterprise』に大規模導入の波 ― SOMPO・NTTデータ・Skyが描く“エージェント企業”への進化」(2026年8月4日)(参照 2026-10-08)
- R. I. M. Dunbar「Coevolution of neocortical size, group size and language in humans」(Behavioral and Brain Sciences 16(4), 1993)(参照 2026-10-08)
- Zhou・Sornette・Hill・Dunbar「Discrete hierarchical organization of social group sizes」(Proceedings of the Royal Society B 272, 2005)(参照 2026-10-08)
- Lindenfors・Wartel・Lind「'Dunbar's number' deconstructed」(Biology Letters 17(5), 2021)(参照 2026-10-08)
- Robin Dunbar「Dunbar's number: why my theory that humans can only maintain 150 friendships has withstood 30 years of scrutiny」(The Conversation, 2021年5月12日)(参照 2026-10-08)
