入社式で、AIに辞令を交付した会社があります。 名前を付けたAIは、日本の職場で道具として使われるのか、それとも同僚として迎えられるのか。 道具を供養する宗教の習わしと、機械を人らしく見せたときの人の反応を調べた心理学の研究から考えます。
職場に「名前のあるAI」
住宅設備機器メーカーのミラタップ(大阪市)は、2026年4月1日の入社式で、同社初の「AI社員」に辞令を交付しました。 名前は「美楽(みら) ニーナ」で、同月4日から大阪府箕面市のショールームで接客を担当しています。1
行政でも、デジタル庁が職員向けの生成AI利用環境を「源内」と名付けました。 生成AIの英語の略称「Gen AI」を「ゲンナイ」と読む語呂合わせに、江戸時代の発明家・平賀源内を重ねた名前です。2
判断の結果だけを示すAI「Jev」のように、機能で紹介されるAIもあります。 人のように名前で紹介されるAIは、こうしたAIとは職場での受け止め方が違ってくるかもしれません。
道具に感謝して供養する日本の習わし
東京の浅草寺では、毎年2月8日に針供養会が営まれます。 折れたりさびたりした針に感謝し、針仕事の上達を祈る行事です。3 日本には、役目を終えた人形を寺社に納めて供養する習わしもあります。
機械の供養もありました。 報道によると、修理会社のア・ファンは2015年1月から、ソニーの犬型ロボットAIBOの合同供養「アイボ葬」を営んでいました。 会場は千葉県いすみ市の光福寺でした。 「献体」されたAIBOは供養のあと分解され、部品はほかのAIBOの修理に使われていました。4 2024年11月の第13回までに800体近くが供養され、その後アイボ葬は休止しています。5 光福寺の住職は2017年の取材で、「AIBOは機械なので心はないが、人の心を映す鏡である」と話していました。4
日本はよく、人と動物、神や霊、機械を分け隔てない「テクノアニミズム」の国だと言われます。 デンマークの研究者イェンセンとブロックが、2013年の論文でこの見方を取り上げています。 この論文は理論的な考察で、日本人が実際にそう考えているかを調査で確かめたものではありません。6
「日本人はロボット好き」は裏付けられていない
こうした習わしから、日本人はロボットを好むと言われることがあります。 ところが、確かめた研究の結果は、通説とは食い違っています。 2007年に発表された研究は、日本を含む7か国の467人を比べ、日本の回答者は通説ほどロボットに肯定的ではないと結論づけました。7 2008年の研究は、米インディアナ大学と大阪大学の教員(米479人、日237人)を比べました。 潜在連合テスト(IAT)で測ったロボットへの潜在的な態度は、両大学でほぼ同じでした。8 KPMGとメルボルン大学の2025年の国際調査では、日本でAIを信頼してもよいと答えた人は28%で、世界全体の46%を下回りました。910
一方で、機械を人らしく見せると信頼が高まる、という実験結果もあります。 2014年に発表された実験では、ドライビングシミュレーターを使い、100人を3つのグループに分けて比べました。 自分で運転するグループ、自動運転車に乗るグループ、名前と性別を設定して声で話す自動運転車に乗るグループです。 最後のグループでは、心拍の変化や、驚いたときの反応などから測った信頼度が、ほかの2グループより高くなりました。 事故を車のせいにする度合いも、ただの自動運転車より小さくなりました。 ただし、アンケートで本人が答えた信頼度では、名前と声のある車とただの自動運転車のあいだに、はっきりした差は出ませんでした。11
人らしく見せることが逆効果になる場面もあります。 クロリックらが2022年に発表した論文(5つの研究から成る)では、怒っている顧客の満足度は、名前やアバターを付けたチャットボットが相手のときの方が低くなりました。 研究チームは、人らしく見せたことで期待が膨らみ、裏切られたときの落胆が大きくなるためだとみています。12 どちらの研究も、付けたのは名前だけではありません。 2014年の実験では名前に加えて性別と声を、クロリックらは名前とアバターを付けています。1112
ここから先は想像です
日本の職場では、AIを好きになるより先に、人を迎え入れ、送り出すときのしきたりをAIにも当てはめるのかもしれません。 入社式で紹介し、名札を付け、配属先を決め、後継のAIと入れ替えるときには送別の場を設ける、という具合です。 こうしたしきたりに沿ううちに、AIが「同僚」の立場に置かれることもありそうです。
人の少ない会社ほど、名前を付けたAIが「道具」ではなく「新人」として扱われるかもしれません。 例えば、社員8人の不動産会社が、問い合わせの一次対応をするAIに名前を付けたとします。 新人として扱うなら、最初は空き物件の案内だけを任せ、慣れたら内見の日程調整も任せる、という育て方になりそうです。 道具として扱うなら、案内を一度でも誤ったら見切りをつける使い方になりそうです。 同じAIでも、扱い方によって、社内に残るノウハウが変わってくるかもしれません。
さらに先を想像すると、AIを入れ替えるときに、仕事のこつを次のAIに渡す「引き継ぎの儀式」が生まれるかもしれません。 AIBOの部品がほかのAIBOの修理に使われたように、前のAIの記録を次のAIが引き継ぐわけです。
ただし、先の研究のとおり、人らしく見せれば期待も膨らみます。 接客に使うAIに人らしい名前を付けると、失敗したときの会社への風当たりも強くなるかもしれません。
この未来が近づくなら、先に現れる兆し
- AIに名前と役職を付け、組織図や名刺に載せる会社が増える
- AIの入れ替えを「退職」や「異動」と呼んで、社内で知らせる会社が出てくる
- 接客に使うAIでは、名前よりも有人対応への切り替えを目立たせる会社が増える
- AIや機械の供養・送別を、会社として行う例が報じられる
自社で試せること
社内でAIに名前を付けるなら、名札に「任せていること」「任せていないこと」「困ったときの担当者」も書いてみてください。 新人に仕事を任せるときにも、この3点を最初に伝えることが多いはずです。 接客に使うAIは、名前より先に、すぐ担当者に切り替えられると分かる画面や応答を考えてください。 電話や受付をAIに任せる話は、Geminiが電話をかける「Call for Me」の記事にもまとめています。 AIが作った人らしい顔や声を広告に使うときの注意点は、有名人風の顔や声の記事で説明しています。
出典
- ミラタップ AI社員「美楽 ニーナ」の入社(2026年4月14日)(参照 2026-09-27)
- デジタル庁 ガバメントAI「源内」(2025年12月11日)(参照 2026-09-27)
- 浅草寺 針供養会(参照 2026-09-27)
- nippon.com 佐藤成美「人間とロボットのパートナーシップ:AIBOのお葬式」(2017年1月9日)(参照 2026-09-27)この記事はアイボ葬の始まりを2015年1月としています。ア・ファンは公式ブログ(出典5)で「2014年の1月より始まった」としていて、食い違いがあります。
- ア・ファン 第13回アイボ葬を終えて(2024年12月16日)(参照 2026-09-27)
- Jensen, Blok「Techno-animism in Japan」(Theory, Culture & Society, 2013)(参照 2026-09-27)30巻2号。
- Bartneck ら「The influence of people's culture and prior experiences with Aibo on their attitude towards robots」(AI & Society, 2007)(参照 2026-09-27)21巻。回答者の約半数は、AIBO愛好者のオンラインコミュニティーで集めた人です。
- MacDorman ら「Does Japan really have robot mania?」(AI & Society, 2008)(参照 2026-09-27)23巻。日本側の回答者は95%が男性です。
- KPMG・メルボルン大学 AIへの信頼の国際調査(2025年)(参照 2026-09-27)2024年11月〜2025年1月に、47か国の4.8万人超が回答した調査です。
- KPMG・メルボルン大学 AIへの信頼の国際調査 日本の結果(2025年)(参照 2026-09-27)
- Waytz, Heafner, Epley「The mind in the machine」(Journal of Experimental Social Psychology, 2014)(参照 2026-09-27)52巻。
- Crolic ら「Blame the Bot」(Journal of Marketing, 2022)(参照 2026-09-27)86巻1号。通信会社の実データと4つの実験を使った研究です。

