AIに描かせたチラシの絵で、看板の文字だけがぐにゃっと崩れていたこと、ありませんか?

この記事の目次(4節)
  1. 決まりを書く時代から、AIどうしを競わせる時代へ
  2. ノイズから絵を戻す拡散モデルが、2022年に広まるまで
  3. 絵の中の文字は、いまも残る弱点
  4. いまの仕事に残っていること

じつはこれ、画像生成AIの長い歴史のなかで、ずっと解けずに残っている弱点なんです。描き方のほうは、この約50年で大きく3つの段階に分かれます。

最初は、画家が描き方の決まりをプログラムに書きました。次に、絵を作るAIと見分けるAIを競わせる方法が出ます。いまの主流は、ノイズだらけの画像から少しずつ絵を取り出す方法です。

画像生成AIの主な出来事 1973 2014 2015 2015 2020 2021 2022 2022 2026 画家コーエンが、描き方の決まりを書き込んだAARONと絵を描き始める GANの論文。絵を作るAIと、本物か見分けるAIを競わせる 3月、拡散モデルの論文。ノイズで壊し、逆をたどって戻す 6月、Googleの研究者がInceptionismを発表。AIの見たものを絵に DDPMの論文。拡散モデルで質の高い画像を示す 文章から画像を作る論文。文章と画像を1つの並びで扱う 4月の論文が、まとまった文字を描くのは苦手と書く 8月、Stable Diffusionを公開。重みとコードを誰でもダウンロードできる Nano Banana 2.1のモデルカードも、小さな文字は苦手と書く
画像生成AIの主な出来事を、1973年から2026年まで年の順に並べました。描き方の考えが変わった2015年の拡散モデルの論文と2020年のDDPM、誰でもダウンロードできるようになった2022年8月に色を付けています。

決まりを書く時代から、AIどうしを競わせる時代へ

1973年、画家が描き方をプログラムにした

絵を描くプログラムの早い例の1つに、画家のハロルド・コーエンが作った「AARON」があります。コーエンは1973年からAARONと一緒に絵を描きました。

最初のAARONは、コーエンが用意したいくつかの決まりと形を組み合わせて、絵にしていました。線は、ペンを付けた小さなロボットが紙の上で引いたそうです。

描き方の決まりは、あくまで人が書いていました。

AIが例から自分で覚えるやり方が広まるのは、もっとあとの話です。画像を見分けるAIが大きく伸びた話は、AIの3度のブームの歴史にまとめています。

2014年、作る側と見分ける側を競わせた

2014年6月、イアン・グッドフェローらがGAN(敵対的生成ネットワーク)の論文を発表しました。

GANでは、絵を作るAIと、その絵が本物か作り物かを見分けるAIを組にします。偽札を作る人と鑑定士を、同時に鍛えるようなものですね。

作る側は見破られないように腕を上げ、見分ける側も目が肥えていきます。この競い合いをくり返すうちに、作る側が本物らしい画像を出せるようになる、という考え方です。

2015年、AIの見ているものが絵になった

2015年6月には、Googleの研究者が「Inceptionism」という試みを発表しました。目的は、画像を見分けるAIが何を見ているのかを、人の目で確かめることです。

たとえば、AIが写真の中に見つけたものを強めると、雲が鳥や動物のような形に変わりました。ノイズだけの画像から、AIがバナナだと思う形を描き出す実験もしています。

ノイズから絵を戻す拡散モデルが、2022年に広まるまで

画像にノイズを足して、戻し方を覚える

いまの主流の考え方は、じつは同じ2015年の3月に出ていました。ヤッシャ・ソール=ディックスタインらの論文が、データに少しずつノイズを足して形を壊し、逆をたどって戻す方法を示したんです。

砂嵐のテレビ画面から、元の絵を少しずつ浮かび上がらせる感じですね。この方法を「拡散モデル」と呼びます。

ただ、この方法で質の高い画像が作れると示したのは、2020年6月に出たジョナサン・ホーらのDDPMの論文です。最初の論文から5年かかりました。

論文の実験では、寝室などの写真を集めたデータで、GANを使った手法と同じくらいの質の画像が出せました。GANのように競わせなくても、ノイズを取り除くだけで、同じくらいの画像が出せたわけです。

ノイズを取り除く手順は、画像生成AIの仕組みの記事で図にしています。

文章で頼むと、絵が返ってくるようになった

2021年2月には、アディティア・ラメッシュらが文章から画像を作る論文を出しました。文章で頼むと、それに合う画像を作る研究です。

ラメッシュらは2022年4月の論文で、文章から絵を作る最後の仕上げに、拡散モデルを使いました。

2022年8月、誰でもダウンロードできるようになった

大きな節目は2022年8月です。Stability AIがStable Diffusionを公開し、モデルの重み(学習で身につけた中身)とコードを、誰でもダウンロードできるようにしました。商用にも使えるライセンスでした。

動かすのに要るビデオメモリ(画像の処理を受け持つGPUという部品のメモリ)は、6.9GBとのこと。研究所の大きな計算機がなくても動かせる大きさになった、と見てよさそうです。

同じころ、Midjourneyで作った絵が米コロラド州の品評会のデジタルアートの部門で1位になりました。SNSでは、不公平だというコメントが数千件も付いたそうです。

絵の中の文字は、いまも残る弱点

さて、冒頭の崩れた文字の話です。2022年4月のラメッシュらの論文は、限界とリスクをまとめた節で、この方法はまとまった文字を描くのが苦手だと認めています。

理由の見立ても書いてあります。文章を絵に変える途中で、文字のつづりまでは正確に伝わっていないのかもしれない、とのこと。

2026年10月には、Googleが新しい画像生成AIのモデルカード(性能や限界の説明書)を出しました。

Nano Banana 2.1というモデルで、ポスター向けのはっきりした文字を使い道に挙げる一方、小さな文字や長い段落は苦手だと書いています。

このサイトでも、記事の先頭に置く絵は画像生成AIに作らせています。いま公開している285本のうち、284本に先頭の絵があります。

ただし、AIに頼むときは毎回、文字と数字を描かないでと書き添えています。数字や流れを見せる説明図は、別にコードで組んでいます。

11月7日に数えると、説明図は152枚ありました。中の文字まで、すべてコードで書いています。

ちなみに10月15日から17日は、画像生成AIにつなぐ認証が切れて、絵が作れませんでした。そのあいだに出した記事は絵なしで出し、復旧してから差し込んでいます。

いまの仕事に残っていること

この約50年で、描き方を決める役は人からAIへ移りました。

一方で、変わっていないこともあります。絵の中の文字や数字が正しいかどうかは、いまも人が見て確かめるしかありません。

文字を読む側のAIも同じです。OCRの歴史をたどっても、AIで読み取った数字を人が見比べる手間が、ずっと残ってきました。

チラシや資料をAIで作るなら、絵はAIに任せて、値段や日付の文字はあとから人が入れるほうが安心だと思います。

作った絵を外に出すときの著作権の考え方は、文化審議会の小委員会が2024年3月にまとめ、文化庁が公開しています。

絵筆はAIに渡せても、看板の字を書くペンは、まだしばらく人の手に残りそうです。

Source:

  1. Computer History Museum「Harold Cohen and AARON—A 40-Year Collaboration」(参照 2026-11-07)
  2. Ian J. Goodfellow ほか「Generative Adversarial Networks」(arXiv:1406.2661、2014年6月)(参照 2026-11-07)
  3. Jascha Sohl-Dickstein ほか「Deep Unsupervised Learning using Nonequilibrium Thermodynamics」(arXiv:1503.03585、2015年3月)(参照 2026-11-07)
  4. Google Research「Inceptionism: Going Deeper into Neural Networks」(2015年6月18日)(参照 2026-11-07)
  5. Jonathan Ho ほか「Denoising Diffusion Probabilistic Models」(arXiv:2006.11239、2020年6月)(参照 2026-11-07)
  6. Aditya Ramesh ほか「Zero-Shot Text-to-Image Generation」(arXiv:2102.12092、2021年2月)(参照 2026-11-07)
  7. Aditya Ramesh ほか「Hierarchical Text-Conditional Image Generation with CLIP Latents」(arXiv:2204.06125、2022年4月)(参照 2026-11-07)
  8. Stability AI「Stable Diffusion Public Release」(参照 2026-11-07)
  9. CBS Colorado「Artificial intelligence artwork wins 1st place at Colorado State Fair, causing controversy」(2022年9月3日)(参照 2026-11-07)
  10. Google DeepMind「Nano Banana 2.1」モデルカード(2026年10月)(参照 2026-11-07)
  11. 文化庁「AIと著作権について」(「AIと著作権に関する考え方について」令和6年3月15日)(参照 2026-11-07)