要点
対象:AIは一時の流行かと迷う会社の事務の人
- 第1次は現実の課題が解けず冬の時代に
- 第2次は人が知識を全部書き表した
- 社内の決まりを書いて整える手間は残る(筆者)
1955年8月、米国の研究者4人が、翌年の夏に開く研究会の提案書を書きました。選ばれた10人で2か月取り組めば、挙げた課題の1つでも大きな成果が出せる、という見通しでした。2
それから70年あまりの間に、AIのブームは3度ありました。うち2回は、そのあと冬の時代を迎えました。1
総務省の2016年版「情報通信白書」は、過去2回のブームについて、ある評価を紹介しています。社会がAIに期待したことが、技術で実現できることを上回り、その差が明らかになって終わった、というものです。1
1956年、ひと夏の研究会から始まった
第1次ブームは、1950年代後半〜1960年代です。1
「知能は機械でまねできる」が出発点
提案者は、ジョン・マッカーシーやマービン・ミンスキーら4人です。学習をはじめ知能の働きはすべて、理屈の上では正確に書き表せるので、機械で再現できると考えました。2
計画では、言葉を使い、人にしか解けなかった問題を解き、自分で賢くなる機械の作り方を探ることにしていました。研究会は1956年夏、米国のダートマス大学で開かれました。2
人が本気で話し込んだ対話プログラム「ELIZA」
1964〜1966年には、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のジョセフ・ワイゼンバウムが、対話プログラム「ELIZA」を作りました。カウンセラーの受け答えをまねたものです。3
狙いは、人と機械の会話が表面的で、「理解しているふり」が簡単にできることを示すことでした。ところが、多くの人が本気で話し込み、個人的なことまで打ち明けました。3
ワイゼンバウムはその後、コンピューターと社会の関わり方を声高に批判する代表的な論者になりました。人に取って代われる「人工知能」という幻想を抱かないよう、警告しました。3
冷戦下で力が注がれた機械翻訳
このころ、コンピューターが「推論」(筋道を立てて考える)や「探索」(答えを探して試す)をできるようになりました。迷路の解き方や定理の証明のような、単純な問題なら扱えます。冷戦下の米国では、機械翻訳に特に力が注がれました。1
しかし、いくつもの要因が絡み合う現実の課題は解けないことが分かり、冬の時代を迎えました。1
1980年代、専門家の知識を人が書き表した
第2次ブームは1980年代です。「知識」をコンピューターに分かる形で与えることで、AIは実用的な水準に達しました。1
専門家のように振る舞う「エキスパートシステム」
このころ、専門分野の知識を取り込み、その分野の専門家のように振る舞うプログラムが数多く作られました。これをエキスパートシステムと呼びます。1
たとえるなら、専門家の知識を書き写した分厚い手引き書を、AIに持たせるようなものです。
日本では、通商産業省(現・経済産業省)が1982年に「第五世代コンピュータ」という国の大型計画を始めました。知識を使って情報を処理する、新しいコンピューターを目指したものです。14
計画には11年でおよそ540億円が投じられ、試作機もいくつも作られました。計画は1992年に終わっています。4
世の中の知識を全部は書き表せなかった
当時のコンピューターは、必要な情報を自分で集めて蓄えられませんでした。そのため、AIが使う知識は、すべて人がコンピューターに分かる形で書き表す必要がありました。1
膨大な情報を全部書いて用意するのは難しく、使える知識は特定の分野に限られました。こうした限界のため、1995年ごろに再び冬の時代を迎えました。1
2000年代、AIはデータから学ぶようになった
第3次ブームは2000年代に始まりました。大量のデータを使い、AI自身が知識を身につける「機械学習」が実用化されました。1
知識を人が書いて与えた第2次ブームとは、ここが大きく違います。
ディープラーニングの登場
機械学習に続いて、ディープラーニング(深層学習)が登場しました。それまでは、ものを見分けるときに何に注目するかを、人が決めていました。画像や音声の認識などで、注目する点をコンピューターが自分で見つけられるようになりました。1
2012年の画像認識の国際コンテストでは、ディープラーニングを使ったチームが1位になりました。AIが答えの候補を5つ挙げ、その中に正解が無かった割合は15.3%で、2位のチームの26.2%を大きく下回りました。5
文章を扱う新しい技術から、ChatGPTへ
2017年6月、Googleの研究者らが、文章を扱う新しい技術「Transformer」の論文を発表しました。6
OpenAIは2022年11月30日に「ChatGPT」を公開しました。4日後に世界で利用者が100万人を超え、2か月後には1億人を突破したとされています。8
その後、2023年3月にOpenAIが出した「GPT-4」は、Transformerを土台にしています。7
文章を作るAIが言葉を1つずつ選んでいく様子は、生成AIの仕組みの記事で図にしました。
第3次ブームはこの先どうなるか
同じ白書は、第3次ブームについても注意を促しています。最も成功した場合に届く可能性と、確実にできると見込まれることの間には、隔たりがあるという指摘です。1
白書は、実用化に向けた地道な取り組みが盛んになるほど、その隔たりも解消されていくと考えられる、とも書いています。1
第3次ブームがこの先どうなるかは、白書も言い切っていません。筆者は、ブームが続くかどうかより、自分の会社でAIが確実にできることを確かめるほうが大事だと考えます。
今も残る「書いて整える」手間
今のAIは、言葉の使い方を大量の文章から学んでいます。ただ、それぞれの会社の料金表や、手順の例外までは知りません。
社内の決まりと文書の整理
松尾研究所副社長の金剛洙氏は、金融機関の文書を例に、社内の資料をもとに答えるAIがつまずく原因として、次のような文書の状態を挙げています。
- 同じ趣旨の決まりが、複数の文書に分かれている
- どれが実務上の最新版か、分かりにくい
- 例外が、脚注や別紙に散らばっている9
たとえば、値引きの決まりが料金表と社内の通知の両方にあり、中身が食い違っていたとします。AIに聞いても、どちらに沿って答えるかは分かりません。
筆者は、第2次ブームで壁になった「知識を書き表す手間」が、今は「社内の文書を整える仕事」に形を変えて残っているとみています。
社内の資料を探してから答える方法(RAG)は、院内マニュアルをAIに探させるRAGの記事で説明しています。
日本語の社内文書20件をAIに探させた結果は、試用の記録にあります。
自然な受け答えでも、正しいとは限らない
機械が人のように話すことから、人のような性質があると信じてしまうことは、今では「ELIZA効果」と呼ばれています。3
今のAIでも、自然な日本語で答えが返ってきたからといって、中身が正しいとは限りません。
AIの下書きを人がどこまで確かめるかは、品質検査の歴史から考えた記事で取り上げています。
どのAIが賢いかを比べるより前に、読ませたい社内の決まりが、最新の文書1つにまとまっているかを確かめてみてください。
出典
- 総務省「平成28年版 情報通信白書」第4章第2節 人工知能(AI)研究の歴史(参照 2026-10-10)
- McCarthy ほか「A Proposal for the Dartmouth Summer Research Project on Artificial Intelligence, August 31, 1955」(AI Magazine 27巻4号、2006年)(参照 2026-10-10)
- Weizenbaum Institute「ELIZA」(参照 2026-10-10)
- 情報処理学会 コンピュータ博物館「Start of the 5th Generation Computer Project for Knowledge-Based Information Processing」(参照 2026-10-10)
- Krizhevsky ほか「ImageNet Classification with Deep Convolutional Neural Networks」(NIPS 2012)(参照 2026-10-10)
- Vaswani ほか「Attention Is All You Need」(arXiv:1706.03762、2017年6月)(参照 2026-10-10)
- OpenAI「GPT-4 Technical Report」(arXiv:2303.08774、2023年3月)(参照 2026-10-10)
- 野村総合研究所「日本のChatGPT利用動向(2023年4月時点)」(2023年5月26日)(参照 2026-10-10)
- 松尾研究所 金剛洙「RAG導入はなぜ失敗? 「AI前提」の超・情報設計とは」(ビジネス+IT、2026年6月11日)(参照 2026-10-10)

