要点
対象:機械翻訳を仕事で使っている人
1954年の実験は2 50語と6 つの規則だけ 訳し方は規則、統計、文全体へと変わった 人名や数字は、人が見直したい 機械翻訳は、1 954年にI BMとジョージタウン大学がロシア語を英語に訳す実験を公開してから、7 0年 あまりたちます。
この記事の目次(7節) 1954年、2 50語と6 つの規則でロシア語を訳した 1966年のA LPAC報 告、すぐには使えないと判断された 1990年、対訳の文から確率を学ぶ統計の方式 2016〜2017年 、文全体を見るニューラル機械翻訳 2024年、大規模言語モデルが加わった国際会議の共通課題 4つの時代で比べる訳し方 いま機械翻訳を仕事で使うときに気をつけること
その間に、訳し方は4 つの方式を経て、3回 変わりました。
1954年 : 人が書いた規則で訳す1
1990年 : 対訳の統計で訳す3
2016年 : 文全体を見るニューラル機械翻訳で訳す4
2024年 : 大規模言語モデルが加わる7
機械翻訳の国際会議(WMT)の共通課題で、大規模言語モデルの1 つが、9 つの言語の組み合わせで最も良い評価のグループに入りました。
それでも、その結果をまとめたW MT24の報告の英語の題名は、大規模言語モデルの時代は来たが、機械翻訳はまだ解けていない、という意味です。7
機械翻訳の主な出来事
1954
1966
1990
2016
2017
2017
2024
ジョージタウン大学とIBMが、250語と6つの規則の実験を公開
ALPAC報告、科学の文章を訳す機械翻訳はすぐ見込めないと判断
IBMが、対訳の文から確率を学ぶ統計の方式を発表
9月 Googleが、文全体を訳すニューラル機械翻訳を実用に
6月 Transformerの論文の公開
6月 NICTが日英のニューラル機械翻訳をVoiceTraに組み込み
WMTの共通課題に大規模言語モデルが加わり、9つの組み合わせで上位
機械翻訳の主な出来事を、1 954年から2 024年まで年代順に並べました。文全体を訳す方式が登場した2 016年と2 017年、大規模言語モデルが加わった2 024年に色を付けています。
1954年、2 50語と6 つの規則でロシア語を訳した
1954年1月7日 、I BMはニューヨークの本社で、ジョージタウン大学と作った機械翻訳の実験を公開しました。ロシア語の文を英語に訳し、訳した文は6 0を超えました。1
使った辞書は2 50語分で、文を組み替える規則は6 つだけでした。文の多くは有機化学の短い説明で、ほかに、一般の話題の長めの文が1 2ほどありました。1
報道では、ロシア語の文が英語の "The quality of coal is determined by calory content."(石炭の質は熱量で決まる)に訳されました。1
辞書は、選んだ文のための語だけ
辞書に入っていたのは、実験で訳す文に要る語だけでした。文も、あらかじめ選んだものでした。1
どの報道も、規模が小さい実験だと書きました。ただ、5 年以内にほとんど何でも訳せる機械ができる、という楽観も広がりました。1
IBMの発表資料には、5 年後、もしかすると3 年後には、いくつかの言語の重要な分野で、機械による意味の変換が実現しているかもしれない、と教授が述べたとあります。1
1966年のA LPAC報 告、すぐには使えないと判断された
アメリカ政府の3 つの機関が作った合同の組織が、1 964年4月 に委員会(ALPAC)を設けました。委員は7 人で、委員長はベル研究所のジョン・ピアースでした。2
報告書は1 966年1 1月 に出ました。調べたのは、アメリカの政府が読むロシア語の文書の翻訳だけでした。ほかの言語は、対象外でした。2
翻訳者は足りていた
報告は、政府機関では翻訳者の数が需要を上回っていると書きました。ワシントン周辺には、登録された翻訳者が5 00人を超えていました。2
機械の訳を人が直す作業(後編集)も、人が最初から訳すより安くならない、と判断しました。1 962年にジョージタウン大学が試したときは、後編集した訳のほうが人の翻訳より少し時間がかかり、費用も高くなったためです。2
勧めたのは、翻訳者を助けるツール
報告は、科学の文章を機械で訳したままの文章を「ほとんどは読み取れるが、ときに誤解を招き、ときに間違っている」と評価しました。「一般の科学の文章を訳す機械翻訳は、まだ無く、すぐに見込める状況でもない」とも書きました。2
一方で、翻訳者が使う用語集や用語のデータベースのような補助のツールは、機械翻訳よりも費用に見合うと評価しました。2
機械翻訳の研究者ジョン・ハッチンスは、この報告のあと、アメリカでは機械翻訳の研究に大きな資金が出なくなり、それが約2 0年 続いたと書いています。2
ハッチンスは同じ記事で、報告の比べ方にも大きな欠点があったかもしれないと指摘しています。報告は、実験用に選んだ小さな文の訳と、ふつうの文書を訳す機械の訳を並べて、後者を劣ると見ていたためです。2
1990年、対訳の文から確率を学ぶ統計の方式
IBMのトーマス・J ・ワトソン研究所の研究者たちは、1 990年6月 の論文で、統計で訳す方式を発表しました。フランス語を英語に訳す方式で、結果は「予備的」と断っています。3
規則を人が書く代わりに、同じ内容を2 つの言語で書いた文(対訳)を大量に集め、そこから自動で確率を学びます。使ったのは、カナダ議会の議事録(英語とフランス語)です。3
2つの確率を掛けて、訳を選ぶ
訳を選ぶときは、2 つの確率を使います。1 つは、その言語で自然に出てきそうな語の並びの確率です。もう1 つは、ある語が別の言語のどの語に訳されやすいかの確率です。3
たとえば、フランス語の文に英語の訳の候補がいくつかあるとき、この2 つの確率が両方高い候補ほど、訳として選ばれやすくなります。3
1949年の提案が、1 990年に試された
統計の方式で翻訳に挑む案は、1 949年にウォーレン・ウィーバーが出していました。当時は計算機が非力で、機械で読める文章も少なかったので、うまくいかなかったと論文は見ています。3
1990年 には、計算機がずっと速くなり、機械で読める大量の文章も手に入るようになりました。3
対象は、1 文ずつの翻訳だけでした。3
2016〜2017年 、文全体を見るニューラル機械翻訳
Googleは2 016年9月2 7日 に、文全体を1 つのまとまりとして訳すニューラル機械翻訳を発表しました。従来の方式は、文を語や句に分け、ほぼ別々に訳していました。4
2つの言語を読める評価者が、従来の方式と新しい方式の訳を並べて比べました。
Wikipediaとニュースの文では、従来の方式の訳より、誤りが「55〜85%以 上」減りました(ブログの言い方)。いくつかの主な言語の組み合わせでの数字で、組み合わせごとに差があります。4
中国語から英語への翻訳は、発表のとき、すべてこの方式になりました。アプリでもウェブでも使われ、1 日の翻訳は約1 ,800万 件でした。4
Googleが書いた限界
この方式でも、語を落としたり、人名やまれな語を間違えたりします。前後の文を見ずに、1文 ずつ訳すことも限界です。ブログは「機械翻訳は決して解けていない」と書いています。4
2017年のT ransformer、別の物差しで高い点数
2017年6月 には、G oogleなどの研究者が、新しい仕組み「Transformer」の論文を公開しました。5
人の訳との近さを機械が採点する方法(BLEU)では、点数が高いほど人の訳に近くなります。英語からドイツ語は2 8.4点で、それまでの最高を2 点以上上回りました。英語からフランス語は4 1.8点で、1 つのモデルとしては当時の最高でした。5
日本でも、日英の話し言葉で9 割前後
情報通信研究機構(NICT)は、2 013年にニューラル機械翻訳の基礎研究を始め、2 016年1 2月 に実用化に着手しました。2 017年6月2 8日 には、音声翻訳アプリ「VoiceTra」に組み込みました。6
日本語と英語の話し言葉で、防災・買い物・タクシーなど、各場面の訳文を翻訳者が採点しました。意味が通じる率は、従来の統計翻訳より大きく上がり、9割 前後でした。6
この結果を出すには、話し言葉の固有名詞や専門用語の辞書を足すことが欠かせませんでした。6
2024年、大規模言語モデルが加わった国際会議の共通課題
機械翻訳の国際会議(WMT)は、2 024年に1 1の言語の組み合わせで、同じ文を訳して比べる共通課題を開きました。2 8の団体が参加しました。参加者のシステムに加えて、4 つのオンライン翻訳サービスと8 つの大規模言語モデルも比べました。7
評価者1 08人 が、5 7,000件 を超える採点をしました。参加者の大半は、すでに大規模言語モデルを使っていました。7
全体では、大規模言語モデルのC laude-3.5-Sonnetが最も良かったと、報告は書いています。9 つの言語の組み合わせで、最も良い評価のグループに入りました。7
自動採点だけでは、決められない
機械が計算する点数(自動採点)で全言語の1 位だったシステムが、人の評価者の採点では全体で勝てませんでした。
このシステムは、調整のときにも自動採点と同じ種類の点数を使っていました。そのため、自動採点では実際より高く出たのだろう、と報告は見ています。7
この年は、固有名詞や慣用句、複雑な文で大規模言語モデルが間違えやすい訳を調べる試験が増えました。訳す文章の渡し方も、文ごとではなく段落のままに変わりました。7
4つの時代で比べる訳し方
時代ごとに、訳し方と、出典に書かれた課題が違います。
時期と例 訳し方 出典に書かれた課題 1954年のジョージタウン・I BM 250語の辞書と6 つの規則で組み替える 選んだ文だけで試した。のちのA LPAC報 告は、一般の科学の文章を訳す機械翻訳はすぐには見込めないと判断した 1990年のI BMの論文 対訳の文から確率を学び、掛け合わせて選ぶ 対象は1 文ずつの翻訳で、結果は予備的だった 2016年のG oogle 文全体を1 つのまとまりとして訳す(ニューラル機械翻訳) 語の抜け、人名やまれな語の誤り、前後の文を見ない訳 2024年のW MT 大規模言語モデルが、段落のまま訳す 固有名詞や慣用句を調べる試験が増え、自動採点は人の採点とずれた
いま機械翻訳を仕事で使うときに気をつけること
1966年の報告は、科学の文章を機械で訳したままの文章を、ときに間違っていると評価しました。2 016年のG oogleも、語の抜けや人名の誤りを認めています。2 4
2024年のW MTでは、主催者が固有名詞や慣用句を調べる試験を増やしました。報告の題名のとおり、機械翻訳はまだ解けていません。7
出典に挙がっているのは、人名やまれな語の誤り、語の抜けです。数字や日付、社名も、間違うと取引に響くので、取引先に送る文書は、訳したあとに元の文と見比べて、人が確かめるのが安全です。受け取った文書を読むときも、同じ点を確かめてください。
AI全体の歴史はAIの3 度のブームの記事 に、チャットボットの歴史はチャットボットの歴史の記事 に書きました。大規模言語モデルの仕組みは、生成AIの仕組みの記事 で図にしました。
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