要点

対象:社員のAI利用を把握したい中小企業の社長

  1. 明かすかを分けたのは会社への信頼
  2. 実験でもAIの助けを借りた人は低い評価
  3. 最初の一言は「どこを確かめましたか」(筆者)

仕事でAIを毎日使う米国の会社員の3人に1人近くが、AIを使った仕事のやり方やコツを、同僚や会社に明かしていませんでした。1

この記事の目次(6節)
  1. 南カリフォルニア大学の調査で挙がった3つの心配
  2. 低く評価されるという心配は、実験でも裏づけられた
  3. 自分の本心は少数派だと思い込む
  4. ここから先は想像です
  5. この未来が近づくなら、先に現れる兆し
  6. 自社で試せること

日本の20〜30代の会社員でも、生成AIで作った成果物を出すとき、AIを使ったと伝えていない人が約6割います。2

会社が知らないところで使われるAIは「シャドーAI」と呼ばれ、ふつうは情報漏れの心配から語られます。

ここでは、社員が黙る理由のほうを心理学の研究からたどり、AIの使い方を共有する職場がどうできていくかを考えます。

南カリフォルニア大学の調査で挙がった3つの心配

南カリフォルニア大学(USC)の研究者2人が、AIを毎日、または1日に何度も使う米国の会社員604人を対象に調査しました。 大学は2026年8月28日に、その内容を紹介しています。

やり方を共有すればチームの役に立つと考える人は8割いたのに、3人に1人近くは明かしていませんでした。1

会社を信頼しきれない理由として、研究者は次の3つの心配を挙げています。1

  • AIを使ったと認めると、評判が下がるという心配
  • 仕事を増やされたり、社内でAIの旗振り役(ほかの社員に広める係)にされたりするという心配
  • 自分の仕事がAIでこなせると示せば、いずれAIに取って代わられるという心配

やり方を明かすかどうかを大きく分けたのは、会社への信頼でした。 会社への信頼がとくに低い人たちは、とくに高い人たちに比べ、AIのやり方などを伝えずにいた割合が約4倍でした。1

AIを使ったと上司に話した人は、最初の30秒で上司が好意的かどうかが分かった、とも研究者は述べています。1

日本の数字は、デジタルメディア事業などを手がけるインターグが、2025年11月に企業で働く20〜30代の535人に聞いた調査のものです。

生成AIで作った成果物を上司や同僚に出すとき、AIを使ったと伝えていない人は59%でした。2 米国の調査とは聞いた中身が違うので数字は比べられませんが、日本でも、使っても言わない人が多いことが分かります。

英国でも、勤め先が禁止している、または認めないはずのAIを使ったことがある人が、10人に1人近くいたと報じられています。 AIに自分の仕事ができると上司に思われないかと心配する人は、63%に上りました。6

低く評価されるという心配は、実験でも裏づけられた

米デューク大学の研究者3人は、ネットで募った計4,439人を対象に4つの実験を行い、2025年に米国の学術誌(PNAS)に発表しました。3

使う人は予想し、周りの人は実際に低く評価した

最初の実験では、AIを使う場面を想像した人は、AIではない仕事用のソフトを使う場面を想像した人より、手を抜いていて能力が低いと見られるだろうと予想しました。

上司や同僚に使ったことを伝える気持ちも、弱いという結果でした。3

次の実験では、仕事でAIの助けを借りていると説明された架空の社員が、人の助けを借りた社員より、手を抜いていて、能力も勤勉さも劣ると評価されました。3

評価する人と仕事の中身で、結果は変わった

採用を模した実験では、自分ではAIをあまり使わない人ほど、AIを使わない応募者を好む傾向がありました。 反対に、AIをよく使う人ほど、AIを毎日使う応募者を仕事に向いていると評価していました。3

別の実験では、手書きでお礼状を書く仕事だと、AIを使う応募者が低く評価されました。 一方、「生成AIが役立つかもしれない」と伝えたメールの仕事では、評価に差は出ませんでした。3

ただし、どれもネットで募った人の実験で、AIが当たり前になれば見方は変わる可能性が高い、と研究者自身が書いています。3

評価する人がAIを使っているかどうかも、その仕事にAIが役立つと示されているかどうかも、AIを使う社員ひとりでは変えにくいことです。 どちらも社長なら変えられる、と筆者は考えます。

自分の本心は少数派だと思い込む

社員が黙る理由を考えるうえで、もう1つ手がかりになるのが、社会心理学の「多元的無知」という考え方です。 多くの人が心の中では同じことを思っているのに、自分だけが少数派だと思い込んでいる状態を指します。

プリンストン大学のプレンティスとミラーは1993年の論文で、大学生に、キャンパスでの飲み方をどう思うかを聞きました。

4つの研究すべてで、学生は「自分はほかの学生より、この飲み方に抵抗を感じている」と考えていました。4

実際には浮いていないのに、浮いていると感じている学生ほど、大学になじめない気持ちが強い傾向もありました。4

思い違いを話題にすると、行動が変わったという研究もあります。

1998年の研究では、多元的無知について話し合った新入生は、ほかの話し合いをした新入生より、4〜6か月後に自分で答えた飲酒量がはっきり少ないという結果でした。5

キャンパスでの飲酒と職場のAIとでは場面が違いますが、「本当はみんな同じことを思っている」と知るだけで行動が変わりうる点は、職場にも通じると筆者はみています。

ここから先は想像です

社員がAIの使い方を口にしない職場でも、同じ思い違いが起きているかもしれません。 誰も話題にしないので、一人ひとりが「うちでAIを使っているのは自分くらいだろう」と考えます。

そして、多数派だと受け取った空気に合わせて、さらに口を閉ざしていくのかもしれません。

5年後を想像すると、使い方を共有する職場と、各自が抱え込む職場の違いは、使う道具よりも仕事の手順に表れてくるのではないでしょうか。

共有する職場では、うまくいった指示の出し方や確かめ方が、見積書のひな形のように社内で共有されているでしょう。 新しく入った人も、初日からそれを使えるはずです。

抱え込む職場では、同じ工夫を、めいめいが一から作り直すことになりそうです。 工夫した人が辞めると、その工夫も一緒に消えてしまうでしょう。

同じAIを同じ料金で契約していても、使いこなし方の差は、外からは見えないところで広がっていくのかもしれません。

もう少し先を想像すると、10年後には「AIを使いましたか」と聞くこと自体がなくなっているかもしれません。 いま、見積書を出す人に「電卓を使いましたか」とは聞かないのと同じです。

代わりに、「どこを確かめましたか」と聞くようになると考えられます。 書類の確認印の横に、AIが作った部分のどこを確かめたかを書く欄が付くこともありそうです。

一方で、使い方を見せた人に仕事が集まり、AIの旗振り役にされた人が疲れて辞めていくこともありえます。 南カリフォルニア大学の調査で挙がった2つめの心配が、そのまま現実になる形です。1

この未来が近づくなら、先に現れる兆し

  • 社内の資料やメールに、「AIで下書きし、〇〇が確かめた」と書き添える人が出てくる
  • 同業者や取引先との雑談で、AIの使い方が隠さずに話題にのぼるようになる
  • 人事評価や社内の表彰で、AIの使い方を同僚に広めたことが評価される
  • 面接で、AIを使うかどうかではなく、AIの答えをどう確かめているかを聞く会社が増える

自社で試せること

まず、ご自身がAIで作った仕事を1つ、朝礼や社内のチャットで見せてみてください。 社長も使っていると分かれば、「使っているのは自分だけだろう」という社員の思い込みは崩れやすくなりそうです。

使い方を見せてくれた社員に、その場で仕事を上乗せしないことも、同じくらい大事です。

AIを使ったと言いにくい職場では、会社が認めていないAIの利用も表に出にくいはずです。 シャドーAIは禁止して減らすものと思われがちですが、まず言いやすい職場にするほうが近道かもしれません。

社員が私用の生成AIに顧客の情報を入れてしまったときの対応は、こちらの記事にまとめました。

聞きやすいチームほど学び合いが多いという研究は、AIを相談相手に選ぶ人の日米の差を扱った記事で紹介しました。 AIの答えをどこまで信じるかは、AIへの過信と不信の記事で扱っています。

社員から「AIを使いました」と言われたら、最初の一言を「どこを確かめましたか」と決めておくだけでも、次に話してもらえる見込みは変わってくるはずです。

出典

  1. USC Marshall「Why Are Employees Reluctant to Disclose AI Use to Their Bosses?」(南カリフォルニア大学マーシャル・ビジネススクール、2026年8月28日)(参照 2026-10-07)
  2. インターグ「仕事における生成AIの利用実態と意識」調査(PR TIMES、2025年12月15日)(参照 2026-10-07)
  3. Reif, Larrick, Soll「Evidence of a social evaluation penalty for using AI」(PNAS, 2025)(参照 2026-10-07)
  4. Prentice, Miller「Pluralistic Ignorance and Alcohol Use on Campus: Some Consequences of Misperceiving the Social Norm」(Journal of Personality and Social Psychology, 1993)(参照 2026-10-07)
  5. Schroeder, Prentice「Exposing Pluralistic Ignorance to Reduce Alcohol Use Among College Students」(Journal of Applied Social Psychology, 1998)(参照 2026-10-07)
  6. Claims Journal「UK Workers Hide AI Use From Their Bosses, Deloitte Survey Finds」(Bloomberg の配信、2026年9月16日)(参照 2026-10-07)

任せる

AI秘書に任せる

問い合わせの受付から請求書の作成までの業務を、AIで自動化します。

できることを見る 相談する(初回無料・30分)