要点

対象:AIの「ハルシネーション」を聞いて気になった人

  1. 語源は英語で幻覚を意味する hallucination
  2. 始まりは2000年の顔画像の研究で、よい意味だった
  3. 原因は推測したほうが高く採点される学習と評価

AIが自信ありげに間違えることを、なぜ「幻覚」と呼ぶのか。人が幻覚を見るときと同じで、もっともらしいのに、実際にはないものだからです。14

この記事の目次(8節)
  1. 「幻覚」は、もともと人の体験を指す言葉
  2. 画像を細かくする研究が最初だった
  3. 文章を作るAIで、悪い意味に変わった
  4. 2023年に、辞書の今年の言葉になった
  5. なぜ起きるのか: 推測したほうが高く採点される
  6. 別の呼び名を提案する論文もある
  7. 減らす方法はあるが、なくなりはしない
  8. 仕事で使うときに気をつけること

この呼び名がAIに広まるまでの道筋は、画像の研究、文章を作るAIの研究、辞書の順にたどれます。14

HOW THE WORD HALLUCINATION TRAVELED 2000 2020 2022 2023 2025 顔画像を鮮明にする研究 文章を要約するAIの研究 調査論文 Cambridge Dictionary 原因を調べた論文 足りない細部を補う技術を指し、よい意味だった 元の文書に書かれていない内容を指した 資料と食い違うものと、資料にないものに分けた 今年の言葉に選び、AIの意味を加えた 推測が高く採点される方法を原因に挙げた Baker・Kanade Maynez ほか Ji ほか 2023年11月15日の発表 Kalai ほか 画像の研究で生まれた言葉が、文章のAIで、人の「幻覚」にたとえて使われている
ハルシネーションという言葉の歩みです。画像の研究でよい意味で使われた言葉が、文章を作るAIで、事実と違う内容を指す言葉になりました。

「幻覚」は、もともと人の体験を指す言葉

心理学で幻覚とは、目が覚めている人が、外の世界に刺激がないのに、何かを感じ取ることです。1

Cambridge Dictionaryは、そこにないものが見えたり聞こえたりするように感じること、と説明しています。多くは病気が原因です。4

文章を作るAIの誤りには、この幻覚と似た特徴があります。そのため、この言葉が使われるようになりました。1

画像を細かくする研究が最初だった

画像を扱う研究分野では、2000年のBaker氏らの研究に、この語が初めて出てきます。調査論文が、そう書いています。超解像(低い解像度の画像から細かい画像を作る技術)や画像の修復で、よい意味で使われました。1

この研究の題は「Hallucinating Faces」で、粗い顔の画像を、顔の特徴の知識で細かい画像に直す技術です。顔によくある特徴の知識から、写っていない細部を推測して足します。2

この研究の方法は、顔の特徴をゆがめることがあります。足した細部が実際と違うことがある点は、のちの文章のAIの誤りと似ています。2

文章を作るAIで、悪い意味に変わった

文章を作るAIでは、2020年のMaynez氏らの研究が、この語を使った例として調査論文に挙げられています。1

この研究では、人が文書の要約を読んで調べました。調べたどのAIの要約にも、元の文書に書かれていない内容が見つかりました。論文は、AIがそうした内容を書きやすいと述べています。3

2022年の調査論文は、この誤りを2つに分けました。1

種類意味たとえば
資料と食い違う渡した資料と、矛盾する内容を書く資料に10日とあるのに、20日と書く
資料にない渡した資料からは、正しいか確かめられない内容を書く資料にない担当者の名前を書く

表の例は、この記事で作ったものです。

2023年に、辞書の今年の言葉になった

英国のCambridge Dictionaryは、2023年11月15日に、hallucinate(幻覚を見る)を今年の言葉に選びました。AIが幻覚を見るときは誤った情報を作る、という新しい意味も加えました。4

発表には、世間の関心がAIの限界と、それを乗り越えられるかどうかへ移っている、と書かれています。4

なぜ起きるのか: 推測したほうが高く採点される

2025年の論文は、AIが誤りを出す原因は、学習と評価の方法にあると指摘しています。わからないと答えるより、推測して答えるほうが、高く採点される方法です。6

論文はこれを、AIはテストで点を取る受験生のように育てられている、とたとえています。わからなくても推測したほうが、点が上がるからです。6

論文には、著者の1人の誕生日を月日で答えさせた例があります。ある言語モデルは、3回たずねて、3回とも正しくない日付を返しました。6

これは論文の著者らの見方で、すべての誤りがこれで説明できるわけではありません。文章を作る仕組みの全体は、生成AIの仕組みに書きました。

別の呼び名を提案する論文もある

2024年の論文は、この現象を幻覚ではなく、作話(confabulation)と呼ぶことを提案しています。5

作話とは、病気などで、だますつもりはなく、事実と違う記憶を作ってしまうことです。幻覚は、見える・聞こえるという感覚の話です。作話は記憶の話なので、AIに感覚があるようには聞こえません。これが理由の1つです。5

論文は、研究者の間でいまも2つの言葉が区別なく使われている、とも書いています。5

減らす方法はあるが、なくなりはしない

Claudeの公式ドキュメントは、ハルシネーションを減らす方法を紹介しています。そのうえで、完全にはなくならないので、リスクの高い判断では重要な情報を常に検証するよう求めています。7

仕事で使うときに気をつけること

Claudeの公式ドキュメントが挙げる基本の方法は、次の3つです。7

  • 「わからないときは、わかりませんと答えてよい」と、指示に書く
  • 長い資料を渡すときは、先に資料の該当箇所を一語一句そのまま抜き出させ、それをもとに答えさせる
  • 答えの主張ごとに、資料の引用を示させ、引用が見つからない主張は取り下げさせる

2種類の誤りでは、確かめ方を変えるとよいと考えます。

誤りの種類確かめ方
資料と食い違う渡した資料とAIの答えを1文ずつ見比べる。まず数字・日付・名前
資料にない資料にない部分に印をつけ、出典を探す。見つからなければ使わない

資料を渡して答えさせる方法(RAG)は、RAGの記事にまとめました。

考える下書きを書く推論モデルは、推論モデルの記事にあります。

AIの答えを使う前に、数字か名前を1つ選び、元の資料と照らしてください。

出典

  1. Ji ほか「Survey of Hallucination in Natural Language Generation」(arXiv:2202.03629、ACM Computing Surveys)(参照 2026-10-26)
  2. Wikipedia「Face hallucination」(参照 2026-10-26)
  3. Maynez ほか「On Faithfulness and Factuality in Abstractive Summarization」(arXiv:2005.00661、ACL 2020)(参照 2026-10-26)
  4. Cambridge「‘Hallucinate’ is Cambridge Dictionary’s Word of the Year 2023」(2023年11月15日)(参照 2026-10-26)
  5. Sui ほか「Confabulation: The Surprising Value of Large Language Model Hallucinations」(arXiv:2406.04175、ACL 2024)(参照 2026-10-26)
  6. Kalai ほか「Why Language Models Hallucinate」(arXiv:2509.04664、2025年9月)(参照 2026-10-26)
  7. Claude Platform Docs「ハルシネーションを減らす」(参照 2026-10-26)