要点

対象:AIの「考える」設定を見かけた人

  1. 小さなモデルで思考オンにして正しくなったのは3問中1問
  2. 画面の思考は要約で、下書きそのものではない
  3. 手順の多い作業だけ努力のレベルを上げる

推論モデルは、答えを書く前に、解き方の下書きをするAIです。ClaudeやGeminiの説明では、この下書きを「思考」と呼んでいます。計算や分析のように手順の多い作業では、下書きで途中の結果を確かめるので、答えの質が上がります。18

この記事の目次(5節)
  1. 推論モデルは、答えの前に何をしているか
  2. 思考オンとオフで3問を比べた
  3. Claudeで思考の量を決める設定
  4. よくある誤解
  5. 仕事で使うときに気をつけること

ただし、思考をオンにすれば、いつも正しく答えるわけではありません。このサイトで小さなモデルに3つの質問をしたところ、思考をオンにして正しくなったのは1問でした。残りの2問は、オンでもオフでも正誤が同じでした。

長く考えさせるほど、待ち時間と使用量も増えます。3

HOW A REASONING MODEL ANSWERS 質問 推論モデル 答え 手順の多い質問 下書き → 答え 画面に出る文章 01 02 03 04 聞かれていることを言い換える 解き方を試し、途中の結果を確かめる うまくいかない解き方はやめる 下書きをもとに答えを書く 01〜03が、思考と呼ばれる下書き 答えと同じように、言葉を足して書く 別の解き方に切り替えて、もう一度試す 下書きを書かないモデルは、この段から始める 料金や使用量には、下書きの分も全部入る Claudeの画面に出る思考は要約で、 下書きそのものではない
推論モデルが答えるまでの流れです。01から03が思考と呼ばれる下書きで、04で下書きをもとに答えを書きます。

推論モデルは、答えの前に何をしているか

文章を作るAIは、次に来そうな言葉を1つずつ選んでつなげます(生成AIの仕組み)。下書きをしないAIは、いきなり答えから書き始めます。途中の計算や見直しは、答えの文章の中に押し込むか、省くしかありません。1

推論モデルは、下書きの中で次のことをします。1

  1. 聞かれていることを自分の言葉でまとめ直す
  2. いくつかの解き方を試し、途中の結果を確かめる
  3. うまくいかない解き方はやめる

最後に、下書きをもとに答えを書きます。たとえるなら、テストで途中式を計算用紙に書いてから、解答欄を埋めるようなものです。下書きも答えと同じく、言葉を1つずつつなげた文章です。

「順を追って考えよう」の一言で正答率が上がった

2022年の論文で、答えの前に英語で「Let's think step by step」と一言添えるだけで、AIが途中の考えを書き、算数の文章題の正答率が上がると示されました。東京大学の小島武氏らの研究です。4

日本語にすると「順を追って考えよう」です。

試験には、算数の文章題を集めた2つの問題集(MultiArith、GSM8K)を使いました。4

試したAIと問題集一言なし一言あり
InstructGPT(text-davinci-002)・MultiArith17.7%78.7%
同じAI・GSM8K10.4%40.7%

正しく答えたら報酬を与えて学ばせる

中国のAI企業DeepSeek(ディープシーク)は、頼まれなくても下書きをするモデル「DeepSeek-R1-Zero」の学習のしかたを、論文で詳しく公開しています。5

DeepSeekは、正誤を自動で判定できる数学やプログラミングなどの問題を、モデルに解かせました。答えが合っていれば報酬(学習で与える点)を与え、合っている答えを出しやすくなるように学ばせました。人が書いた解き方の手本は使っていません。5

学習を続けると、下書きはだんだん長くなりました。米国の数学コンテスト「AIME 2024」の問題では、正答率が15.6%から77.9%に上がりました。途中からは、見直すときの「待って(wait)」という言葉が下書きに急に増えました。5

思考オンとオフで3問を比べた

このサイトで2026年10月23日に試しました。使ったのは、中国のアリババが公開している「Qwen3-1.7B」です。中身が公開されていて、誰でもダウンロードして動かせるモデルで、思考のオンとオフを切り替えられます。9

動かしたのはクラウドの作業環境で、かかった時間は目安です。

表の「トークン」は、AIが文章を数える単位です。時間を短くするため、書く量に上限を決めました。上限は思考オンで3,000トークンで、モデルの説明が勧める長さより、ずっと短くしています。9

質問正しい答え思考オフ思考オン
会議室で90分続けて空く最初の時刻15時9時(誤り)・915トークン・約3分半9時(誤り)・3,000トークン・約13分
パンと牛乳の代金のおつり710円710円・157トークン・約35秒710円・598トークン・約2分
水曜定休の店の10月の営業日27日3日(誤り)・311トークン・約1分27日・1,779トークン・約7分

営業日の質問には、思考オンで正しく答えました。下書きは英語で、その中で10月の水曜日を数え直していました。おつりの質問では、下書きに「Wait」と書いて、計算を確かめ直していました。

会議室の質問では、9時〜17時のうち10時〜12時と13時〜15時が予約で埋まっています。90分続けて空くのは15時〜17時だけなので、正しい答えは15時です。

思考オンの下書きは、15時〜17時の空きも1時間と数えてしまいました。そのうえで、いちばん早い空きの9時を答えに選び、「9」と書いたところで上限に届いて止まりました。

思考オンでは、書いた量が思考オフの3〜6倍になりました。小さなモデルで1回ずつ試しただけなので、大きなモデルでも同じ結果になるとは限りません。

Claudeで思考の量を決める設定

Claudeのアプリやブラウザー版では、送信ボタンの横のモデル名を押して「努力」を選ぶと、レベルを選べます。思考をオフにできるモデルでは、同じ所に「思考」の切り替えも出ます。3

努力を上げると、より徹底して考えた答えになります。そのかわり時間がかかり、プランの使用量の上限にも早く届きます。3

Claude Sonnet 5.5・Claude Opus 5.5・Claude Fable 5.1・Claude Opus 5では、アプリで思考をオフにできません。3 この4つで思考の量を変えるときは、努力のレベルを変えます。

努力のレベルヘルプが勧める使い方
低・中日常の作業。使用量を節約できる
高品質と速さのつり合いがよい
非常に高い長く続くプログラミングや、AIに任せる作業
最大いちばん深い推論と分析が要る作業

Claude Sonnet 5.5の努力のおすすめは、Claude Sonnet 5.5の記事にまとめました。3

APIでは、見えない下書きの分も料金に入る

自分のプログラムからAPIでClaudeを使う場合、下書きの分も出力として料金に入ります。返ってくるのが下書きの要約だけでも、料金は下書きの全部にかかります。2

GeminiのAPIも、要約だけが返る場合に、下書きの全部をもとに料金がかかります。8

よくある誤解

「画面の思考を読めば、答えの理由が全部分かる」

ClaudeのAPIでは、返ってくる思考は要約で、元の下書きそのものではありません。要約は、答えたモデルとは別のモデルが作っています。1 アプリの画面に出るのも、思考の全文ではなく「概要」です。3

元の下書きにも、考えたことを全部書くとは限りません。2025年、Anthropicの研究者は、質問に答えのヒントを目立たないように混ぜてAIに解かせ、ヒントを使ったことを下書きに書くかを調べました。6

ヒントを使って答えた問題のうち、Claude 3.7 Sonnetは約25%しか、ヒントに触れていませんでした。R1-Zeroの学習を土台に作ったDeepSeek-R1は、約39%でした。6

「長く考えさせるほど、正しくなる」

2025年の論文では、長く考えさせるほど正答率が下がる問題を、研究者が作って試しました。余計な情報を混ぜた数え上げの問題などで、長く考えるほど、Claudeのモデルがその情報に引きずられました。7

「推論モデルは、別の仕組みで動くAI」

推論モデルも、言葉を1つずつつなげて文章を作る仕組みは同じで、答えの前に下書きをするように訓練されています。5

仕事で使うときに気をつけること

  • 簡単な質問や、ふだんの文章を書く作業は、努力を「低」か「中」にしても足ります。3
  • 計算、計画づくり、資料の分析のように手順の多い作業では、努力のレベルを上げます。3
  • 答えの数字や日付は、画面の思考ではなく、元の資料や自分の計算で確かめます。
  • 自分でAPIを使っているなら、下書きに使ったトークン数を、APIが返す使用量(usage)の欄で確かめます。2
  • ChatGPTにも、考える深さを選ぶ切り替えがあります(GPT-6の記事)。

手順の多い質問をするときは、努力のレベルを1段上げて同じ質問をし、答えが変わるかを比べてみてください。

出典

  1. Claude Platform Docs「思考」(参照 2026-10-23)
  2. Claude Platform Docs「思考のステアリング」(参照 2026-10-23)
  3. Claude ヘルプセンター「モデル、努力レベル、思考設定を変更する」(参照 2026-10-23)
  4. Kojima ほか「Large Language Models are Zero-Shot Reasoners」(arXiv:2205.11916、NeurIPS 2022)(参照 2026-10-23)
  5. DeepSeek-AI「DeepSeek-R1: Incentivizing Reasoning Capability in LLMs via Reinforcement Learning」(arXiv:2501.12948、Nature 645巻)(参照 2026-10-23)
  6. Anthropic「Reasoning models don't always say what they think」(2025年4月3日)(参照 2026-10-23)
  7. Gema ほか「Inverse Scaling in Test-Time Compute」(arXiv:2507.14417、TMLR)(参照 2026-10-23)
  8. Gemini API「Gemini の思考」(参照 2026-10-23)
  9. Qwen/Qwen3-1.7B(Hugging Face・Apache 2.0)(参照 2026-10-23)