要点

対象:会社でAIを使い始め、仕事の測り方が気になる人

  1. EUの調査で、仕事ぶりの監視は使い道の36%
  2. 1915年、米議会が工廠の時間研究への予算を禁止
  3. 測る前に、何を測るかを社員に見せる

AIで社員の仕事ぶりを監視する使い方が、EUの中小・中堅企業に出てきています。社員がそれをどう受け止めるかを考える手がかりが、100年余り前の米国の工場にあります。

この記事の目次(6節)
  1. EUの調査で、仕事ぶりの監視はAIの使い道の36%
  2. 100年余り前、ストップウォッチで作業を測った工廠で工員が職場を離れた
  3. 当時の調査者は「仕事の量は、主に測る係の判断で決まる」と書いた
  4. ここから先は想像です
  5. この未来が近づくなら、先に現れる兆し
  6. 自社で試せること

当時、ストップウォッチで作業の時間を測るやり方が工場に広がり、政府の工廠では議会を巻き込む争いになりました。その経緯をたどり、生成AIで仕事を測る会社がこの先どうなるかを考えます。

EUの調査で、仕事ぶりの監視はAIの使い道の36%

中小・中堅企業の経営者に電話で聞いた調査

欧州委員会は2026年10月14日、EUの会社にAIの使い方を聞いた調査の結果を公表しました。1

従業員1〜749人の民間企業(中小・中堅)の経営者が答えています。聞き取りは2026年の春に、EUの全加盟国で電話で行いました。件数は約12,826件です。1

調査は、AIと「アルゴリズム管理」を一緒に聞いています。アルゴリズム管理は、仕事の割り当て・勤務シフト・仕事ぶりの評価などを、ソフトで助けたり決めたりするやり方です。1

42%の会社が、AIやアルゴリズム管理をすでに使っていました。多くは、一部で試している段階です。1

使い道割合
お客さまへの対応47%
仕事ぶりと生産性の監視(モニタリング)36%
物流・計画・勤務シフトの作成30%

決めるのは人が9割、人事ではAIを信頼しない会社が半数

90%の会社は、決めるのは人だと答えました。すべて自動で決まる判断は2%にとどまります。1

一方で、49%の会社は、人事にかかわる判断ではAIや自動化の仕組みを信頼していません。1

欧州委員会は、雇用の質についての法律の案「Quality Jobs Act」を近く示す予定です。会社にとっての分かりやすさを増し、アルゴリズム管理を受ける社員の権利をもっと守る内容です。1

管理されていると強く感じる人ほど、AIへの不安が強かった

中国のインターネット企業で働く346人に質問票で聞いた調査が、2026年10月21日に心理学の学術誌「Frontiers in Psychology」に載りました。2

アルゴリズムに管理されていると強く感じる人ほど、AIへの不安が強く、仕事の手を抜いたり休みがちになったりする行動も多い傾向がありました。2

仕組みがどう判断しているかが見えると感じている人では、管理されている感じとAIへの不安の結びつきが弱くなっていました。ただし1回の質問票の調査なので、どちらが原因かまでは分かりません。2

100年余り前、ストップウォッチで作業を測った工廠で工員が職場を離れた

作業を細かく分けて時間を測る「時間研究」

技師のフレデリック・テイラーが広めた「科学的管理法」では、時間を測る係が、作業を細かい動きに分けてストップウォッチで測りました。その時間をもとに、組の全員に求める1日の仕事の量を出しました。3

テイラーは、こうして出した仕事の量は科学的な事実で、労使で話し合うものではないと考えていました。「日の出や日の入りの時刻を交渉で決めるようなものだ」というテイラーの言葉を、のちにホキシーが引いています。3

舞台は米国陸軍のウォータータウン工廠

争いの舞台は、マサチューセッツ州にある米国陸軍のウォータータウン工廠です。工廠は1909年に科学的管理法を入れ始め、1911年5月に初めてボーナスを出しました。ボーナスの基準の時間は、ストップウォッチで作業を測って決めました。4

1911年の夏、鋳物工場にボーナスの仕組みを入れようとしたところ、鋳物工場の工員が全員、職場を離れました。工員は数日で戻りました。4

下院は1911年8月21日に、この仕組みを調べる特別委員会の設置を決めました。公聴会は翌年2月まで開かれました。4

1913年6月には、工廠の工員の過半数が、「テイラー・システム」、別名「ストップウォッチ・システム」をやめるよう求める請願を出しました。4

工廠の費用は減ったという報告と、工員の反対をどう見るか

陸軍の兵器局長は、科学的管理法でウォータータウン工廠の費用を49,000ドル節約したと報告しています。1912年6月までの1年の数字です。4

ただ、工員の多くが本当に反対していたかには異論もあります。ドゥルーリーは、請願は工員自身ではなく、ほかの誰かに促されて出たものだとほぼ確実に言える、とみています。4

1915年2月の議会でも、労働団体の幹部は強く反対しました。ただ、工員の大半が反対しているという確かな証拠は示されなかった、とドゥルーリーはまとめています。4

1915年、議会は工廠の時間研究に予算を使うことを禁じた

1915年3月3日、陸軍と海軍のそれぞれの予算の法案に、ストップウォッチでの時間研究とボーナスに予算を使わせないただし書きが入りました。下院が押し切り、上院が渋々のんだ形です。4

これで1915年7月に始まる年度から、政府の工廠ではストップウォッチでの時間研究とボーナスを続けられなくなりました。4

禁止は1年で終わらず、翌年8月に成立した陸軍と海軍の予算法にも、同じただし書きが入りました。作業の開始から完了までの時間や作業中の動作を、ストップウォッチなどで測る監督者の給料に、この法律の予算を使ってはならないという内容です。5

同じ予算法では、改善の提案へのほうびを除き、ふだんの給料に上乗せするボーナスにも予算を使えないとしています。5

ストップウォッチによる時間研究の移り変わり 1909 1911 1913 1915 1916 工廠で導入が始まる 鋳物工場の工員が職場を離れる 工員がやめるよう請願 時間研究に予算を使えなくなる 翌年の予算法にも同じただし書き ウォータータウン工廠 工員は数日で職場に戻る 「ストップウォッチ・システム」 陸軍と海軍の予算の法案(3月) 1916年8月に成立 科学的管理法を入れ始める 2年後、測った時間でボーナス 工員の過半数が 請願を出す(6月) ホキシーが工場など35か所を調べ 「主に測る係の判断で決まる」 時間を測る監督者の給料に 予算法の予算を使えない 8月、下院が特別委員会の設置 を決める。公聴会は翌年2月まで それから110年後 2026年10月 EUの中小・中堅企業の調査で、仕事ぶりの監視が36%
米国陸軍の工廠が科学的管理法を入れ始めてから、時間研究に予算を使うことが予算法で禁じられるまで。下は2026年のEUの調査。

当時の調査者は「仕事の量は、主に測る係の判断で決まる」と書いた

経営側と労働側の代表とともに35か所を調べた

米国の労使関係委員会は、経済学者のロバート・ホキシーに、科学的管理法と働く人の関係を調べさせました。ホキシーは、工場と、導入を請け負う会社を合わせて35か所を調べました。調べた時期は1915年の初めの4か月でした。3

調査には、経営側と労働側の代表が1人ずつ加わりました。3

誰を選んで測るかで、全員に求める時間が変わる

ホキシーは、時間研究で出した仕事の量は、主に測る係の判断で決まると書きました。結果を変える項目として、17を挙げています。3

たとえば、誰を選んで測るか、測った値のどれを捨てるか、疲れやトイレなどの分として時間(余裕時間)をどれだけ足すかです。手の速い人を選んで測れば、全員に求める時間はそれだけ短くなります。3

ただし、時間研究そのものが否定されたわけではありません。条件がそろえば科学に近い正確さで測れ、公平に使っている工場もありました。3

反対する側の言い分は2つ

ドゥルーリーによると、反対する側の言い分は2つでした。無理な速さで働かされること。ストップウォッチで測られるのは屈辱で、人を機械のように扱うこと、です。4

ここから先は想像です

生成AIで仕事を測るときは、時計を手にした係の代わりに、生成AIが仕事の記録を読みます。何を「成果」と数え、何を「むだ」と数えるかは、生成AIに与えた指示や設定で決まります。

ホキシーが見た「測る係の判断」は、生成AIの設定の中に移るでしょう。その設定を社員が見られるかどうかは、会社が決めることになります。

測り方の社内規程を、就業規則と一緒に配る

100年余り前の争いは、議会が政府の工廠での時間研究に予算を使うことを禁じるところまで進みました。生成AIで仕事を測る会社では、外から禁じられる前に、会社が自分で測り方を決めて示すようになるはずです。

測り方を書いた社内規程を、就業規則と一緒に社員に配る会社も出てくるでしょう。規程を先に見せた会社ほど、生成AIをすんなり入れられるようになるかもしれません。

社員も、自分のAIで仕事を記録する

もっと先には、社員の側も自分のAIで自分の仕事を記録し、会社の数字と見比べる日が来るかもしれません。当時の工廠では、測るのは会社の側だけだったように見えます。

記録を両方が持てば、測った数字は一方的な判定ではなく、話し合いの材料になります。

測るほど、記録に残らない形でAIを使う人が増えるおそれ

逆の未来もありえます。生成AIの使い方まで記録に残るなら、記録に残らない形でAIを使う人が増えるかもしれません。使い方を周りに明かさない人は今もいます(AIを使ったと話しにくい職場の記事)。

数字が評価に使われると分かれば、測られやすい形で仕事をする人も出てきそうです。測った数字が、仕事そのものより目立つ職場になるおそれもあります。

この未来が近づくなら、先に現れる兆し

  • EUの「Quality Jobs Act」の案に、アルゴリズム管理についての社員への説明や、社員の代表との協議が書き込まれる
  • 最初から個人名を出さない、仕事の記録をまとめるAIのソフトが増える
  • 何を測り、何を測らないかを書いた社内規程を、社員に公開した会社の例が報じられる
  • 会社が集めた自分の記録を、社員が見られる機能を業務ソフトが備える

自社で試せること

日本では、個人情報保護委員会が、個人データを扱う従業者をビデオやオンラインで監視するときの留意点を示しています。目的をあらかじめ決めて社内規程などに定め、従業者に示すことや、前もって労働組合などに知らせ、必要なら協議することなどです。6

この留意点は、個人データを守るための監視について書かれたものです。仕事ぶりを測るAIでも、同じ順番で準備しておくと、社員に説明しやすくなるはずです。

生成AIで仕事の記録をまとめる前に、4行のメモを書いてみてください。何を測るか、何を測らないか、誰が見るか、人事評価に使うか、の4つです。

書いたメモを社員に見せ、「これで困ることはありますか」と1つだけ聞いてみてください。AIの出した結果を人がどこまで確かめるかは、AIに書かせた下書きをどこまで確認するかの記事で考えました。

AIを社員のように扱うときの責任の分け方は、AIを組織図に載せた会社の記事にあります。確かめる工程が詰まる話は、AIで書く速さが上がっても仕事が速くならない理由の記事で書きました。

測る前にメモを見せて1つ聞くだけでも、100年余り前の工廠が通った争いを避ける手がかりになるはずです。

出典

  1. 欧州委員会 雇用・社会問題・包摂総局「Growing use of AI in European companies」(2026年10月14日)(参照 2026-10-29)
  2. Yong-hui Gao・Yu-feng Pan「Algorithmic management and employees' work withdrawal behavior: the roles of AI anxiety and perceived algorithmic transparency」(Frontiers in Psychology 17、2026年10月21日)(参照 2026-10-29)
  3. Robert Franklin Hoxie「Scientific Management and Labor」(D. Appleton and Company、1915年)(参照 2026-10-29)
  4. Horace Bookwalter Drury「Scientific Management: A History and Criticism」(コロンビア大学、1915年)(参照 2026-10-29)
  5. 米国の法令集 第39巻 619ページ〜(1916年8月29日に成立した陸軍と海軍の予算法)(参照 2026-10-29)
  6. 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」Q5-7(参照 2026-10-29)