コールセンターでは、AIがオペレーターに代わって電話に応対するサービスの導入が始まっています。 約100年前の米国では、電話をつなぐ交換手の仕事が、自動交換機に置き換わりました。 自動化が全米に行き渡るまでには約60年かかり、交換手への影響は年齢によって大きく違いました。 その歴史を調べた経済史の研究から、AIによる電話応対がこれからどう広がるかを考えます。
トランスコスモス、約200社でAI応対を導入へ
コールセンター運営大手のトランスコスモスは、AIが電話に応対する「AIオペレーター」を導入します。 日本経済新聞によると、同社がコールセンターの運営を受託している約200社で、2026年度中に導入する予定です。 相手が考えている間は黙って待つなど、会話の間合いを読む力も高まっているといいます。1
一方で、利用者の評価は厳しいものです。 コンタクトセンター運営のアイ・エヌ・ジー・ドットコムが2026年8月に全国の男女1,597人に実施した調査では、電話窓口のAI対応に満足と答えた人は23.0%でした。 不満と答えた人は36.3%で、満足を上回りました。 「内容が複雑だったり、例外的だったりするとき」は有人対応を望むとの回答が69.3%に上りました。2
自動化が全米に行き渡るまで
1920年代、AT&Tは米国で最も従業員の多い企業で、従業員の半分以上が交換手でした。 交換手は、発信者から相手の局名と番号を聞き、交換台にコードのプラグを差し込んで回線をつないでいました。3
利用者がダイヤルを回せば交換手なしでつながる自動交換機は、1889年に発明されました。 AT&T初のダイヤル式電話は、1919年にバージニア州ノーフォークで開通しました。 AT&Tの電話に占めるダイヤル式の割合は、1930年に32%、1940年に60%でした。4 最後まで残ったカリフォルニア州サンタカタリナ島の手動交換がダイヤル式に切り替わったのは、1978年6月です。 発明から約90年、導入開始から数えても約60年かかりました。3
日本では、交換手が手動で回線をつないでいたころ、市外通話をかけるのに数時間かかることがありました。 日本電信電話公社(電電公社、現NTT)が、全国どこへでもダイヤルですぐにかけられる全国自動即時化を達成したのは1979年です。5 それまで、電話機のハンドルを回して交換手を呼び出す磁石式の手動交換機が、農村や離島の通信を支えていました。6
事業の要だった交換手
米ボストン大学のジェームズ・フェイゲンバウム氏と米デューク大学のダニエル・グロス氏は、AT&Tの社内資料を調べ、自動化が遅れた理由を分析しました。 両氏が2024年に経営学の学術誌「Management Science」に発表した論文によると、交換手は通話をつなぐだけではありませんでした。 通話の時間を計って料金のための記録を付け、番号を知らない利用者を案内していました。 電話機や交換機から番号の決め方、電話帳まで、事業全体が手動交換を前提にできていました。3
そのため、交換台を自動交換機に替えるだけでは、業務が回りませんでした。 都市では交換手に「局名+4桁の番号」を告げていましたが、数字しかないダイヤルでは局名を回せません。 そこでダイヤルの数字にアルファベットを割り当て、局名の頭の数文字をダイヤルで回せるようにしました。 AT&Tは、新聞やラジオ、映画館で流す案内、実演会でダイヤルの回し方を周知しました。 自分で回すのを嫌がり、電話をかける係として秘書を雇う利用者までいました。 費用の中心が人件費から設備費に移るため料金を見直す必要があり、それには規制当局の認可が要りました。3
割に合わなかった小さな町
自動交換機が割に合ったのは、加入者が多く、手動交換が複雑になる大きな都市でした。 加入者の少ない町では効果が小さく、技術が改良されたり加入者が増えたりするのを待つことになりました。 両氏は、一見限られた作業でも、ほかの多くの業務と結び付いていれば、自動化は難しいとまとめています。3
自動化で変わった交換手の雇用
両氏は、2024年に経済学の学術誌「Quarterly Journal of Economics」に発表した別の論文で、交換手の雇用がどう変わったかを調べています。 1910〜40年の国勢調査の全数の個票データを使い、自動化した町としていない町を比べました。 人口10万人以下の2,846の町のうち、261の町が1940年までに自動化しました。 分析したのは、当時交換手の多くを占めた、米国生まれの白人の若い女性です。4
事務職や飲食店の仕事に就いた若い女性
自動化した町では、16〜25歳の女性で交換手として働く人の数が、自動化の直後に50〜80%減り、元に戻りませんでした。 それでも、交換手の代わりにタイピストや秘書のような事務職や飲食店の仕事に就く人が増え、その年代の女性の就業率は下がりませんでした。 その中でも年齢が上の人は交換手と賃金水準の近い事務職に、下の人は賃金の低い飲食店の仕事に就く傾向がありました。4
すでに交換手だった人の10年後
自動化した町の交換手は、自動化していない町に比べ、10年後も交換手を続けている割合が8ポイント低くなっていました。 26歳以上の交換手では、就業率が約7ポイント下がりました。 働き続けた人も多くが職を変え、働き続けた人の約1割は賃金の低い職に移りました。 両氏は、その職種や会社でしか通用しない技能を長年かけて身に付けた人ほど、痛手が大きかったとみています。 自動化のあとも、長距離通話や番号案内、緊急時の対応には、経験を積んだ年長の交換手が残りました。4
研究の限界と異なる見方
研究の対象は、この時代の米国の限られた層の女性です。 製造業の多い町や、大恐慌で景気が落ち込んだ町では、打撃が大きかったといいます。 自動化は働き手にさほど不利にならないとみる先行研究もあります。 これに対し両氏は、すでに交換手だった人が不利益を被ったことから、職を失う側にとって自動化の痛手は小さくないとしています。 当時の自動化は2〜3年前から準備され、予告されていたため、若い人が進む道を選び直せた面もあったのではないかと述べています。 昔の例がいまにどこまで当てはまるかには、この論文では十分に答えていないと断っています。4
ここから先は想像です
電話の応対は、交換手の仕事と同じように、社内の多くの業務と結び付いています。 例えば、リフォームを手がける工務店では、事務の担当者が電話を受けながら工程表を開き、職人の手配がつくかを確かめ、見積書の控えを探しているかもしれません。 AIに電話を任せても、工程表や顧客台帳が紙や担当者の頭の中にあれば、AIは「確認して折り返します」としか言えないでしょう。
交換手の時代に番号の決め方を作り直したように、AI応対でも、用件の分け方を作り直す会社が出てくるのではないでしょうか。 「見積もりの依頼」「工事日の変更」「不具合の連絡」のように用件を分け、それぞれに要る情報をAIが読めるデータに整えるのです。 この作り直しには手間がかかるので、先に広がるのは入電数の多い大規模なコールセンターだとみています。 入電数の少ない会社や店では、AIが割に合うまでに時間がかかるかもしれません。
利用者の側も、交換手の時代と同じように慣れが要りそうです。 ダイヤルを嫌って秘書を雇った人がいたように、AI応対を嫌うお客様のために「人が出ます」を売りにする店も出てくるかもしれません。 自動化のあとも経験を積んだ交換手が複雑な仕事を担ったように、有人対応は例外的な用件に絞られていくと考えます。
気になるのは、いま電話を受けている人です。 研究によると、若い世代は別の仕事に就けた一方、年長の交換手ほど痛手が大きかったといいます。 長年電話を受けてきた人が知っている「このお客さんは急ぎの連絡を夕方にくれる」といった勘は、AIが読むデータを作るときにいちばん役立つ材料になるはずです。 その人にデータ作りを任せられるかどうかで、自動化による痛手の大きさが変わるのかもしれません。
この未来が近づくなら、先に現れる兆し
- AI応対を導入する会社の求人に、トークスクリプトや用件の分類を作る仕事が載り始める
- 業務ソフトの宣伝で、AI応対と予約管理や顧客台帳を連携する機能が前面に出てくる
- 店や会社の案内に「お電話には担当者が出ます」と書き添えるところが増える
- コールセンターの調査で、AI対応に満足と答える人の割合が、用件の種類ごとに示されるようになる
自社で試せること
電話番の担当者に5分だけ時間をもらい、受話器を置いたあとにしている作業を書き出してもらってください。 工程表を直す、顧客台帳に書き足す、職人や営業に伝える、見積書の控えを探す、といった作業です。 その作業が、紙・エクセル・人の記憶のどこに頼っているかを横に書くと、AIに電話を任せる前に整えるデータが見えてきます。
電話を減らすのにAI応対とWeb予約のどちらが向くかは、受付の電話を減らす方法の記事で比べています。 AIが利用者の代わりに店へ電話をかける機能は、Geminiの「Call for Me」の記事で紹介しています。 新しい技術の効果が業績に表れるまでの時間は、工場の電化の歴史から考えた記事で扱っています。 仕事をAIに任せたとき、人の技能がどう失われるかは、人類学から考えた記事で考えています。
出典
- 日本経済新聞「トランスコスモス、空気を読むAI電話番 26年度に200社で実装」(2026年9月26日)(参照 2026-09-29)有料会員向けの記事です。社数と時期は見出しと冒頭で確認しました。
- アイ・エヌ・ジー・ドットコム「電話窓口のAI対応、『満足』は23.0%にとどまり『不満』36.3%が上回る」(PR TIMES、2026年9月9日)(参照 2026-09-29)調査期間は2026年8月3日〜6日、インターネット調査です。
- Feigenbaum, Gross「Organizational and Economic Obstacles to Automation: A Cautionary Tale from AT&T in the Twentieth Century」(NBER Working Paper 29580、2023年7月改訂。Management Science 70巻12号、2024年に掲載)(参照 2026-09-29)
- Feigenbaum, Gross「Answering the Call of Automation: How the Labor Market Adjusted to the Mechanization of Telephone Operation」(NBER Working Paper 28061、2022年4月改訂。Quarterly Journal of Economics 139巻3号、2024年に掲載)(参照 2026-09-29)数字は2022年4月改訂のワーキングペーパーのものです。
- 総務省「令和4年版 情報通信白書」第1部第1章第1節(参照 2026-09-29)
- NTT技術史料館「磁石式手動交換機」(未来技術遺産)(参照 2026-09-29)

