国土交通省は2026年9月、発注者と受注者が工事書類をやりとりする情報共有システム(ASP)に、対話型AIの機能を搭載する方針を公表しました。 地域の建設会社でAIを入れて最初に変わるのは、建設機械の操作ではなく、打合せ簿のような工事書類のやりとりです。建設機械や人の手による作業を担うAIは、2030年ごろの成果を目指して現場で実証を進める段階です。

この記事でわかること

  • 監督職員が現場に出向く回数を減らすため、国は「AI臨場」を導入する環境を整えます
  • 測量・設計などの業務では、成果物の作成に生成AIを使うなら、受注者は発注者との協議のうえ計画書を提出します
  • 建設機械を動かすAIが地域の現場に届くのは、筆者の見立てでは、レンタル機やメーカーの機能を通じてです
この記事の目次(6節)
  1. 全建調査で、AIを活用する企業は2割弱
  2. AI取組方針とフィジカルAI戦略
  3. 書類と検査から変わる
  4. 書類が先、建設機械は後
  5. 最終的な判断は人が担う
  6. 時間を取られている仕事から試す

全建調査で、AIを活用する企業は2割弱

全国建設業協会が2026年4〜5月、47都道府県の建設業協会の会員企業を対象に調査しました。回答2,750件のうち、業務の効率化にAIを活用していると答えた企業は18.7%にとどまりました。活用企業の89.3%は、ChatGPTなどを文書や議事録の作成、翻訳といった事務作業に使っています。活用企業の51.1%は、1割以上の省人化効果があったと答えました。6

書類の負担が問題になるのは、残業時間に上限ができたためです。2024年4月1日から、罰則付きの時間外労働の上限規制が建設業にも適用されました。7 日中は現場で施工管理をし、夕方から打合せ簿や工事写真を整理する現場代理人なら、書類作成の時間がそのまま時間外労働になりかねません。

同じ年に上限規制が適用された物流業界の対応は、物流の2024年問題と配車・点呼の記事で取り上げています。

AI取組方針とフィジカルAI戦略

国土交通省は2026年8月26日、インフラ分野でAIを使うための2つの文書を策定し、9月4日に公表しました。「国土交通省インフラ分野のAI実装に向けた取組方針」(AI取組方針)と、「建設分野におけるフィジカルAI戦略(中間とりまとめ)」です。AI取組方針では、AIを「現場で働く人の能力を拡張させ生産性向上を加速する基盤」と位置づけています。1

直轄工事の書類と検査にAIを使う

AI取組方針の柱の1つは、国が直接発注する工事(直轄工事)で、発注者と受注者がともにAIを使うことです。そこで得た知見を、自治体や中小企業に広げていくとしています。2

具体策の1つは、ASPに対話型AIの機能を搭載することです。ASPは直轄工事で原則として使われ、すべての都道府県と政令市も導入しています。もう1つは「AI臨場」です。発注者がデータの形に整えた基準・規格値と、受注者が現場で計測した出来形のデータを照らし合わせる作業を、AIが手伝います。監督職員が現地に臨場する回数を減らし、監督・検査を効率化するのがねらいです。2

建設機械や人の手による作業を担うフィジカルAI

フィジカルAIとは、センサーで現場の様子をつかみ、自ら判断して機械やロボットを動かす技術です。戦略では、2030年ごろまでに成果を出すため、早いうちから現場で試しながら改良するとしています。2040年ごろを見据えた研究開発も並行して進めます。3

重点8分野は、機械施工(掘削・運搬・敷き均し)、鉄筋や型枠などの人力技能作業、現場内の小運搬、構造物点検、河川や道路の巡視、除草・除雪・清掃、災害調査、災害復旧です。建設業の大部分を中小企業が担っていることを踏まえ、地域の現場にも広がるよう環境を整えるとしています。3

書類と検査から変わる

公共工事の流れを5つの工程に分けると、施工計画・打合せ簿・監督検査・工事完成図書の4つには、国の方針にAIの使い方が書かれています。施工はまだ実証の段階です。

公共工事の流れ 01 02 03 04 05 施工計画 打合せ簿 施工 監督検査 工事完成図書 共通仕様書の 条文をAIで 検索しやすく 対話型AIが 照らし合わせや 協議の提案を支援 フィジカルAIは 実証の段階 規格値と 出来形の照合を AIが支援 機械で読める 形式での納品を 国が検討 国の方針にAIの使い方が書かれた工程 実証の段階
5つの工程のうち、塗りつぶした4つは国の方針にAIの使い方が書かれた工程、点線の施工はまだ実証の段階です。
工程いまのやり方変わること根拠
施工計画設計図書や共通仕様書を読み、施工計画書を作る共通仕様書の条文をAIで検索しやすくなる国の方針1
打合せ簿指示や協議の内容を工事打合せ簿にまとめ、ASPで提出する内容の照らし合わせや、必要な協議の提案をAIが支援する国の方針(将来的な機能イメージ)2
施工建設機械の操作、鉄筋や型枠の作業フィジカルAIの実証を進める国の戦略3
監督検査監督職員が臨場し、出来形を確認する規格値と出来形のデータの照合をAIが支援する(AI臨場)国の方針2
工事完成図書PDFを中心に電子納品する機械で読める形式での納品に向け、国が運用方針を検討する国の方針2

表の打合せ簿の欄は、国の資料で「将来的な機能イメージ」として示されたもので、機能はまだ決まっていません。国がASPの機能要件にAIの機能を加え、民間の各ASPが順次対応していく流れです。2

施工計画と工事完成図書

国土交通省は、技術基準をAIが読み取りやすい形に整える方針も示しました。先行して、土木工事共通仕様書(案)の2026年3月版を、機械で読める情報を加えたHTMLで公開しています。1

成果の納め方も見直されます。AI取組方針では、PDF中心の納品を見直す運用方針を検討するとしています。2 建設コンサルタント業務について、国土交通省はすでに受注者に、報告書の見出しの体系を整え、要旨や結論をマークダウン形式などでも作るよう求めています。4

測量・設計などの業務で生成AIをどう使うか

国土交通省は2026年7月29日、測量・設計・地質調査などの業務で生成AIをどう扱うかを定め、各地方整備局などに通知しました。報告書の文章生成や設計条件の整理など、成果物の作成に生成AIを使う場合は、受注者と発注者が協議して利用範囲を決めます。受注者は「生成AI利活用計画書」を調査職員に提出します。法令や基準の検索、検討資料のたたき台づくりに使うだけなら、計画書は要りません。4

計画書のひな形には、サービス名や、入力データが学習されないようにする措置の有無、生成結果を確認する体制を書く欄があります。個人情報は原則として入力しないとしています。5

書類が先、建設機械は後

ここからは筆者の見立てです。 国の方針の内容から、次の順番で変わっていくとみています。

直轄工事から、自治体の工事へ

AIの機能は、まず直轄工事で使うASPに載ります。先に見たとおり、ASPは都道府県や政令市も導入しているため、各ASPが対応すれば、自治体の工事を受注する会社も同じ機能を使えるようになるはずです。工事打合せ簿はAIが下書きし、担当者が直して提出するやり方に変わるとみています。製造現場で検査記録をAIに下書きさせる方法も、同じ考え方に立っています。

自動車整備工場でも、見積もりや整備記録簿の作成からAIを使い始めています(自動車整備のAI活用の記事)。

フィジカルAIは大きな現場で試されてから

戦略は、現場では想定どおりに動かないことが何度も起きると指摘し、実証を長く続けられる試験フィールドなどを整えるとしています。3 そう考えると、建設機械や人の手による作業を担うAIが広がるのは、国の試験フィールドや大きな現場で試された後になりそうです。地域の建設会社がフィジカルAIを使うのは、当面はレンタルの建設機械や、メーカーが機械に組み込んだ機能を通じてだとみています。

最終的な判断は人が担う

国の方針には、AIに任せない仕事が明記されています。AI取組方針は、方向付けと問題提起、最終的な価値判断と意思決定を、人が担い続ける仕事と位置づけています。住民や社会への説明責任は、発注者である行政の職員が果たすとしています。現場の固有性や倫理的な判断、関係者との調整・合意形成でも、人が主体であり続けるとしています。2

フィジカルAI戦略にも、AIは「人が担うべき最終的な判断や責任に代わるものではない」とあります。3

AIが打合せ簿の下書きを作れるようになっても、その内容で発注者と協議し、安全と品質に責任を持つのは、現場代理人や主任技術者・監理技術者です。書類に取られていた時間を段取りや若手の指導に回せるかどうかで、AIを入れた効果が決まるでしょう。

時間を取られている仕事から試す

時間を取られている仕事まず確認すること
工事打合せ簿・施工計画書の作成使っているASPや施工管理ソフトに、下書きや照合のAI機能が付く予定があるか
議事録・社内の報告書会議の録音から議事録の下書きを作り、担当者が直す流れにできるか
仕様書や基準の確認共通仕様書の条文をAIで探し、元の条文で確認する手順にできるか

どれも大きな負担でなければ、急いでAIを導入する必要はありません。ASPや施工管理ソフトに新しい機能が付くのを待つのも一つの手です。測量・設計などの業務も受注している会社は、成果物の作成に生成AIを使うかどうかを、計画書の提出と合わせて先に決めておくと慌てずに済みます。導入の費用には補助金を使える場合があります(ChatGPTの月額が補助金の対象になるかの記事)。

作業員名簿や図面を入力する前に

工事書類には、作業員名簿のような個人情報や、発注者から預かった図面が含まれます。個人情報保護委員会は、個人情報を含むプロンプトを生成AIに入力する場合、「利用目的を達成するために必要な範囲内であること」を十分に確認するよう求めています。8 国土交通省の7月の通知でも、クラウド型AIサービスへの「無秩序な入力」に懸念を示しています。4 何を入力してよいかの線引きは、IPAが挙げる生成AIのセキュリティ対策が参考になります。

直轄工事や自治体の工事でASPを使っている会社は、まず提供会社に更新の予定を確認しましょう。民間工事が中心の会社は、議事録や社内の報告書から試せます。

出典

  1. 国土交通省「『国土交通省インフラ分野のAI実装に向けた取組方針』及び『建設分野におけるフィジカルAI戦略』(中間とりまとめ)の策定」(令和8年9月4日)(参照 2026-09-27)
  2. 国土交通省 報道発表資料(別紙1「国土交通省インフラ分野のAI実装に向けた取組方針」・概要資料を含む)(令和8年9月4日)(参照 2026-09-27)
  3. 国土交通省「建設分野におけるフィジカルAI戦略(中間とりまとめ)」(令和8年9月)(参照 2026-09-27)
  4. 国土交通省 大臣官房技術調査課「建設コンサルタント業務等における生成AI利活用等について(依頼)」(令和8年7月29日)(参照 2026-09-27)
  5. 国土交通省「生成AI利活用計画書(ひな形)」(受注者配布用)(参照 2026-09-27)
  6. 日本工業経済新聞社「【全建】活用企業は2割に/AI取り組み状況調査」(2026年7月13日)(参照 2026-09-27)
  7. 国土交通省 関東地方整備局「建設業の時間外労働規制まとめサイト」(参照 2026-09-27)
  8. 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)(参照 2026-09-27)

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