国土交通省は、重要事項説明書(以下、重説)や契約書の作成にAIを使う実証事業の参加者を募り、2026年7月頃から9月末までの予定で実施しました。 物件調査で登記情報や公図を取得する作業を自動化するAI製品も出てきました。
この記事でわかること
- 国交省は、AIなどの補助ツールを使ってよいという基本的な考え方を、業界団体に知らせています
- 書類の下書きが速くなっても、重要事項説明と重説への記名は宅建士の仕事です
- AIを試す前に、書式の統一と照合の担当者を決めておくと、任せる範囲を決めやすくなります
国のAI実証と、その背景
国交省がAIの活用を進める背景には、担い手不足があります。 業界紙のR.E.portによると、全国1,747の自治体のうち、宅地建物取引業者(以下、宅建業者)の拠点が一つもない自治体が235あります。国交省は、空き家の流通などを担う宅建業者の不足を懸念しているといいます。7
2025年6月13日に閣議決定された規制改革実施計画は、宅建業者がデジタル技術やAIを使った補助ツールをためらわずに使えるよう、国交省に周知を求めました。重要事項説明に必要な書類作成や読み上げなどの場面ごとに、活用の具体例や留意点を整理し、公表することも求めました。国交省はこれを受けて、補助ツールの活用に関する基本的な考え方と、仲介業務で使われているサービスの具体例をまとめ、業界団体に周知しています。1
重説・契約書など4書類でAIを試す
国交省は2026年5月8日付の事務連絡で、「不動産分野におけるAI活用に関する実証事業」(以下、AI実証)に参加する事業者を募りました。NTTデータ経営研究所と協働で行い、実証期間は7月頃から9月末までの予定でした。採択は約100社を予定していました。2
対象は、重説・売買契約書・賃貸借契約書・媒介契約書の4種類で、事務連絡はこれらを「契約関連書類」と総称しています。参加する事業者は、実際の書類作成業務にAIサービスを導入して使います。AI導入の前後の業務時間や精度は、アンケートとヒアリングで調べます。参加の条件の一つは、4書類のいずれかの作成を主な業務にしていることでした。2
不動産投資会社のベルテックスは、6月24日付で採択されたと7月22日に発表しました。3 公開時点(10月3日)で、国交省の「不動産分野におけるDXの推進」のページに、AI実証の結果は載っていません。1
AI製品が出ている業務
図は、国交省の資料にある仲介業務の流れから、AI製品がある3業務と、重要事項説明を抜き出したものです。
調査から重説の下書きまで
重説作成サービスを手がけるParadisは2026年6月、「Aiスマート重説」で作成した重説と契約書が累計1万件を超えたと発表しました。物件調査の一部をAIが自動で行い、取得済みの資料をもとに下書きを作ります。作成にかかる時間は最短10分としています。同社は、AIが担うのは宅建士が説明する前段の調査や転記、点検だとしています。4
登記情報や公図の取得と反響対応
不動産仲介会社向けの営業支援サービスを手がけるFaciloは、2026年10月1日に3製品を発表しました。1つ目は、売却査定の依頼を受けた後に登記情報・公図・測量図などを取得する「簡易調査AIエージェント」です。2つ目は、反響対応の入力を減らし、次の対応をAIが示す顧客管理システム(CRM)です。3つ目は、物件情報を複数の不動産ポータルサイトに一括で入稿するツールです。同社のサービスは、2026年9月時点で全国2,300店舗が導入しています。5
生成AIの効果は検証の途中
国交省は、AI実証より前に、デジタル技術を使った取引支援サービスの実証を行っています。書類作成のヒューマンエラーと、1案件あたりの対応時間を減らせたという結果でした。ただし、生成AIを使ったサービスの効果は、さらに検証が必要としていました。6
| 業務 | 現在のAI製品の例 | 人が担う業務 |
|---|---|---|
| 反響対応 | 入力を減らし、次の対応をAIが示すCRM5 | 顧客との連絡と物件の案内 |
| 物件調査 | 登記情報・公図・測量図の取得の自動化5 | 現地調査と役所調査 |
| 契約関連書類の作成 | 取得済みの資料から下書きを作る4 | 下書きと調査結果の照合 |
3つの業務とも、AIが担うのは情報の取得と下書きまでで、現地や役所での確認と照合は人が担います。
説明と記名は宅建士の仕事
宅地建物取引業法(宅建業法)第35条により、宅建業者は、宅地建物取引士(宅建士)に重要事項を説明させなければなりません。 契約が成立するまでに、宅建士に重説を交付させて説明させ、重説には宅建士の記名が要ります。8
相手方の承諾があれば、重説を書面の代わりに電磁的方法(電子メールやウェブでの交付)で提供することもできます。8 ただ、これは交付の方法の話で、説明するのが宅建士であることは変わりません。
AIで書いた物件の広告文にも、宅建業法第32条の誇大広告等の禁止がかかります。広告文の注意点はAIで物件紹介文を書くときの記事にまとめました。資格を持つ人が最後に責任を負うのは、税理士事務所のAI活用でも同じです。
契約当事者の個人情報
重説や契約書には、売主と買主の氏名や住所、住宅ローンの情報が入ります。国交省の事務連絡は、契約当事者などの個人情報を含む守秘情報の扱いを別途相談するとしていました。2
個人情報保護委員会は、生成AIに個人情報を入力する場合、利用目的を達成するために必要な範囲内かを十分に確かめるよう求めています。9 社員が誤って私用の生成AIに入力したときの対応は、個人情報の入力の記事にまとめました。
筆者の見立て
今後数年で、重説と契約書の作成にかかる時間は大きく減るとみています。
重説の作成は「下書きの確認」が中心に
国交省が基本的な考え方を周知したことで、AIを使ってよいか迷っていた会社も試しやすくなったとみています。重説を一から作る時間が減れば、宅建士の仕事の中心は、AIの下書きを調査結果と照らし合わせることに移りそうです。照合を急げば、誤りを見落としたまま重要事項説明に臨むおそれがあります。AI実証は、生成AIの効果を確かめる場になるでしょう。
地方の小さな会社でも効果は出るか
人の少ない会社ほど、書類作成の時間が減る効果は大きくなりそうです。一方で、地方の物件は役所調査が多く、AIで取得できる情報は限られるかもしれません。AI実証の結果で、都市部と地方の差が示されるかに注目したいと思います。
AIをどの業務から試すか
AIを試す前に、その業務にかかっている時間を測り、確認する担当者を決めておくと、AIに任せる範囲を決めやすくなります。
| 業務 | 最初に確かめること |
|---|---|
| 重説・契約書の作成 | 書式が、自社か所属団体のものに統一されているか |
| 物件調査 | 登記情報提供サービスを使っているか |
| 反響対応 | 問い合わせが、ポータルサイトとメールのどちらから多く来るか |
| AIの下書きの確認 | 下書きと調査結果を照合する宅建士を、案件ごとに決めてあるか |
| 個人情報の入力 | AIサービスに入力した情報が、学習に使われない設定か |
重説の書式が担当者ごとに違う会社は、まず書式をそろえる必要があります。登記の内容の確認に登記情報提供サービスを使っていない会社は、先にその利用を始めると、AIで自動化できる範囲が広がります。導入の費用に補助金を使えるかは、ChatGPTと補助金の記事が参考になります。
出典
- 国土交通省「不動産業:不動産分野におけるDXの推進」(参照 2026-10-03)
- 国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課「不動産分野における AI 活用に関する実証事業へのご協力依頼について」(事務連絡、令和8年5月8日。全国宅地建物取引業協会連合会のサイトに掲載)(参照 2026-10-03)
- 株式会社ベルテックス「国土交通省『AIを含むデジタルサービスに関する実証事業』に採択 契約書作成にAI活用」(2026年7月22日)(参照 2026-10-03)
- 株式会社Paradis「不動産AI重説SaaS『Aiスマート重説』、重要事項説明書・契約書の累計作成件数が10,000件を突破」(PR TIMES、2026年6月8日)(参照 2026-10-03)
- 株式会社Facilo「Facilo、AI駆動の3プロダクトを新規リリース」(PR TIMES、2026年10月1日)(参照 2026-10-03)
- 国土交通省「不動産媒介(売買・賃貸借)業務において活用されるデジタルサービス一例」(参照 2026-10-03)
- R.E.port「不動産業でのAI活用について検証へ/国交省」(2026年3月31日)(参照 2026-10-03)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」第35条(参照 2026-10-03)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)(参照 2026-10-03)

