deeptierは、AIが設計書からコードを生成し、実装・単体テスト工程の工数を最大90%削減できたとする検証結果を発表しました。 大手SIerが受注を予定している、公共分野の業務システム開発に向けた検証です。

この記事でわかること

  • 検証では、AIの生成物をそのまま成果物とせず、品質を3層で確かめる仕組みを設けています
  • 大手SIerの間では、特定の工程で納期や人月が半減する例も出始めています
  • 再委託では、決めた後で代金を下げると、取適法の減額にあたるおそれがあります
この記事の目次(8節)
  1. 実装・単体テストの工数、最大90%減
  2. 大手SIer、AI駆動開発を重点戦略に
  3. 経産省、AIの現場の課題を募集
  4. ユーザー企業のAI活用は業務効率化が中心
  5. 工数と見積もりの見通し
  6. 再委託するなら取適法に注意
  7. 顧客データをAIに入力する前に
  8. どの工程からAIを試すか

実装・単体テストの工数、最大90%減

検証の結果は2026年9月15日に発表されました。deeptierは、AIを使ったシステム受託開発を手がける会社です。50人月を超える中〜大規模の案件を想定し、2025年10月から2026年3月にかけて、公共分野の業務システムを題材に検証しました。1

実装・単体テスト工程では、AIが設計書を読み込んでコードを自動生成しました。従来は1画面あたり1〜2週間かかっていた作業が、約0.5〜1日に短縮されたといいます。同社によると、設計書作成工程では最大30%、内部結合テスト工程では最大70%減りました。1

工程別の工数削減率(deeptier発表) 01 02 03 04 要件定義 設計書作成 実装・単体テスト 内部結合テスト 発表なし 最大30%減 最大70%減 最大90%減 設計書からAIが コードを生成 検証では、各工程でAIが自動検証を繰り返し、成果物を人が承認した 実装・単体テスト:1画面あたり 従来1〜2週間 → AI活用後 約0.5〜1日
deeptierが発表した、工程別の工数削減率。要件定義の削減率は発表されていません。検証では、各工程の成果物を人が確認し、承認しました。

これらは同社の発表による数字で、第三者が検証したものではありません。1画面の規模も発表には書かれていません。同社は、プロジェクトの規模が大きいほど効果が高まる傾向があると説明しています。1

品質は3層構造で担保

検証では、AIの生成物をそのまま成果物とはしていません。「人による合意・承認」「AIによる自動検証の反復」「工程を横断した統合検証」の3層で品質を担保する仕組みを設けました。この仕組みで、従来の中〜大規模の受託開発と同等の品質を確保できたとしています。1

要件定義から内部結合テストまでの工程ごとに、AI・実装者・上位のレビュー担当者の役割分担と承認フローも定めました。設計書・コード・規約はGitHubで一元管理し、設計書と実装の不整合を防ぐため、AIエージェントが常時監視する対象にしました。1

AIが生成したコードを業務で扱うときの考え方は、AI駆動開発とVibe Codingの違いの記事にまとめました。

大手SIer、AI駆動開発を重点戦略に

大手SIerはAI駆動開発を重点戦略に掲げています。週刊BCNが主要SIerの2026年3月期決算をまとめた記事によると、TISは2030年3月期までに、AI駆動開発で生産性を50%高める目標を打ち出しています。一部のSI案件では、特定の工程に限ると納期や人月が半減する水準に達した例も出始めたといいます。同社は、コンサルタントやITアーキテクトなど、上流工程を担う人材の育成を急ぐとしています。2

野村総合研究所は、AI駆動開発に使う市販ツールを、新しい中期経営計画の期間中に全SIプロジェクトへ適用する計画です。NTTデータグループは、プログラム作成をほぼ自動化できる見込みだとして、人員をNTTドコモビジネスとの連携に振り向けることを検討しています。2

経産省、AIの現場の課題を募集

経済産業省は2025年2月、AIを利用・開発するときの契約で確認すべき点を「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」に取りまとめました。5 2026年9月14日には、AIの開発・提供・利用の現場で起きている契約などの課題について、事例の募集を始めました。締め切りは2026年10月30日17時です。3

集まった事例は匿名化・一般化したうえで仮想の事例にまとめ、有識者の検討会で対応策を議論します。経済産業省は検討結果を報告書にまとめ、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」の改訂に向けた検討にも生かす予定です。3

受託開発会社に関わる論点

募集要項が挙げる論点の例のうち、受託開発会社に関わりが深いのは次の3つです。4

論点募集要項が挙げる例
データの扱い外部と接続したサービスへの機密情報の入力と、NDA(秘密保持契約)との関係
成果物の品質と権利AIの品質保証の規定、RAG(文書を検索して答えに使うAIの仕組み)を含む納品物の扱い、AI生成物の権利の帰属
責任分担開発者・提供者・利用者の間の責任分担、免責や損害賠償額の上限、誤った出力の責任

表のうちデータの扱いは、開発ツールとしてAIを使うときにも当てはまります。成果物の品質と権利、責任分担は、AIを組み込んだシステムを開発・納品するときの論点です。

ユーザー企業のAI活用は業務効率化が中心

IPAが2026年7月に公表したDX動向調査(2025年度)には、国内企業1,799社が回答しました。従業員1,001人以上の企業は8割近くがAIを導入している一方、101人以下では16.6%にとどまります。6

AIの用途で最も多いのは「文書・音声の要約・翻訳・校正」で82.5%です。効果の内容では「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%で最も多く、「売上や利益が向上した」は3.9%にとどまりました。IPAは、業務効率化の段階から新たな価値創出へと発展させることを、今後の課題に挙げています。6

工数と見積もりの見通し

ここからは筆者の見立てです。 今後数年で変わるのは、工程ごとの工数の配分と、見積もりの説明の仕方だとみています。

人月積み上げの見積もりに揺らぎ

実装・単体テストの工数がAIで大きく減れば、実装の人月を積み上げても顧客に根拠を示しにくくなります。一方で、設計書の作り込みとレビューの工数は残ります。見積もりの内訳を、工程ごとの人の作業とAIの利用料に分けて示す形が増えると考えます。

上流工程と検収が重くなる

AIが設計書からコードを生成するなら、成果物の質は設計書の質に左右されます。要件定義と設計で顧客と合意する仕事は、今より重みを増しそうです。AIが生成したコードを誰がどう検証したかを、検収のときに顧客へ示す場面も増えるでしょう。

AIにレビューを任せるときの注意点は、AIにレビューさせるときの注意点の記事で扱いました。

再委託するなら取適法に注意

発表は、受託開発でAIを全工程に広げるには、発注者との合意形成や成果物の定義、承認手続きなど、越えるべき条件が多いと指摘しています。1

協力会社に開発を再委託する会社は、取引条件にも注意が必要です。2026年1月1日に改正下請法が施行され、名称も中小受託取引適正化法(取適法)に変わりました。7 プログラムの作成を委託する情報成果物作成委託も、取適法の対象になりえます。対象になるかは、取引の内容と、双方の資本金か従業員数で決まります。協力会社に発注する側は、取適法では「委託事業者」に当たります。8

発注内容の明示と、代金の減額の禁止

取適法では、委託事業者は、給付の内容や代金の額などを、書面か電磁的方法で直ちに明示しなければなりません。あらかじめ定めた代金を減額することは禁じられています。費用を負担せずに注文内容を変えたり、受領後にやり直させたりすることも禁じられています。8

AIで工数が減っても、決めた後で代金を下げれば、減額にあたるおそれがあります。AIを使う前提で見積もった代金は、発注の前に協力会社と協議して決めておく必要があります。

顧客データをAIに入力する前に

AIに設計書やコードを読み込ませると、顧客の情報が外部サービスに送信されることがあります。こうした入力を顧客とのNDAが認めているかは、AIを使う前に確認しておく必要があります。社内で使えるAIの範囲は、AI事業者ガイドライン第1.2版が求める7項目に沿って決めるとよいでしょう。入力してよい情報の線引きには、IPAが挙げる生成AIのセキュリティ対策が参考になります。

どの工程からAIを試すか

工数がかかっている工程や業務ごとに、最初に確認しておくことは次のとおりです。

工程・業務最初に確認しておくこと
設計書作成設計書と実装の不整合を、誰がいつ見つけるか
実装・単体テストAIが読み込める形で、設計書がそろっているか
内部結合テストテストの観点と期待結果を、人が先に決めてあるか
見積もりAIの利用料と、人のレビューの工数を分けて示せるか
再委託AIを使う前提の代金を、発注の前に協力会社と決めているか
顧客データの扱い顧客とのNDAが、外部のAIサービスへの入力を認めているか

設計書作成・実装・テストの3つは、AIに任せる前に人が整えておくことです。顧客とのNDAが外部サービスへの入力を認めていない場合は、まず顧客と入力してよい範囲を取り決める必要があります。

そのうえで、設計書がそろっている会社は、1案件の実装・単体テストからAIを試せます。設計書があちこちに散らばっている会社は、置き場所と書き方をそろえるところから始める必要があります。開発をクラウドのAIに任せる前に確認する点は、Claude Codeのクラウドセッションの記事にまとめました。

出典

  1. 株式会社deeptier「deeptier、大手SIerと共同で、中~大規模受託開発におけるAI駆動開発手法の検証を実施」(PR TIMES、2026年9月15日)(参照 2026-10-02)
  2. 週刊BCN「主要SIerの2026年3月期決算 堅調な国内IT需要で好業績 AI駆動開発を重点戦略に」(2026年6月1日)(参照 2026-10-02)
  3. 経済産業省「AIの開発・提供・利用の現場における課題に関する事例を募集します」(2026年9月14日)(参照 2026-10-02)
  4. 経済産業省 商務情報政策局 情報経済課「AIの開発・提供・利用の現場における課題に関する事例の募集について(募集要項)」(2026年9月14日)(参照 2026-10-02)
  5. 経済産業省「『AIの利用・開発に関する契約チェックリスト』を取りまとめました」(2025年2月18日)(参照 2026-10-02)
  6. 独立行政法人情報処理推進機構「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開」(2026年7月16日)(参照 2026-10-02)
  7. 中小企業庁「取引適正化、価格交渉・価格転嫁、官公需対策」(参照 2026-10-02)
  8. 中小企業庁「中小受託取引適正化法」(参照 2026-10-02)

任せる

AI秘書に任せる

問い合わせの受付から請求書の作成までの業務を、AIで自動化します。

できることを見る 相談する(初回無料・30分)