筆者は、介護でAIを試すなら、何分減ったかだけでなく、浮いた時間を何に使ったかまで確かめるのがよいと考えます。

この記事の目次(6節)
  1. 加算の要件と検討会の考え方
  2. 訪問と送迎の予定づくりにAIを使った国の実証
  3. 送迎表のAIをうまく使うデイサービス
  4. うまくいった事業所と送迎の実証の違い
  5. 生成AIで書類の原案を作るなら
  6. AIを入れる前に確かめること

国の実証では、訪問の予定を組むAIで職員どうしの調整の時間は減りましたが、職員の残業は増えました。2

一方、実証とは別に国が話を聞いたデイサービスでは、送迎表のAIを入れてから残業がほぼなくなり、浮いた時間を利用者のためだけでなく、職員の休みにも回したそうです。2

介護の「生産性向上推進体制加算」の通知は、委員会で検討した取り組みで効率化できたときは、その時間を介護の質を保つことと職員の負担を減らすことに優先して充てるとしています。1

この通知に、生成AIの記載はありません。加算を算定するときに使う機器は、見守り機器、連絡用の機器(インカムやチャットツールなど)、記録用の機器(介護記録ソフトなど)の3種類です。1

送迎や議事録のAIを記録用の機器として数えられるかも、通知には書かれていません。加算の対象は施設やショートステイ、グループホーム、小規模多機能などで、デイサービスは入っていません。13

加算の要件と検討会の考え方

加算には、上位区分の加算(Ⅰ、月100単位)と、要件の少ない加算(Ⅱ、月10単位)があります。どちらも、毎年度、取り組みの結果のデータ(実績データ)を厚生労働省に報告することが求められます。1

加算(Ⅱ)は、利用者の安全や職員の負担を話し合う委員会を開き、安全対策をとったうえで、機器を1つ以上使って業務の改善を続けることが要件です。加算(Ⅰ)は、3種類すべてを使い、職員の役割分担も見直すことが要件になります。1

加算(Ⅰ)では、導入前後の比較も求められます。総業務時間と残業時間(超過勤務時間)は短くなり、有給休暇の取得日数と利用者の満足度は下がっていないことを示します。1

加算の算定で使う機器と生成AIの使い方 見守り機器 インカム等 介護記録 ソフト等 生成AIによる 原案の作成 離床を感知し、 職員に通報する 職員間の連絡調整を 迅速にする 入力から記録・ 保存・活用まで 一体で支える 計画書や議事録の 原案を作る 算定で使う機器:加算(Ⅱ)は1種類以上、加算(Ⅰ)は3種類すべて 生成AIの使い方:通知に記載がない
色を付けた3つは、加算の算定で使う機器です。点線の枠は、生成AIで計画書や議事録の原案を作る使い方です。この使い方は、通知には出てきません。

厚生労働省の検討会は、2025年7月のとりまとめで、浮いた時間を直接介護(利用者への介助やケア)に充て、利用者と職員が接する時間を増やすことが必要だとしています。4

あわせて、職員の残業を減らし、休暇を確実にとれるようにし、研修の機会を設けるなど、「職員への投資」を充実させることも必要だとしています。4

訪問と送迎の予定づくりにAIを使った国の実証

国は2025年度の実証事業で、「AI活用」の区分として、訪問の予定を組むAIと、デイサービスの送迎表を作るAIを試しました。報告書はどちらも「スケジュール作成AIツール」と呼び、生成AIかどうかには触れていません。2

訪問の予定づくりの実証には、訪問介護と訪問看護の5事業所が参加しました。手順を想定どおりに変えられた3事業所で集計すると、予定を作る時間は少し減り、職員どうしの調整の時間は1日あたり約41分から約11分に減りました。2

担当の職員は、訪問先で介護や看護をする時間が増え、業務時間の合計も長くなりました。実証は、直接介護の時間が増えることを見込んでいました。2

残業は、1人1か月の平均で前年の15時間ほどから25時間ほどに増えました。有給休暇の取得日数は、年10日から6日ほどに減ると推計されています。2

残業が増えた理由は、報告書に書かれていません。聞き取りには職員の退職があったという答えもありますが、残業と結びつける記述はありません。2

送迎の実証には、デイサービスの5事業所が参加しました。訪問と同じ集計で、送迎表の作成と調整にかかる時間は2割弱減りました。残業は月9時間ほどでほぼ変わっていません。2

5事業所とも、介護記録ソフトとは連携していませんでした。記録ソフトやホワイトボードにある情報を取り込みきれず、AIが作った送迎表を使えなかった事業所もあります。2

送迎表のAIをうまく使うデイサービス

国は、実証と同じ送迎表のAIを2024年7月から使うデイサービスにも話を聞いています。うまく使っている例として取り上げた事業所です。2

この事業所によると、最大4時間ほどかかっていた送迎表づくりが、誰が作っても15分ほどで済むようになり、残業もほぼなくなりました。2

浮いた時間は、利用者だけでなく職員にも回しました。休めるときは休むようにした結果、導入した2024年度は前年度より「休暇取得率が10%向上した」といいます。利用者向けイベントの企画の数も、月平均で倍になったそうです。2

うまくいった事業所と送迎の実証の違い

この事業所は、介護記録ソフト、送迎表のAI、音声入力などがすべて連携していることが、いちばん効いていると答えています。記録ソフトと連携していなかった送迎の実証の5事業所とは、この点が違います。2

運営する法人は年2回、職員が仕事ごとにかかった時間を記録して調べ(タイムスタディ)、残業につながっている業務に気づいて見直しているといいます。2

ただ、時期も調べ方も違うので、数字をそのまま比べることはできません。実証の数字は調査票の集計で、この事業所の数字は聞き取りへの答えです。2

筆者は、連携に加えて、時間を測って残業の原因を探したことと、浮いた時間を職員にも回したことが、結果の違いにつながったとみています。

生成AIで書類の原案を作るなら

厚生労働省の検討会は、在宅サービスの効率化の例として、計画書やサービス担当者会議の議事録などの原案を生成AIで作ることを挙げています。4

信頼性やセキュリティの問題はあるものの、実証で効果と使うときの注意点を明らかにすることが重要だとしています。4

国は2025年度の実証で、議事録の作成を支援するAIツールも試しました。6

居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)2か所では、ツールを使えた会議の議事録づくりが1件あたり12分ほどで、録音ができないなどで使えなかった会議の23分ほどより短く済みました。7

実証した事業所は、議事録づくりで出ていた残業がほぼなくなり、利用者宅を訪ねたときにゆっくり話を聞けるようになったと答えています。7

利用者の病歴や障害などの情報は、特に慎重に扱う個人情報(要配慮個人情報)です。5 生成AIに入力してよい情報は、使い始める前に決めておきましょう。

私用の生成AIに個人情報が入力されたときの対応も、前もって知っておくと慌てません。

AIを入れる前に確かめること

仕事確かめること
送迎や訪問の予定づくり予定に使う情報が、記録ソフトと紙やホワイトボードに分かれていないか
計画書や議事録の原案生成AIに入力してよい利用者の情報を決めたか
浮いた時間何に使うかを、職員で話し合って決めたか(委員会があれば委員会で)
残業と休み導入前の残業時間と有給休暇の取得日数を記録しているか

表の最後の2行は、加算の通知の考え方にならいました。加算を算定していないデイサービスでも、同じように確かめられます。

生成AIの使い方が安全かは、情報処理推進機構(IPA)が挙げる5つの対策で点検できます。IPAは、情報セキュリティなどを担う国の独立行政法人です。

機器の費用には、都道府県の補助金が使える場合があります。補助金を実施するのは都道府県で、予算の確保の状況などにばらつきがあります。3

生成AIの機能を組み込んだ業務ソフトは、デジタル化・AI導入補助金の対象になる場合もあります。

補助金の相談は、都道府県の相談窓口(介護生産性向上総合相談センター)でもできます。機器の展示や無料の貸し出しなどをする窓口もあるとされています。4 国は、2026年度末までにすべての都道府県に置くことを目標にしています。3

AIを試す前に、いまの残業時間と有給休暇の取得日数を控え、浮いた時間を何に充てるかを職員と決めておきましょう。

出典

  1. 厚生労働省 老健局「介護保険最新情報 Vol.1236」(令和6年3月29日。生産性向上推進体制加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例等の改正)(参照 2026-10-05)考え方と手順は2024年3月15日の通知(老高発0315第4号)が示し、3月29日の通知(老高発0329第1号)で改正されました。連絡用の機器には、ビジネス用のチャットツールを使うものも含まれます。加算(Ⅱ)でも、連絡用の機器を使うなら、同じ時間帯に勤務する介護職員の全員が使います。実績データの報告は事業年度ごとに1回で、加算(Ⅰ)は(Ⅱ)より報告する項目が多くなります。時間の使い道の決まりは、委員会での検討に基づく取り組みで業務が効率化された場合に当てはまります。原文は「その効率化された時間は、介護サービスの質の確保及び職員の負担の軽減に資する取組に優先して充てること」です。加算(Ⅰ)では、見守り機器は全居室に設置し、連絡用の機器は同じ時間帯に勤務する介護職員の全員が使います。取り組みを3か月以上続けたうえで、総業務時間、超過勤務時間、年次有給休暇の取得日数、利用者の満足度などを比べます。
  2. 厚生労働省 老健局高齢者支援課「介護テクノロジー等による生産性向上の取組に関する調査及び効果測定事業 報告書 Ⅱ/Ⅲ」(令和8年3月。AI活用の実証)(参照 2026-10-06)2025年度「介護テクノロジー等による生産性向上の取組に関する調査及び効果測定事業」の報告書(3分冊の2冊目)です。結果は、手順を想定どおりに変えられなかった事業所を除いた集計です。集計に残ったのは、訪問3事業所、送迎4事業所です。作成・調整の時間は、訪問・送迎とも、担当職員の1日の仕事を8時間(480分)とみなして直した値です。訪問は、作成が43.8分→36.9分(報告書は「微減」)、調整が41.3分→11.3分でした(2回目の事後調査、2025年12月〜2026年1月)。業務時間の合計は、担当職員1人の5日間の積算です。実証の仮説は「直接介護や職員指導等の時間の増加によりケアの質向上に繋がる」です。残業は、報告書の「職員1人1か月当たりの所定外労働時間」です。訪問の残業は職員7人の平均で、2024年9〜12月の14.71時間が2025年同期は25.02時間です。有給休暇は2024年度10.00日、2025年度5.90日(12か月換算の推計)でした。退職の答えは図表X-25・X-26にあります。送迎は作成・調整の時間が44.1分→36.3分です(2回目の事後調査、2025年11月〜2026年1月)。送迎の残業は職員6人で9.41時間→9.45時間、有給休暇は12.75日→13.28日(推計)でした。記録ソフトとの連携なしは図表X-30の注にあります。実証に参加していないデイサービスの話は聞き取りの答えです(図表X-58〜X-61)。休暇取得率は2023年度と2024年度の比較で、導入は2024年7月なので、2024年度には導入前の4〜6月も入ります。「10%」が率の伸びかポイントかは、報告書に書かれていません。浮いた時間でほかの業務ができ、必要人員数を減らせたという答えもあります(職種は書かれていません)。送迎の有給休暇の取得日数は少し増える推計です。
  3. 厚生労働省「省力化投資促進プラン ―介護―」(令和7年6月13日)(参照 2026-10-05)加算の対象は、短期入所系、居住系、多機能系、施設系のサービスです(p.20)。補助金の実施主体は都道府県で、支援体制や予算確保の状況にばらつきがあります(p.2・p.17)。たとえば2024年度補正予算の介護テクノロジー導入・協働化等支援事業は、デイサービスなどの居宅サービスも対象で、2025年度中にケアプランデータ連携システムの利用を始めることが要件でした。居宅サービス事業所が申請できる介護記録ソフトには、ケアプランデータ連携の標準仕様に沿うことなどの要件もありました(p.17)。相談センターは2024年度末時点で31都道府県にあり、2026年度末までに全都道府県に置くのが目標です(p.37)。
  4. 厚生労働省「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会 とりまとめ(令和7年7月25日)(参照 2026-10-05)2025年7月25日のとりまとめです。原文の前半は「業務の改善や効率化により生み出した時間を直接的な介護ケアの業務に充て、利用者と職員が接する時間を増やす」です。後半は「職員の残業削減や休暇の確実な取得、教育・研修機会の付与など職員への投資を充実すること」と続きます(p.24)。生成AIの記述は在宅サービスの効率化の中にあり、計画書やサービス担当者会議等の議事録の原案作成が例です(p.26)。相談センターは、各地域の課題を踏まえて、補助金の相談や機器の展示、無料の貸し出しなどをするとされています(p.28)。
  5. 個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日、令和8年4月一部改正)(参照 2026-10-05)介護関係記録に記載された病歴や障害の事実などが、要配慮個人情報にあたります(p.10)。要配慮個人情報の取得や個人データの第三者提供には、原則として本人の同意が要ります(p.10)。病歴などを含む個人データの漏えいや、そのおそれがあるときは、事業者は個人情報保護委員会への報告と本人への通知をしなければなりません(p.42)。
  6. 厚生労働省 老健局高齢者支援課「介護テクノロジー等による生産性向上の取組に関する調査及び効果測定事業 報告書 Ⅰ/Ⅲ」(令和8年3月。実証施設の一覧と特定施設の実証)(参照 2026-10-06)2025年度の実証事業の報告書(3分冊の1冊目)です。介護付き有料老人ホームなどの特定施設の実証では、会議の音声を文字に起こし、AIが内容を要約する議事録のツールを試した施設があります(p.Ⅰ-36〜Ⅰ-37)。
  7. 厚生労働省 老健局高齢者支援課「介護テクノロジー等による生産性向上の取組に関する調査及び効果測定事業 報告書 Ⅲ/Ⅲ」(令和8年3月。提案型の実証)(参照 2026-10-06)2025年度の実証事業の報告書(3分冊の3冊目)で、事業者の提案を受けて行った実証です。ケアマネ事業所2か所の実証は、社会福祉法人青祥会の提案です(p.Ⅲ-331〜Ⅲ-344)。2回目の事後調査(2025年11〜12月)で、ツールを使えた会議198件の議事録は1件平均12.2分、使えなかった19件は22.7分でした(図表XI-443)。使えた198件のうち92件は、録音できない会議のあとで職員が要点を録音し、その録音をもとにツールが議事録を作りました。残業と利用者宅での話の答えは、図表XI-446にあります。訪問介護では、SOMPOケアの提案の実証で、議事録の作成を支援するAIツールを試しています(p.Ⅲ-49)。

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