税理士事務所でAIを使い始めやすいのは、記帳・月次チェック・申告書の点検の3つの作業です。 freeeとTKCは、この3つを支えるAIエージェントを、自社の会計ソフトに組み込んで提供します。同じ9月には、国税庁が国税システムを更改しました。
この記事でわかること
- AIが自動で記帳しても、ルールに当てはまらない取引は担当者が見る仕組みになっています
- 国税庁は調査の対象選びにデータ分析を使っていますが、9月の更改との関係は示していません
- 職員がAIに入力する内容も、税理士法の監督と守秘義務の範囲に入ると考えられます
この記事の目次(6節)
様式・お問い合わせ番号・e-Taxの接続先が変わった
9月24日の更改で主に変わったのは、書面の申告書などの様式、税務署からの通知に印字する「お問い合わせ番号」、e-Taxの接続先の3点です。一部の申告書や申請書・届出書、法定調書の様式が新しくなり、申告書の控用はなくなりました。お問い合わせ番号は13桁で、納付書の「整理番号」欄(8桁)もこの番号の欄に変わりました。1
e-TaxのIPアドレスは、接続のたびに変わる方式になりました。IPアドレスを指定して接続している場合は、URLでの接続に切り替える必要があります。処分通知などの電子交付も対象が広がり、同意の方法が申請のたびから事前の一括同意に変わりました。1 e-Taxは、メンテナンスのため9月19日0時から24日8時30分までと、26日の終日、利用できませんでした。2
国税庁は2023年に「紙からデータへ」を掲げた
国税庁は2023年6月の「税務行政の将来像2023」で、基幹システムを刷新する考え方を示していました。書面中心からデータ中心の事務処理に移すことと、税目別に分かれたデータベースを統合することの2つです。資料の図では、2026年度の新しいシステムで、e-TaxとAI-OCRで申告を受け付けることになっています。3
調査の対象を選ぶのにもデータ分析
同じ資料によると、国税庁は統計分析や機械学習で申告漏れの可能性が高い納税者を判定し、調査に生かしています。「調査必要度の高い納税者には深度ある調査を行う」としています。3 ただし、9月の更改でこの分析がどう変わるかは国税庁の案内に書かれておらず、更改でAIが調査の相手を選ぶようになったとまでは言えません。1
会計ソフト大手のAIエージェント
会計ソフト会社が、会計事務所向けのAIを自社のソフトに組み込み始めました。汎用の生成AIに顧問先のデータを貼り付けなくても、会計ソフトの中で使えます。
freeeは4種類のエージェント
freeeは「freee顧問先管理」の中で、4種類のAIエージェントの提供を始めました。4
- 記帳エージェント: 証憑や明細から自動で記帳します。ルールが当てはまらない証憑や、推定の確度が低いものは、担当者の確認と修正に回します
- ルール整備エージェント: 記帳の結果から、次回以降に使える記帳ルールの候補を示します
- 月次チェックエージェント: 会計データを貸借対照表・損益計算書・消費税の観点から点検します。異常の原因になっている残高のずれや二重記帳を見つけ、修正を提案します
- 申告書チェックエージェント: 法人税の申告書類と決算の数字を突き合わせ、記載漏れや数値の差異を一覧にします
9月15日に、記帳と月次チェックのエージェントの有償での正式提供が始まりました。申告書チェックは、freeeアドバイザー制度の一部プランの契約者には無償です。4
TKCは巡回監査と顧問先の自計化を支援
TKCは、顧問先(TKCの呼び方では関与先)が使う「FXエージェント」と、会計事務所が使う「OMSエージェント」を発表しました。9月末から順次提供する予定で、価格は別途案内するとしています。5
FXエージェントは、顧問先が自社で日々の記帳をする「自計化」を支えます。仕訳の入力やWeb上の請求書(インボイス)の回収を自動化し、要注意の仕訳を抜き出します。OMSエージェントは巡回監査を支援し、国税庁のチェックリストとの照合も行います。顧問先からの問い合わせへの回答案も作ります。5
顧問先の経理向けのAIサービスも
マネーフォワードは2026年4月、会社の経理や労務をAIが担う「マネーフォワード AI Cowork」を7月から提供すると発表しました。請求書の発行や入金消込、資金繰り予測、給与計算や年末調整を対象にしています。6
会計ソフト会社がAI機能を発表した作業
税理士事務所の主な仕事を5つの作業に分けると、そのうち4つで会計ソフト会社がAI機能を発表しています。
| 作業 | これまでの作業 | 発表されたAI機能(使う人) | 発表した会社 |
|---|---|---|---|
| 資料回収 | 顧問先から証憑や通帳の写しを集める | Web上の請求書(インボイス)の回収を自動化する(顧問先) | TKC5 |
| 記帳 | 証憑を探してひも付け、仕訳を1件ずつ入力する | 自動で記帳し、確度の低いものを担当者に回す(職員)。仕訳の入力を自動化する(顧問先) | freee4・TKC5 |
| 月次チェック | 残高や前月比を見て、原因の仕訳を探す | 残高のずれや二重記帳を見つけ、修正を提案する(職員)。巡回監査を支援する(職員) | freee4・TKC5 |
| 申告書の点検 | 申告書と決算の数字を開いて突き合わせる | 記載漏れや数値の差異を一覧にする(職員)。国税庁のチェックリストと照合する(職員) | freee4・TKC5 |
| 顧問先への回答 | 質問を受け、担当者が調べて返す | 回答案を作る(職員) | TKC5 |
表のうち、資料回収と記帳の一部は、顧問先の経理担当者が使う機能です。導入した税理士事務所での作業時間の削減効果を示す数字は、まだ公表されていません。
記帳担当は入力から確認へ
ここからは筆者の見立てです。 発表された機能から、税理士事務所の仕事は次のように変わると考えます。
判断の要る取引を見る仕事が中心になる
freeeは、この機能で税理士の仕事を「確認・判断」中心に変えると説明しています。4 記帳担当の職員は、仕訳を1件ずつ入力する時間が減り、AIが確認に回した証憑を見る時間が増えるとみています。証憑の多い顧問先でも、定型の取引はAIが記帳するので、職員は判断の要る取引に絞って見られるようになるでしょう。
どこまで自動で処理できるかは、記帳ルールをどこまで整えているかで決まります。ルール整備エージェントは候補を示すだけで、採用するかどうかは人が決めます。4 所内で記帳ルールをそろえている税理士事務所ほど、効果が出やすいでしょう。
記帳代行から助言へ比重が移る
顧問先の自計化が進めば、記帳代行の件数は減っていくとみています。代わりに比重が高まるのは、月次の数字の点検と、資金繰りや経営計画への助言です。顧問先の経費精算にAIを組み込む段取りは、経費精算のAIチェックの記事で取り上げています。ほかの業界でも同じ傾向で、建設業でもまず変わるのは書類づくりです(建設業のAI活用の記事)。
守秘義務と最終確認は税理士に
申告をするのは納税者ですが、税理士は申告書を作り、その内容を確かめる役目を負います。freeeも、月次チェックエージェントは次の対応を提案するまでで、確認・判断・実行は人が担うと説明しています。4
守秘義務も従来どおりです。税理士法第38条は、税理士が「正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない」と定めています。第54条は、税理士事務所の使用人などの従業者にも同じ義務を課しています。第41条の2は、税理士に従業者を監督する義務を課しています。7 職員がAIに何を入力するかも、この監督の範囲に入ると考えられます。
顧問先のデータを入力する前に
個人情報保護委員会は、個人データを含むプロンプトを生成AIに入力する際の注意を呼びかけています。提供事業者がそのデータを機械学習に利用しないことなどを、十分に確認するよう求めています。8 TKCは、入力したデータや生成結果を、ほかの顧客やAIモデルの提供会社に渡さず、初期設定では学習にも使わないとしています。5
会計ソフトに組み込まれたAIでも、汎用の生成AIでも、この点は契約前に確認が必要です。入力してよい情報の線引きは、IPAが挙げる生成AIのセキュリティ対策が参考になります。顧問先の氏名や口座番号を伏せてから入力する方法は、個人情報のマスキングの記事で試しています。
手間のかかる作業から試す
AIに任せる範囲を決めるより先に、AIの出力を誰が確かめるかを決めておくと混乱しません。
| 時間を取られている作業 | まず確かめること |
|---|---|
| 証憑の仕訳入力 | 使っている会計ソフトにAIの記帳機能が付いたか。確度の低い取引を、誰が確認する流れにするか |
| 月次の残高のずれ探し | AIが示した原因を誰が確かめ、顧問先への問い合わせにつなげるか |
| 申告書と決算の数字の突き合わせ | AIが出した一覧を、申告書に署名する税理士が最後に見る手順にできるか |
| 顧問先からの問い合わせ | 回答案を、送る前に誰が直すか |
有償の機能もあるため、freeeやTKCを使っている税理士事務所は、まず提供会社の案内で機能と料金を確かめておくと安心です。生成AIの利用料が補助金の対象になるかは、ChatGPTの月額が補助金の対象になるかの記事にまとめています。
ほかの会計ソフトをお使いなら、提供会社にAI機能の予定を問い合わせてみてください。それまでは、顧問先への案内文の下書きから試せます。
出典
- 国税庁「国税システムの更改について」(参照 2026-09-29)
- e-Tax「国税システムの更改に伴うメンテナンス時間について」(令和8年4月22日)(参照 2026-09-29)
- 国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション -税務行政の将来像2023-」(令和5年6月23日)(参照 2026-09-29)
- freee「税理士事務所向けの資料回収から決算申告までをAIで一気通貫に支援する『freee顧問先管理 | AIエージェント』と『freee Agent Hub』をfAD2026にて公開」(2026年8月7日)(参照 2026-09-29)
- TKC「AIエージェント『FXエージェント』『OMSエージェント』の提供を発表」(2026年5月27日)(参照 2026-09-29)
- マネーフォワード「バックオフィス業務を自律的に遂行するAIサービス『マネーフォワード AI Cowork』を2026年7月より提供開始予定」(2026年4月7日)(参照 2026-09-29)
- e-Gov法令検索「税理士法」(昭和26年法律第237号。第38条・第41条の2・第54条)(参照 2026-09-29)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)(参照 2026-09-29)

