経費精算システムのAIチェックは、申請の段階で誤りを指摘する製品、承認を代行する製品、精算後に全件を監査する製品の3つに分かれます。どれを選んでも、AIは申請を自社の経費規程に照らして点検します。 製品によって、点検する段階と、指摘を受けて確認・修正する人が違います。156

この記事でわかること

  • 申請書を作るAIと点検するAIでは、省ける手間が違います
  • 電通では、AIと人の判定が食い違った原因の一部は、人の側が会社のルールと違う運用をしていたことでした
  • 経費規程に数字や承認者が書かれていないと、AIは違反を指摘できません
この記事の目次(6節)
  1. AIチェックを組み込む3つの段階
  2. 申請書を作るAIと、点検するAIは別物
  3. 電通、20万件の発注承認をAIで点検
  4. AIに読み込ませる前に見直したい、経費規程の5項目
  5. インボイスの記載事項も点検の対象
  6. どの段階から組み込むか

AIチェックを組み込む3つの段階

AIが点検する段階は、申請、承認、精算後の3つです。

WHERE AI CHECKS 01 02 03 申請時 承認時 精算後 申請 承認 精算 申請の段階で 規程違反や記載漏れを指摘 直すのは申請者 承認業務を代行 AIが点検し オペレーターが最終確認 登録済みの申請を全件点検 不正の疑いを 経理担当者に報告 どの段階でも、点検の基準は自社の経費規程 EXPENSE RULES
経費精算の流れと、AIが点検する3つの段階です。どの段階でも、点検の基準は自社の経費規程です。
段階主な製品・機能確認・修正する人
申請時バクラク経費精算「AI申請レビュー」、マネーフォワード クラウド経費「経費申請サポートエージェント」、楽楽精算「申請レビューAI」(開発中)申請者
承認時バクラク承認代行(承認業務をAIとオペレーターが代行)オペレーター(最終確認)
精算後TOKIUM AI経費監査(登録済みの申請を全件点検)経理担当者

どの製品にするかは、自社が何に困っているかから考えると決めやすくなります。困りごと別の選び方は、最後の「どの段階から組み込むか」で紹介します。

申請の段階で誤りを指摘する機能

バクラク経費精算の「AI申請レビュー」は、「社内規定やマニュアルを参照して申請内容を自動チェック」し、規定違反や記載漏れをその場で指摘する機能です。1 マネーフォワードは、2025年12月にクラウド経費の「経費申請サポートエージェント」を一部の利用者向けに提供し始めました。経費規程のデータを取り込んでルールとして登録しておくと、エージェントが規程に合わない申請を見つけ、根拠を添えて修正案を示します。2

楽楽精算の「申請レビューAI」は、事前に設定した承認ルールに基づいて申請内容を点検する機能です。ラクスは、製品サイトで開発中としたうえで、ほかのAI機能とともにオプションで提供する予定としています。34

承認時・精算後に点検するサービス

バクラク承認代行では、転記ミスや添付漏れ、購買申請との食い違い、経費規程に照らした費用の妥当性をAIが点検し、オペレーターが最終確認をします。LayerXは、2026年2月1日に一部の顧客向けに提供し始めました。6

TOKIUM AI経費監査は、経費精算システムに登録された立替経費の申請を全件点検するサービスです。交通費の不正な請求や、領収書の使い回しのように人が見落としがちな不正を見つけ、疑いのある申請を経理担当者に報告します。TOKIUMは、他社の経費精算システムでも使えるとしています。5

申請書を作るAIと、点検するAIは別物

領収書を読み取って申請書を自動で作るAIも増えています。freee(フリー株式会社)によると、freee経費精算の「まほう経費精算」では、AIが申請内容を推測して作成し、利用者は最終確認だけで済みます。7 楽楽精算の「伝票作成AIエージェント」も、領収書から伝票を作る機能です。3

申請書を作るAIは申請者が入力する手間を、点検するAIは経理担当者や承認者が確かめる手間を減らします。製品紹介ではどちらも「AI経費精算」とくくられがちですが、自社の手間がどちらにあるかで選ぶべき機能は変わります。見積もりを取るときは、それぞれが標準機能かオプションかを確認しておきましょう。

電通、20万件の発注承認をAIで点検

キーマンズネットによると、国内の電通グループの原価発注は年間20万件を超えます。その承認業務に、GoogleのGeminiによるAIの判定が組み込まれました。dentsu Japan の根津修二CIOが、講演で明らかにしました。最初の検証では、人とAIの判断の一致率は15.4%でした。8

モデルを替え、プロンプト(AIへの指示文)を直すと、一致率は約95%まで上がり、そこで頭打ちになりました。食い違いの理由を調べると、人の判断が社内ルールと合っていない例が見つかったといいます。会社のルールでは差し戻すべき申請を、部署ごとの独自のルールで承認していた例です。実装の時点では、AIの正解率は99%に達していたとされています。8

正解率99%でもAIに任せなかった取引

それでも、長期的な投資判断を伴う取引や、ほかの案件と合わせて決める取引は、AIに判定させていません。電通側のミスによる補填取引や、システムの都合で起きる例外も同じです。プロンプトはソースコードと同じように管理し、AIの判定はすべてログに記録しています。8

会社の規模は違っても、この分け方は経費精算にも使えます。規程で白黒がつくものはAIに任せ、事情を聞かないと決められないものは人が見る、という分け方です。AIの判定について記録しておく項目は、AIの書き込みを後から説明できる監査ログで挙げています。

AIに読み込ませる前に見直したい、経費規程の5項目

ここからは筆者の見立てです。どの製品も規程を読んで点検する以上、規程に書かれていない決まりに反していても、AIは指摘しません。例えば「タクシーは原則使わない」とだけ書いた規程では、どんなときに使ってよいかをAIは判断できません。電通で見つかった食い違いも、規程と実際の運用のずれでした。

見直す点は次の5つです。経費規程を開き、まだ書いていない項目に印を付け、書き足してください。

□ 金額の上限を数字で明記(「常識の範囲で」「高額な場合」の書き方は数字に置き換え)

□ 例外を認めるときの承認者を明記

□ 交通費の経路の決まり(最も安い経路とするか、定期区間を差し引くかなど)を明記

□ 領収書のない支出(慶弔費など)を出金伝票で処理するときの扱いを明記

□ 部署ごとの申し合わせや、メールで知らせただけの決まりを規程に追記

最後の項目は見落としがちです。口頭やメールで伝えただけのルールは、AIの点検には反映されません。AIの指摘が実態に合わないときは、規程と実際の運用に食い違いがないかを確かめてください。

AIが、規程にない基準をもっともらしく作ってしまうおそれもあります。こうした誤りはハルシネーションと呼ばれます。指示の書き方でどこまで減らせるかは、「推測するな」の1文で作り話が減った実験で紹介しています。

インボイスの記載事項も点検の対象

楽楽精算は、提供予定の機能に「適格請求書チェックAI」を挙げています。3 インボイスの記載事項は6つです。交付先の氏名または名称、売手の氏名または名称と登録番号、取引年月日、取引内容に加え、税率ごとに区分した対価の額の合計額と適用税率、税率ごとに区分した消費税額等が要ります。インボイスを保存していない経費は、原則として仕入税額控除の対象になりません。9 取引先の登録番号が有効かどうかは、国税庁の公表サイトで確かめられます。10

どの段階から組み込むか

差し戻しが多く、何度も出し直しになっているなら、申請の段階で誤りを指摘する機能から試すのが近道です。承認者が少なく承認待ちがたまるなら承認代行のサービスを、立替経費の件数が多く抜き取りの点検にとどまっているなら精算後の監査サービスを検討してください。

いまの経費精算システムを替えずに試したいなら、他社製のシステムにも対応するとしている監査サービスが候補になります。5 ツールの導入費に補助金を使えるかは、デジタル化・AI導入補助金の対象になるもので確かめられます。会計ソフトそのものをAIから操作したい場合は、freee MCPでAIに経理を任せる前の設定が参考になります。

出典

  1. バクラク経費精算の機能一覧(株式会社LayerX)(参照 2026-09-29)
  2. 『マネーフォワード クラウド経費』、AIエージェント「経費申請サポートエージェント」を一部ユーザー向けに提供開始(株式会社マネーフォワード・2025年12月25日)(参照 2026-09-29)
  3. 楽楽精算のAI機能(株式会社ラクス)(参照 2026-09-29)
  4. ラクス、「楽楽精算」の「伝票作成AIエージェント」が「楽楽ビジネスカード」との連携機能を提供開始(株式会社ラクス・2026年7月7日)(参照 2026-09-29)
  5. AIが立替経費申請を全数点検し、不正を検知 「TOKIUM AI経費監査」販売開始(株式会社TOKIUM・2025年7月17日)(参照 2026-09-29)
  6. AI-BPOで経費精算の承認をお任せできる「バクラク承認代行」を提供開始(株式会社LayerX・2026年1月30日)(参照 2026-09-29)
  7. freee経費精算、経費申請の内容をAIが自動で推測し作成する「まほう経費精算」を2月16日より提供開始(フリー株式会社・2026年2月10日)(参照 2026-09-29)
  8. 電通、20万件超の会計承認をGeminiでAI化 精度99%でもAIだけに任せなかった理由(キーマンズネット・2026年9月29日)(参照 2026-09-29)
  9. インボイス制度について(国税庁)(参照 2026-09-29)
  10. 国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト(国税庁)(参照 2026-09-29)

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