製造現場の検査記録にAIを使うなら、最初に決めるのは、測定値そのものにAIを触れさせないことです。AIに任せるのは、確定した測定値をもとにした報告書の下書きと、体裁を整えることだけにします。

この記事でわかること

  • 製品検査データの書き換えは過去に複数発覚しており、記録にAIを使うときの線引きは、ほかの業種よりはっきりさせる必要があります
  • AIを使いやすいのは記録と報告の工程で、測定・合否判定・提出の承認は人に残します
  • 試すなら、測定から遠い作業(文章の体裁を整えるなど)を先にします
この記事の目次(5節)
  1. 検査データ書き換えの前例
  2. 検査記録の4つの工程
  3. AIに任せてよい部分、触れさせてはいけない部分
  4. ラインを止めずに試す順番
  5. よくある質問

検査データ書き換えの前例

日本の製造業では、2017年10月以降、製品検査データの書き換えなどの不正事案が複数発覚しました。経済産業省の2020年版ものづくり白書は、品質保証の体制を、企業の競争力に直結する経営問題と位置づけています。サプライチェーンを通じて、日本の製造業全体の競争力にも影響しかねないとしています。1

検査データの書き換えは、悪意の有無にかかわらず、発覚すれば取引先やサプライチェーン全体の信頼を損ないます。この前例を踏まえずにAIを導入すると、記録の手伝いのつもりが、測定値の改変に近い結果を招きかねません。だからこそ、AIに何を渡し、何を渡さないかの線引きが要ります。

検査記録の4つの工程

検査記録の作成は、次の4つの工程に分けられます。

  1. 測定:計測器や検査装置で測る。目視で検査する
  2. 記録:測定値を帳票やシステムに転記する
  3. 判定:許容値と照らし合わせて合否を決める
  4. 報告・保管:検査成績書を作り、監査に備えて保管する

AIや自動化を使いやすいのは、記録と、そのあとの報告の工程です。例えば、現場帳票を電子化するi-Reporterは、入力する項目と順番を先に決めておくことで、「まとめ書き」や手順の逸脱を防げるとしています。2

まとめ書きは、その場で記入すべき項目を、後でまとめて記入してしまうことです。ここに生成AIを加えれば、電子化した記録をもとに、4番目の工程の報告書まで下書きできます。

AIに任せてよい部分、触れさせてはいけない部分

工程AIに任せてよい部分触れさせてはいけない部分
測定—測定値そのもの(機器による測定を代替させない)
記録測定値を報告様式に並べた下書き、誤字脱字のチェック測定値自体を後から書き換える・埋める行為
判定許容値と照らし合わせた結果を、最初に画面へ示すこと合否の最終判断
報告・保管検査成績書の文面の下書き顧客に提出してよいかの最終承認

表の右の列は、どれも人が責任を持つ値と判断です。

例えば、金属部品の寸法を毎日測っている工場なら、検査員が測定値を確定させたあとで、AIが報告書の文面を下書きする流れが考えられます。検査員は、文面の数値を帳票と見比べてから提出することになります。

i-Reporterは、帳票が編集されるたびに、いつ・誰が編集したかを記録するとしています。2

こうした記録は、AIによる下書きとも相性が良いものです。どの文面をAIが下書きし、どの値を人が確定したかの履歴が残れば、あとから追跡できます。医療の分野でAIの書き込みに監査ログを残す考え方と同じで、業種を問わず成り立つと言えます。

一方で、AIが作った文章に測定値が混ざると、どの値を人が確定したのかを見分けにくくなるおそれがあります。AIには記録の体裁を整えさせても、測定の事実そのものには関わらせません。これが、この記事の線引きです。

ラインを止めずに試す順番

製造現場では、ラインを止めると損失が大きくなります。新しいツールをいきなり全工程に導入するのは、リスクが高すぎます。記録と報告の工程の中でも、さらに影響の小さい部分から試すのが現実的です。

  • まず試せる範囲: 測定値が確定したあとの、報告書や検査成績書の文面の下書きと、体裁を整える作業
  • 次に試せる範囲: 既存の電子化システムの警告表示と組み合わせた、許容値の照合結果の表示
  • 最後まで人に残す範囲: 測定、合否の最終判定、顧客に提出してよいかの承認

影響の大きい工程ほど、後に回します。測定の事実から遠い作業(文章の体裁を整えるなど)ほど、AIが誤っても実害が小さく、試す費用も抑えられます。

事実の記述は公開資料に基づいています。線引きと試す順番は筆者の考えです。

よくある質問

Q. 合否の判定もAIに任せられませんか。
許容値と照らし合わせた結果を画面に示すところまでは任せられます。合否の最終判断は、人に残します。

Q. 検査記録の電子化は、改ざんの防止に役立ちますか。
役立つ場合があります。例えばi-Reporterは、編集の履歴を残すことで不正な改ざんを防げるとうたっています。ただし、これは電子化システム自体の機能で、AIの導入とは別の話です。

出典

  1. 第1部第1章第3節 製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進:2020年版ものづくり白書 | 経済産業省(参照 2026-08-10)
  2. 品質検査・点検業務を効率化する現場帳票電子化システム | i-Reporter(参照 2026-08-10)

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