白油知

申し送りはAIでどこまで変わるか

申し送りが負担になる理由をSBARなど構造化報告の考え方から整理し、AIに任せられる部分(情報の整形)と、人が持つべき部分(アセスメント・判断)を分ける。

申し送りとは、勤務交代の際に患者の状態・経過・注意点を次の担当者に引き継ぐ業務のことである

申し送りが負担になる理由の中心は、「必要なことだけを簡潔明瞭に伝える」という作業そのものが、実際にやってみると簡単ではないことにある(看護roo!)。伝える側は患者の状態を丸ごと把握しているぶん、何を省いてよいかの判断がつきにくく、結果として情報が多すぎるか、逆に肝心な点が抜け落ちるかのどちらかに傾きやすい。

医療現場ではこの問題に対して、SBAR(Situation・Background・Assessment・Recommendation=状況・背景・アセスメント・提案)のような構造化された報告の型が使われてきた。SBARは重要な情報を「何を・どの順序で伝えるか」を明確にするテクニックだが、型を守るだけでは十分ではなく、「状況を正しくアセスメントして判断できていなければ、よりよい報告にはならない」とも指摘されている(看護roo!)。つまり申し送りの質を決めているのは、伝え方の技術と、伝える中身(患者の状態をどう評価したか)の両方であり、この2つは分けて考える必要がある。

申し送りを工程に分解する

申し送りという業務を分解すると、次のような工程になる。

  1. 情報の収集 — その勤務帯に起きたことを把握する(バイタル・処置・患者の様子の変化)
  2. アセスメント — 収集した情報から、何が重要で何が経過観察でよいかを判断する
  3. 構成 — SBARのような型に沿って、伝える順序を組み立てる
  4. 伝達 — 次の担当者に実際に話す・記録する

このうち、AIが役に立ちやすいのは③の「構成」の部分である。収集済みの情報を、SBARのような型に沿って整形し、伝える順序を組み立てる作業は、決まった型があるからこそ機械的な整形と相性がよい。逆に、①の情報収集そのもの(何が実際に起きたかという事実)と、②のアセスメント(その事実から何を重要と判断するか)は、患者を直接見ている人にしか持てない情報と判断であり、AIが代替できる領域ではない。

AIに任せてよい部分・人が持つ部分

工程AIに任せられる部分人が持つべき部分
情報の収集実際の観察・測定・患者とのやり取り
アセスメント何が重要で何が経過観察でよいかの判断
構成メモ書きをSBARの型に沿って整形する下書き型に落とし込む前の情報の取捨選択そのものは人が決める
伝達整形済みメモを記録として残す作業の補助口頭での伝達、緊急度に応じた伝え方の調整

ここで大事なのは、AIが「構成」を助けられるのは、あくまで人がすでに収集し、アセスメントを終えた情報を渡した場合に限られるという点である。SBARという型自体が「状況を正しくアセスメントして判断できていなければ、よりよい報告にはならない」という前提の上に成り立っている(看護roo!)ため、AIに丸投げしてアセスメントの部分まで任せてしまうと、型は整っていても中身が伴わない申し送りになりかねない。

診療判断には踏み込まない

この記事は業務としての申し送り(情報の伝達・整理)に限定して書いており、患者の状態に対する医療的な判断・治療方針の決定には触れていない。AIが「何を重要な情報とみなすか」を提案することはあっても、その提案を採用するかどうかの最終判断は、患者を直接見ている看護師・医師が持つべき領域である。

まとめ

申し送りの負担は、情報を整理して簡潔に伝える技術的な難しさと、何を重要と判断するかという臨床的な難しさの両方から来ている。AIが助けられるのは前者、つまり収集済みの情報をSBARのような型に沿って整形する部分に限られる。アセスメントという中身の部分を人が持ち続ける限り、AIは申し送りの負担を減らす補助になり得る。

よくある質問

Q. AIに申し送りを丸ごと任せられますか? A. 任せられない。情報の収集とアセスメント(何を重要とみなすか)は、患者を直接見ている人にしか持てない判断であり、AIが代替できる領域ではない。

Q. AIが申し送りメモをSBARの型に整形してくれるのは、どんな場面で役立ちますか? A. すでに人が収集・アセスメントを終えた情報を、伝わりやすい順序に整えたい場面で役立つ。整形前の情報の取捨選択自体は人が行う必要がある。

Q. SBARとは何ですか? A. Situation(状況)・Background(背景)・Assessment(アセスメント)・Recommendation(提案)の頭文字で、重要な情報を簡潔に伝えるための構造化された報告の型である。

出典

  1. うまく伝わる「報告」「連絡」 | 看護roo!(参照 2026-08-10)