申し送りでAIに任せられるのは、伝える内容を順序立てて並べる部分です。何が起きたかをつかみ、何が重要かを判断するのは、患者を直接見ている看護師の役目です。
この記事でわかること
- 電子カルテの記録から要点を整理するAIを、導入しようとした病院の例
- 患者情報を生成AIに入力してよい条件
- AIの下書きで起きやすい誤りと、その確かめ方
申し送りが難しい理由
申し送りは、勤務交代のときに、患者の状態・経過・注意点を次の勤務の担当者に引き継ぐ業務です。「要点だけ簡潔に」と言われても、伝える側は患者の全体を把握しているだけに、何を省いてよいかの判断がつきにくくなります。その結果、話が長くなりすぎるか、肝心な点が抜けるか、どちらかになりがちです。
例えば、夜勤のあいだに受け持ち患者の何人かに状態の変化があった日は、伝えたいことが多くなります。経過を時系列で話し始めると、次の勤務の担当者が最初に知るべき「いまの状態」が後回しになってしまいます。
SBARは、急変時の医師への報告(ドクターコール)などで使われる伝え方の型で、申し送りにも応用できます。Situation(状況)・Background(背景)・Assessment(アセスメント)・Recommendation(提案)の頭文字をとったものです。1
看護roo!には、道又元裕ほか編著『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)の解説が転載されています。同書は、「必要なことだけを簡潔明瞭に伝える」のは実際には簡単ではないと指摘し、日ごろの報告や申し送りで意識して使うよう勧めています。そのうえで、技法に習熟しても「状況を正しくアセスメントして判断できていなければ、よりよい報告にはならない」としています。1
申し送りの4つの段階
申し送りの流れは、次の4段階に整理できます(業務を細かく分けて考える方法は業務の棚卸しの記事で紹介しています)。
- 情報の収集 — その勤務帯に起きたことを把握する(バイタルサイン・処置・患者の様子の変化)
- アセスメント — 集めた情報から、何が重要で、何が経過観察でよいかを判断する
- 構成 — SBARの順に、伝える内容を並べる
- 伝達 — 次の勤務の担当者に口頭で伝え、記録に残す
| 段階 | AIに任せられる部分 | 看護師が担う部分 |
|---|---|---|
| 01 情報の収集 | — | 実際の観察・測定・患者とのやり取り |
| 02 アセスメント | — | 何が重要で何が経過観察でよいかの判断 |
| 03 構成 | メモをSBARの順に並べ直した下書きの作成 | 型に入れる情報の選択と、下書きの確認 |
| 04 伝達 | — | 口頭での伝達、緊急度に応じた伝え方の調整、記録 |
表のとおり、AIが手伝えるのは03の構成です。01と02は、患者のそばにいる人にしかできない仕事です。アセスメントまでAIに任せると、型は整っていても中身が伴わない申し送りになりかねません。
電子カルテから要点を整理する病院の取り組み
生成AIの使い道は、自分のメモの並べ直しに限りません。電子カルテの記録から要点を整理する使い方を、病院として導入しようとする例もあります。
JCHO大阪病院の例
独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)大阪病院は2026年2月19日、生成AIを使う計画を発表しました。年間約1万6000件の退院サマリーの作成を生成AIで支援し、看護申し送りに必要な要点の整理にも使う計画です。富士通Japanなど3社と組み、同年6月の運用開始を目指すとしていました(その後の稼働状況は未確認)。2
院内ガイドラインを先に定める
同じ発表で、病院は運用の前に院内ガイドラインを整えるとしています。ガイドラインでは、医療情報の機密性を踏まえ、データや生成AIの出力の扱いを定めるとしています。2
例えば、AIの要約を誰が確かめ、どこに残すかが決まっていないと、確かめていない要約がそのまま引き継がれるおそれがあります。
患者情報を入力する前に確かめること
申し送りの内容を、個人で登録した生成AIサービスに入力してはいけません。 病状などの情報は要配慮個人情報にあたり、病院がその取り扱いに責任を負います。
個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIサービスの利用について注意喚起を出しました。事業者が個人情報を入力するときは、「利用目的を達成するために必要な範囲内であること」を十分に確認するよう求めています。本人の同意なく入力した個人データ(患者情報など)が応答の出力以外の目的で扱われれば、入力した事業者が個人情報保護法に違反するおそれがあるとも指摘しました。そのため入力する側に、提供事業者がデータを機械学習に使わないことなどを確認するよう求めています。4
個人で登録したサービスは、病院がこうした確認をしたものではありません。患者情報を入力してよいのは、入力が利用目的の範囲内か、入力したデータが学習に使われないかを病院が確かめ、院内ガイドラインで使用を認めたサービスだけです。
AIの下書きで起きやすい誤り
AIは引き継ぎ文書を細かく書ける一方で、情報が抜けたり、筋道を誤ったりすることがあります。 米国の救急外来での研究で、こうした傾向が見られました。対象は看護師ではなく医師の引き継ぎですが、下書きを確かめる点は看護の申し送りにも通じます。
AIと医師の引き継ぎ文書を比べた研究
研究チームは、救急外来から病棟へ患者を引き継ぐときの文書を、AIに書かせました。救急外来の受診1600件分の記録をもとに作成し、うち50件を救急科の専門医3人が5点満点で評価しました。3
| 評価(5点満点) | AIが書いたもの | 医師が書いたもの |
|---|---|---|
| 有用性 | 4.04 | 4.36 |
| 安全性 | 4.06 | 4.50 |
AIの文書は、どちらの項目でも医師の文書をやや下回りました。命に関わる問題は見つからなかった一方、評価のうち約9%で情報の抜けが、約7%で論理の誤りが、患者安全上の問題につながりうると判定されました。医師の文書では、どちらも0%でした。3
研究チームは、電子カルテに組み込むなら、医師が下書きを確認・修正してから確定する仕組みにすべきだとしています。3
下書きの確認ポイント
看護の申し送りでも、AIの出力は完成版ではなく下書きとして扱います。確認するのは、次の4点です。
| 確認すること | 確認の仕方 |
|---|---|
| 自分が重要と判断したことが、最初に来ているか | Situation(状況)の1行目を読む |
| メモや記録にない数値・出来事が足されていないか | 数値と時刻を記録と照合する |
| 勤務中にあった変化が抜けていないか | 自分のメモと照合する |
| AIの推測が、事実のように書かれていないか | 言い切っている文に根拠があるかを見る |
どれも、AIの文章の上手さではなく、中身が自分のアセスメントと合っているかを見る項目です。
この記事で扱う範囲
この記事で扱うのは、申し送りの情報の整理と伝達までです。個々の患者についての判断の中身や、治療方針には立ち入りません。AIが重要な情報の候補を挙げることはあっても、採用するかどうかを判断するのは看護師です。
次に読む記事
- 院内に生成AIのガイドラインがまだないなら、院内の生成AI利用ガイドラインの作り方をご覧ください
- 電子カルテの記録から要約を作る製品を比べるなら、看護記録AIの選び方をご覧ください
- 自分のメモの並べ直しに使うときも、院内ガイドラインで認められたサービスの範囲で試してください
出典
- うまく伝わる「報告」「連絡」 | 看護roo!(参照 2026-10-03)
- JCHO大阪病院、退院サマリー作成と看護申し送りの要点整理に生成AIを活用(IT Leaders・2026年2月19日)(参照 2026-10-03)
- Developing and Evaluating Large Language Model–Generated Emergency Medicine Handoff Notes(JAMA Network Open 2024;7(12):e2448723)(参照 2026-10-03)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)(参照 2026-10-03)

