看護記録に何を書くべきかは、150年以上ほとんど変わっていません。変わったのは書き残す手段です。紙から電子カルテ、音声入力、AI要約へと移ってきました。
この記事でわかること
- 一般病院で電子カルテの普及率が6割を超えるまで、12年かかりました
- リハビリテーション病院1施設の調査では、看護師が勤務時間の約3割を記録などの間接業務に充てていました
- 音声入力には、処置の直後に記録を残せるという利点が挙げられています
記録が看護の一部になったとき
近代看護は、1860年にフローレンス・ナイチンゲールによって確立したとされます。ナイチンゲールはクリミア戦争から帰還したあと、この年に『看護覚え書』を書きました。東京有明医療大学の解説では、この本は、人類史上初めて「看護とは何か」を定義した本とされています。同じ年にはロンドンに看護婦養成所を設立し、本格的な養成教育を始めました。1
看護を定義することは、「何を観察し、何を書き残すか」を定めることでもありました。看護記録は、看護が専門職として確立した当初から、その一部だったと言えます。
紙から電子カルテへ
日本の医療現場では、長く紙のカルテが使われてきました。1970年代にレセプトコンピュータ(レセコン)が登場し、医療事務のIT化が始まりました。1999年には電子カルテが生まれ、2005年頃には、レセプトソフトと連動する電子カルテの開発が進みました。いまは、厚生労働省のガイドラインが示す原則を満たせば、電子データでカルテを保存できます。2
普及には、そこから長い時間がかかりました。一般病院の電子カルテ普及率は、2011年の21.9%から2023年には65.6%まで伸びました。一般診療所は、同じ期間に21.2%から55.0%へ伸びています。34
記録などの間接業務にかかる時間
九州圏のリハビリテーション病院1施設で、8日間の業務時間を秒単位で測った調査があります。看護師は勤務時間の約3割(32.2%)を、記録・連絡調整などの間接業務に充てていました。同じ調査で測った看護師と介護職(看護助手)の平均22.0%を、約10ポイント上回ります。51施設の実測であって、全国調査ではありません。
電子カルテは検索性と共有性を大きく高めましたが、入力の手間を減らすことには限界がありました。キーボードでは、処置や観察をしながら入力できません。そのため多くの現場で「ケアが終わってから、まとめて記録する」運用が続きました。記憶が薄れてから書く負担と、勤務の終わりに記録がたまる負担が残ったのです。
例えば、日勤の終わりに、午前中の観察内容をまとめて記録するとします。数時間前の観察を思い出しながら書くことになり、細部が抜けるおそれがあります。
音声入力とAI要約
AIで記録を要約する製品も出てきています。主な製品は、音声入力とAIによる要約を組み合わせた記録支援の比較にまとめています。
電子カルテを扱うウィーメックスの解説では、音声入力の活用例として、有床の施設で看護師が病棟での観察内容をメモとして残す場面が挙げられています。処置の直後に記録を残せるので、記憶が新鮮なうちに正確な内容を記載できる、という利点です。ケアの後にまとめて書いていた記録を処置中に入力できるようになり、残業時間の削減につながった事例も紹介されています。6
音声入力は、電子カルテがもたらした「探しやすさ」とは別の変化で、観察から記録までの時間を縮めます。
紙から電子カルテへの移行は、保存と共有の形を変えました。音声入力とAI要約が書く手間を減らしてきたとすれば、次に起きうるのは、記録をもとに、異変に気づくのをAIが手伝う使い方です。ただし、これは現時点で確立した標準ではなく、今後の技術と制度の整備を待つ段階です。
よくある質問
Q. 音声入力を使えば記録の質も上がりますか。
A. 入力の手間が減れば、見直しに回せる時間が増え、質を上げる余地は生まれます。ただし、内容の正確さに責任を持つのは、これまでどおり記録した本人です。
Q. AIが記録の下書きを作るなら、確認は不要になりますか。
A. なりません。AIによる要約や下書きは、事実と異なる内容を含むことがあります。観察した本人が内容を確認する工程は必要です。
Q. 紙の記録には今も意味がありますか。
A. 施設の運用や災害時のバックアップなど、紙が残る場面はあります。ただし、検索性・共有性では電子カルテが優れています。
出典
- 東京有明医療大学 — 看護の歴史(参照 2026-08-12)
- ITトレンド — 電子カルテの歴史を紹介(参照 2026-08-12)
- ユヤマ公式コラム — 電子カルテ普及率の最新動向(参照 2026-08-12)
- エムスリーデジカル — 電子カルテ普及率がついに55%超へ(参照 2026-08-12)
- 株式会社最中屋 — 医療職の業務実態調査レポート(参照 2026-08-12)
- ウィーメックス(旧PHC) — 電子カルテ×音声入力活用シーンを紹介(参照 2026-08-12)

