電子カルテのクラウド型とオンプレミス型は、費用より先に、安全管理ガイドラインへの対応・障害時の診療継続・データ移行の3つの点を確かめてから選びます。 費用は最後に、残った候補の間で総額を比べます。クラウド型はベンダー(電子カルテを提供する事業者)が用意したサーバーをインターネット経由で使い、オンプレミス型は院内にサーバーを置いて運用します。1

この記事でわかること

  • 2026年6月の安全管理ガイドライン第7.0版では、どの編に従うかが、クラウド型かオンプレミス型かではなく、保守契約の中身で決まるようになりました
  • 過去のカルテの記載まですべて移す場合、データ移行の費用は100万〜数百万円かかることがあります
  • 国は、クラウドネイティブ型(最初からクラウドで動かす前提の製品)の導入を補助する案を、2027年度予算の概算要求に盛り込みました
この記事の目次(8節)
  1. クラウド型とオンプレミス型の違い
  2. クラウド型の強みと弱み
  3. 安全管理ガイドライン第7.0版への対応
  4. 障害とサイバー攻撃への備え
  5. データ移行と、解約時の取り出し
  6. 費用は同じ年数の総額で比べる
  7. ベンダーに聞くことと、選び方の目安
  8. よくある質問

クラウド型とオンプレミス型の違い

AI問診や予約システムは、電子カルテとの連携が前提です。どちらの型を選ぶかで、後から入れられるシステムも変わります。

確認の順番 01 02 03 04 安全管理ガイドラインへの対応 障害時の診療継続 データ移行と、解約時の取り出し 保守の責任がベンダーにあると契約で確かめられるか 紙運用や予備回線で診療を止めずに済むか 解約時にデータを取り出せるか、移行の費用はいくらか 満たせない製品は 継続の手段がない製品は 費用が読めない製品は 外す 外す 外す 同じ年数の総額 初期費用・月額・保守費用・更新の費用を、残った候補だけで比べる 最後に
電子カルテの型を選ぶときに確かめる3つの点と、最後に比べる費用。上から順に確かめ、費用は残った候補だけで比べる。
比較項目クラウド型オンプレミス型
サーバーと保守ベンダーが用意し、保守も担う院内に設置し、保守はベンダーに委託するか自院で行う
初期費用機器を買わないので抑えやすい機器の購入費がかかる(保守と更新の費用は別)
回線障害のとき使えなくなる(予備回線に切り替えれば使える製品もある)影響を受けにくい
サーバーの故障データセンター側の復旧を待つベンダーが院内でサーバーを復旧する
カスタマイズしにくいしやすい

表は、厚生労働省の案内資料と、販売会社・比較サイトの解説をまとめたものです。1234 カスタマイズのしやすさは製品で異なります。院内のサーバーとクラウドの両方にデータを置き、障害時にクラウドへ切り替えられるハイブリッド型の製品もあります。2 この表は特定の製品を勧めるものではなく、当サイトはどのベンダーとも提携していません。

クラウド型の強みと弱み

クラウド型の強みは、機器を買わずに済み、保守をベンダーに任せられることです。 初期費用と院内の機器の保守費用を抑えられます。製品によっては、往診先など医療機関の外でもカルテを見たり入力したりできます。1 バージョンアップもベンダーが行います。3

弱みは、インターネット回線に依存することです。4 既存の医療機器との連携には制約が多く、動作の速さ(レスポンス)は通信環境に左右されます。23 また、クラウド型に切り替えても、部門システムのサーバーや認証サーバーが院内に残る場合があります。1

安全管理ガイドライン第7.0版への対応

クラウド型を選んでも、安全管理ガイドラインへの対応は必要です。 厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」は、2026年6月に第7.0版に改定されました。5

保守委託機関編の対象になるか

第7.0版で新設された保守委託機関編の対象は、すべてのサーバーのセキュリティアップデートをベンダーに委託し、その責任をベンダーが負う契約を結んでいる医療機関です。クラウド型(SaaS型)の電子カルテのほか、オンプレミス型でも、保守契約が同じ内容なら対象になります。ただし、契約書や約款、サービスレベル合意書(SLA)にその旨が明記されている場合に限ります。記載がない、または曖昧な場合は、医療機関の責任とみなされるおそれがあります。6

対象になる医療機関は、ベンダーが出す医療情報セキュリティ開示書(MDS/SDS)でシステム運用編の項目を確かめれば、対応したものとみなされます。対象外の場合は、システム運用編の項目に自院で対応します。保守委託機関編は、可能な限りクラウドサービスを選び、保守をベンダーに委託するよう求めています。6

どちらの型でも医療機関が担うこと

院内のパソコンやルーターのセキュリティアップデートは、医療機関の責任です。ログイン時の二要素認証(パスワードに加えて、別の手段でも本人を確かめること)は、2027年度までに採用することが求められています。対応が難しい場合は、2027年度以降のシステムの更新のときに、対応できるベンダーを選びます。6 院内の生成AIの利用ルールも、安全管理ガイドラインを踏まえて作ります。

障害とサイバー攻撃への備え

回線障害のとき、オンプレミス型は院内で使い続けられますが、クラウド型は予備回線やテザリング(スマートフォンの回線をパソコンで使うこと)に切り替えるまで使えません。4 どの型でも、止まっている間は紙運用に切り替え、復旧後にシステムへ入力(後入力)します。1

例えば、クラウド型の電子カルテを使う診療所で、朝の受付の直前に回線が切れたとします。予備回線に切り替えるまでは、紙の伝票で受付と会計を進めることになります。カルテの2号用紙や処方箋用紙の予備と、障害時の対応手順書を用意しておきます。4

攻撃は外部との接続から入る

大阪急性期・総合医療センターは、2022年にサイバー攻撃を受けました。外部ネットワークとつなぐVPN(院外と院内のシステムをつなぐ専用の接続)から侵入され、通常の診療に戻るまで1か月以上かかりました。国は、近年の医療機関の被害のほぼすべてが、外部ネットワークとの接続点を狙ったものだとしています。7 オンプレミス型でも、リモート保守の回線があれば、同じ備えが必要です。

データ移行と、解約時の取り出し

データ移行の費用は、どこまでのデータを移すかで大きく変わります。 ベンダーごとにデータ構造が違い、そのままでは移せません。準備は、稼働の半年〜1年前から始めるのが理想とされています。8

移行する範囲費用の目安
患者基本情報(頭書き。氏名・生年月日など)だけ数万〜数十万円
患者基本情報と病名・処方歴数十万〜100万円程度
過去の記載まですべて変換する100万〜数百万円
過去のカルテをPDFにして参照する数十万円程度

シェーマ(手描きの図)やスキャンした文書は、移せない場合があります。契約によっては、データの取り出しに高額な作業費がかかったり、解約に違約金がかかったりすることもあります。8

そこで、契約を結ぶ前に、解約時に医療情報をどう取り出すかの取り決めを確かめます。MDS/SDSの「移行の際に診療録等のデータを標準形式で出力・入力できるか」の項目も見ます。6 国の医科診療所向けの電子カルテの標準仕様書(第1.0版)は、他社製品へデータを移すための共通の形式の例を示しています。9 カルテは医師法で5年間の保存が義務づけられているので、解約後もその期間のデータを取り出せるかも確かめます。10

費用は同じ年数の総額で比べる

クラウド型の費用の目安は、初期費用0〜20万円・月額1〜10万円程度です(主要28サービスの公開価格の最低額。2026年3月更新の調査)。オンプレミス型は初期費用に数百万円かかることが多い一方、長く使えば総額を抑えられることがあります。11

総額は「初期費用+月額×月数+保守費用+次の更新の費用」で出します。導入と更新の費用は台数や規模で変わるので、ベンダーに確認します。1

国の目標と補助の案

国は、2030年までに電子カルテの普及率を約100%にする目標を掲げています。2023年の国の調査では、電子カルテを導入している一般診療所は55.0%、一般病院は65.6%でした。国はクラウドネイティブ型への切り替えを進める方針で、標準仕様書に沿った製品を認証する制度も作る予定です。79

2027年度予算の概算要求には、認証を受けたクラウドネイティブ型の導入費用と、オンプレミス型からのデータ移行費用を、補助率2分の1(上限あり)で補助する案が盛り込まれました。概算要求は各省が財務省に予算を求める段階のもので、予算が決まったわけではありません(2026年9月30日時点)。7

国の電子カルテ情報共有サービスは、紹介状(診療情報提供書)などを他の医療機関と共有する仕組みです。使えるのは、対応する電子カルテを導入した医療機関だけです。1 紹介状の送り方を変えたいなら、候補の製品が対応しているかも確かめます。

ベンダーに聞くことと、選び方の目安

見積もりを頼むときに、次の7項目をまとめて聞きます。「分からない」という答えの項目は、まだ比べられません。

#聞くこと
1サーバーのセキュリティアップデートの責任は、契約書・約款・SLAのどこに書いてあるか
2MDS/SDSを出してもらえるか
3二要素認証に対応しているか
4回線が切れたとき、予備回線で使えるか。障害時の補償(利用料の減額など)はあるか
5リモート保守の回線はどこにあり、誰が管理するか
6解約時にデータを標準形式で取り出せるか。その費用と違約金はいくらか
7同じ年数の総額と、次の更新の費用はいくらか

1〜3の答えで、保守委託機関編の対象になるかどうかと、自院で担う作業の量が分かります。答えは、稟議書の比較の欄にそのまま使えます。

迷ったときの目安

  • 専任のシステム担当者がいない診療所は、保守委託機関編の対象になれる契約のクラウド型から比べます。
  • いま使っているオンプレミス型の更新時期が近いなら、標準仕様書に沿ったクラウドネイティブ型も見積もりに入れます。
  • 部門システムとの連携が多い病院は、オンプレミス型やハイブリッド型も候補に残します。大病院向けのクラウドネイティブ型は、国が開発を支援している段階です。7

よくある質問

Q. クラウド型電子カルテのデータは安全ですか。
厚生労働省の案内資料によると、入力したカルテの情報は暗号化してクラウドに送られ、保存されます。ただし、院内の端末とルーターの対策は医療機関の責任です。

Q. 導入にはどのくらいの期間がかかりますか。
一般的には1か月〜数か月です。医療機関が行うのは、主に設定内容の確認と操作研修の受講です。

Q. カルテの5年の保存期間は、いつから数えますか。
保険診療では療養担当規則により、診療した日ではなく、診療が完結した日から数えます。長く通院している患者のカルテは、初診から5年を過ぎても保存が必要です。

出典

  1. 厚生労働省「電子カルテ導入に向けたご案内資料【電子カルテ未導入の病院・診療所の方々へ】」令和8年7月 1.1版(参照 2026-09-30)
  2. オンプレミスとクラウドで電子カルテを比較して自院に合う製品を選ぶ方法(参照 2026-09-30)
  3. クラウド型電子カルテ18選比較!シェア・ランキング・費用・メリットも紹介(ITトレンド)(参照 2026-09-30)
  4. 電子カルテのトラブル原因と対処法について(参照 2026-09-30)
  5. 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版(令和8年6月)(参照 2026-09-30)
  6. 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版 保守委託機関編(参照 2026-09-30)
  7. 厚生労働省「電子カルテ普及計画」令和8年9月9日(参照 2026-09-30)
  8. 電子カルテのデータ移行完全ガイド|失敗しない手順・費用相場・注意点を徹底解説(参照 2026-09-30)
  9. 医科診療所向け 電子カルテ及びレセプトコンピュータ 標準仕様書(基本要件)第1.0版 令和8年3月31日(参照 2026-09-30)
  10. 電子カルテの保存期間とは?5年保存の法的義務と長期保存のポイント(参照 2026-09-30)
  11. 電子カルテの費用相場 - コストを抑えるためのポイント(参照 2026-09-30)

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