電子カルテはクラウド型とオンプレミス型のどちらを選ぶか — 比較の軸を先に決める
電子カルテのクラウド型・オンプレミス型は料金一覧だけでは選べません。安全管理ガイドラインへの適合・障害時の診療継続・データ移行の3つを先に確認し、費用は最後に比べるという判断の順序を整理します。
目次
電子カルテのクラウド型・オンプレミス型とは
電子カルテのクラウド型とオンプレミス型とは、システムをどこに置き誰が保守するかによる分類である。 クラウド型はベンダーのサーバーを回線越しに使い、オンプレミス型は自院にサーバーを設置して自院で管理する。
記録AI・音声入力・AI問診・予約システムの比較記事は数多くあるが、そのどれもが「電子カルテに連携する」ことを前提にしている。土台である電子カルテ自体をどちらの型で選ぶかは、後から入れるツールの選択肢や運用の形を先に決めてしまう。この記事は個別製品のランキングではなく、何を先に確認し、何を最後に比べるかという順序を整理する。
比較表
| 判断軸 | クラウド型 | オンプレミス型 |
|---|---|---|
| 安全管理ガイドラインへの適合 | 事業者との責任分界を契約で明確にすれば、運用面の一部を簡略化できる場合がある | ガイドラインの経営管理・企画管理・システム運用の全編を自院の責任で満たす必要がある |
| 障害時の診療継続 | 回線が確保できれば継続しやすいが、通信断そのものには弱い | 停電・機器故障は院内で完結するが、復旧までの代替手段は型を問わず必要 |
| データ移行・退出時の持ち出し | 解約時はベンダーの規定に従う。形式変換に数万〜数百万円の幅がある | 自院管理だが、他社形式への変換費用はクラウド型と同様に発生する |
| 初期費用と月額の構造 | 初期0〜20万円程度、月額1〜10万円程度が目安 | 初期は数百万円規模になりやすく、月額の保守費は個別見積もり |
この表は特定製品を推奨するものではなく、いずれの事業者とも提携関係はない。以下、上から順に確認する理由を説明する。
順序1 — 安全管理ガイドラインへの適合
厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」第6.0版(2023年5月改定)は、電子カルテを含む医療情報システムを対象にしている。クラウド型を選んだからといって適合義務が軽くなるわけではない。ガイドラインが求めるのは、クラウド事業者との間で責任分界点を契約上明確にすることであり、それができて初めて運用面の一部を簡略化できる。オンプレミス型は専任担当者の有無にかかわらず、経営管理・企画管理・システム運用の全編を自院の責任で参照する必要がある。この確認を後回しにすると、費用や機能で選んだ製品が、契約書上どこまで自院の責任かを明文化できていない状態で稼働することになる。
順序2 — 障害時の診療継続
電子カルテにトラブルが起きた場合、復旧するまでは紙カルテで代替するしかない、というのが実務での基本対応である。白紙の記録用紙や処方箋をあらかじめ準備しておくこと、クライアント端末が故障した場合の代替端末、停電時の紙伝票の準備などが事前対策として挙げられている。クラウド型はモバイルルータやテザリングで回線を確保できれば利用を継続できる場合があるが、回線そのものが切れれば型を問わず使えなくなる。院内サーバーとクラウドを併用し、障害時にクラウド側へ切り替えて診療を継続できるハイブリッド型を用意する製品もある。「型を選べば障害に強くなる」わけではなく、どの型でも紙運用への切り替え手順と、紙から電子へ戻す手順の両方を事前に決めておく必要がある。
順序3 — データ移行と退出時の持ち出し
電子カルテはメーカーごとにデータの保存形式が異なり、標準化されていない。乗り換え時の移行費用は方式によって幅がある。患者の氏名・生年月日などの頭書き情報だけなら数万〜数十万円。過去の病名・処方歴まで検索・引用できる形で完全に引き継ぐ「データコンバート」は数十万〜数百万円。コストを抑えて過去カルテをPDF化して参照する方法なら数十万円程度が目安とされる。シェーマ(手描き図)やスキャン文書、メーカー独自機能で作成したデータは移行できない場合がある。契約時に、解約時のデータ抽出費用や違約金の有無を確認しておくことが、型そのものの選択より重要になる。
順序4 — 初期費用と月額の構造は最後に比べる
上の3つを満たす候補が絞られてから、ようやく金額の比較になる。目安としてクラウド型は初期費用0〜20万円程度・月額1〜10万円程度、オンプレミス型は初期費用が数百万円規模になりやすい一方、専門事業者による保守を必要としない分、長期の運用費が抑えられる場合がある。初期費用の低さだけでクラウド型を選ぶと、順序1〜3で確認すべき条件を後から交渉することになりやすい。
選び方 — 迷ったときの目安
初期投資を抑えたい・専任のシステム担当者がいないクリニックは、責任分界を契約で確認できることを前提にクラウド型が選びやすい。自院で運用ルールを細かく統制したい・専任担当者がいる医療機関は、全編の責任を負う前提でオンプレミス型、または障害時にクラウド側へ切り替えられるハイブリッド型も検討候補になる。
FAQ
Q. 電子カルテはクラウド型とオンプレミス型、どちらが安いですか。 初期費用はクラウド型が低く、オンプレミス型は数百万円規模になりやすいです。長期の総額は運用年数や保守内容で変わるため単純比較はできません。
Q. クラウド型ならガイドライン対応は不要になりますか。 いいえ。適合義務は型で変わらず、事業者との責任分界を契約で明確にする作業が必要です。
Q. システム障害が起きたら診療はどうなりますか。 どちらの型でも復旧までは紙カルテでの代替運用が基本です。白紙の記録用紙や手順書を事前に用意しておく必要があります。
Q. 電子カルテを乗り換えるとき、過去のデータはそのまま移せますか。 移行方式によってできることが変わります。完全な引き継ぎには数十万〜数百万円の変換費用がかかる場合があり、PDF化などで費用を抑える方法もあります。
Q. 解約後、過去のカルテはどのくらい保存する必要がありますか。 医師法により、診療が完結した日から5年間の保存義務があります。契約時に、この期間分のデータ持ち出し方法を確認しておく必要があります。
Q. クラウド型とオンプレミス型の中間の選択肢はありますか。 院内サーバーとクラウドを併用し、障害時にクラウド側へ切り替えるハイブリッド型を提供する製品もあります。
電子カルテの選定軸の整理から、連携するAIツールの検討まで、あわせてご相談いただけます。
出典
- 医療情報システムの安全管理に関するガイドラインとは?第6.0版での変更点と対応ステップも解説(参照 2026-08-13)
- 電子カルテの費用相場 - コストを抑えるためのポイント(参照 2026-08-13)
- 電子カルテのトラブル原因と対処法について(参照 2026-08-13)
- 電子カルテのデータ移行完全ガイド|失敗しない手順・費用相場・注意点を徹底解説(参照 2026-08-13)
- オンプレミスとクラウドで電子カルテを比較して自院に合う製品を選ぶ方法(参照 2026-08-13)
- 電子カルテの保存期間とは?5年保存の法的義務と長期保存のポイント(参照 2026-08-13)