要点
対象:業務で生成AIを使い始める看護職
- 患者情報は院内規程の確認まで入れない
- 議事録や研修レポートの下書きから試す
- 「分からない」を許すと誤りが減る
生成AIは、看護師に代わって判断する道具ではありません。材料はそろっているのに、まとめる時間がない文書の下書きを作る道具です。使わない領域を先に決めておくと、かえって使える範囲が広がります。
生成AIとは
生成AIは、こちらの指示(プロンプト)をもとに、文章や画像を作るAIです。要約・下書き・言い換え・構成案づくりが得意です。看護職が使い始めるなら、この範囲の仕事から始めれば十分です。
注意したいのは、事実と異なる内容をもっともらしく書くことがある点です。日本医師会の検討委員会は2026年4月の答申で、大規模言語モデルは「もっともらしい嘘(ハルシネーション)を出力するリスクを内在している」と述べています。存在しない薬剤相互作用や架空の論文を、根拠として示した事例も報告されています。4
先に引く3つの線
| 線 | 内容 | 理由 |
|---|---|---|
| 患者情報を入力しない | 氏名・ID・生年月日・具体的な経過など、個人を特定できる情報を外部のサービスに貼らない | 入力した内容がサービス側でどう扱われるかは、施設の規程とサービスの利用規約で決まる |
| 医学的な正誤の判断を任せない | 治療・薬・アセスメントの妥当性そのものをAIに決めさせない | 生成AIは、事実でない内容を書くことがある |
| 提出物の責任は自分が負う | 出典・数字・固有名詞は自分で確かめてから出す | 「AIが書いた」は提出先への説明にならない |
患者情報をどこまで入力してよいかは、使い始める前に情報システム担当に問い合わせ、院内規程で確かめてください。確認が終わるまでは、患者情報を扱わない仕事だけに使います。
3つの線の根拠
3つの線については、個人情報保護委員会の注意喚起と日本医師会の答申に、それぞれ同じ趣旨の記述があります。
患者情報を入力しない線。 個人情報保護委員会は2023年6月(令和5年6月)の注意喚起で、個人情報取扱事業者に次の2点を示しています。公立の施設などの行政機関等には、別の項が立てられています。3
- 個人情報を含む指示を入力するときは、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確かめる
- あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを入力し、応答の出力以外の目的で扱われると、個人情報保護法に違反する可能性がある。入力するなら、サービスを提供する事業者が個人データを機械学習に使わないことなどを、十分に確かめる
患者の情報を扱う施設が規程を作る、または見直すときも、この2点を確認してください。
判断を任せない線と、責任を持つ線。 日本医師会の答申は、AIの出力を批判的に評価して最終的な診療判断を下し、説明責任を負うのは「常に医師である」としています。4 医師を対象にした記述ですが、AIの出力を自分で確かめ、責任を持つという考え方は、看護職が作る文書にも通じます。
最初の1週間で試す順番
材料が手元にある仕事から始めれば、線を越えずに済みます。
| 順番 | 仕事 | なぜ先か |
|---|---|---|
| 1 | 議事録・研修レポートの下書き | 材料が手元にあり、様式が決まっていて、患者情報を扱わずに済む |
| 2 | 長い通知・マニュアルの要約 | 元の文書を自分で持っているので、誤りにすぐ気づける |
| 3 | 勉強会・説明の構成案づくり | 中身の正しさは自分で判断し、骨組みだけ任せる分担にできる |
| 4 | 自分が書いた文章の推敲 | 元の意味を知っているのは自分なので、最も失敗しにくい |
例えば、病棟会の議事録を担当しているとします。会議のメモと前回の議事録を貼り、「前回と同じ様式で下書きを作ってください」と頼みます。出てきた下書きは、自分のメモと見比べて直します。
後に回したほうがよいのは、手元に材料がない調べ物です。材料を渡さずに聞くと、AIは学習した知識から答えを作ります。看護の現場で必要な精度に届かないことが多く、確認に時間を取られます。
指示は「新しく来た同僚」に出すつもりで書く
指示文(プロンプト)は、事情をほとんど知らない同僚が読んでも、そのとおりに作業できる書き方にします。同僚が迷うような指示では、AIも迷います。生成AI「Claude」を開発する米Anthropic社の公式ガイドのうち、実務で効くのは次の4つです。1
- 出力の形式と制約を具体的に書く。 順序が大事なら、番号付きの手順にします
- 理由を添える。 ねらいが伝わり、それに合った答えが出てきます
- 例を見せる。 形式や語調をそろえるには、特に確かな方法です。Anthropic は3〜5個を勧めています
- 役割を一文で伝える。 「あなたは病棟の教育担当です」だけでも、答え方と語調が変わります
院内の文書は様式が決まっていることが多いので、過去の資料を2〜3件そのまま貼るのが、いちばん手早い方法です。場面別のひな形は看護師がそのまま使える生成AIプロンプト10選にまとめています。使う指示文が決まってきたら、次は院内の文書をAIに「探させる」段階に進むこともできます。
誤りを減らす2つの指示
Anthropic が公開しているハルシネーション対策のうち、看護の仕事に役立つのは次の2つです。2
- 「分からない」と答えることを許可する。 指示文に「確信が持てない、または情報が足りない場合は『十分な情報がありません』と答えてください」と書きます。Anthropic は、この簡単な方法で誤りを大きく減らせるとしています
- 渡した資料の中だけで書かせる。 一般的な知識を使わないよう明示します
ただし、この2つを指示文に入れても、ハルシネーションは完全にはなくなりません。2
重要な情報は必ず確かめてください。実務では、数字・固有名詞・引用元・日付の4つを元の資料と突き合わせれば足ります。全部を疑うと、時間の短縮になりません。
よくある質問
Q. 無料のサービスでも業務に使ってよいですか。
入力した内容がどう扱われるかは、利用規約とプランによって異なります。業務に使ってよいかは、まず施設の規程で確かめてください。
Q. 患者の氏名を伏せれば貼ってもよいですか。
どこまで伏せれば個人を特定できなくなるかは、判断が分かれます。規程の確認が終わるまでは、患者情報を扱わない仕事に限るのが安全です。
Q. AIを使ったことを明記する必要はありますか。
施設の方針によります。方針にかかわらず、内容の責任が作成者にあることは変わりません。
出典
- Anthropic — プロンプティングのベストプラクティス(参照 2026-08-09)
- Anthropic — ハルシネーションを減らす(参照 2026-08-09)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(個人情報保護委員会・令和5年6月2日)(参照 2026-10-05)
- 日本医師会 AIの臨床利用に関する検討委員会 答申「AIに関する臨床的課題と生命倫理について」(2026年4月)(参照 2026-10-05)
