看護師の勤務表(シフト)をAIで作る場合も、AIが出すのは登録した条件を満たす原案までです。手作業なら数時間から数日かかる勤務表づくりも、条件を整理しておけば短時間で原案ができます。2
導入前に病棟で決めておきたいのは、夜勤回数の上限と下限、希望休の優先順位、必要人数の下限の3点です。ツールを入れたら、これに診療報酬や法律で決まっている夜勤の制限を加えて登録します。
この記事でわかること
- 登録する条件は、根拠ごとに4つに分けると登録漏れを防げます
- 72時間ルールは同じ入院基本料を算定する病棟をまとめた平均で判定するため、1人あたりの夜勤回数の上限は施設で別に決めます
- 導入後は、原案を手直しした理由を新しい条件として登録していくと、翌月の手直しが減ります
この記事の目次(7節)
AIにできること・できないこと
シフト作成AIが得意なのは、数値で表せる条件をすべて満たす組み合わせを探すことです。必要人数・希望休・夜勤回数・勤務時間・公休日数などを一度に確かめながら、勤務表を組めます。2
一方、相性やチームの雰囲気のように数値にしにくいことは、AIだけでは考慮できません。急な欠勤で勤務を組み替えるかどうかは、最終的に師長など現場の責任者が決めます。「できれば土日休みに」のようなあいまいな希望も、ルールとして整理されていなければAIには扱えません。2
例えば、師長が夜勤回数の上限と希望休だけを登録して原案を作らせたとします。新人同士を組ませない条件を登録していなければ、新人同士が同じ夜勤に入る原案が出てくることがあります。ツールによっては、こうした組み合わせを避ける条件も登録できます。1
看護業務全体でどこまでAIに任せられるかは、看護師の仕事はAIに奪われるのかで解説しています。
導入前に明文化しておく3つのルール
ルールがあいまいなままでは条件として登録できず、原案の確認や手直しが増えます。
- 夜勤回数の上限と下限(月に何回まで入れるか、何回は入ってほしいか)
- 希望休の優先順位(先着順か、育児・介護などの事情を優先するか)
- 必要人数の下限(時間帯別・重症度別に、何人を下回ってはいけないか)
先に明文化しておくと、「AIの案が現場の感覚と合わない」という不満が出にくくなります。
次の雛形の空欄を、部署の勤務表を見ながら埋めてみてください。5分で埋まらない欄があれば、その項目のルールはまだ部署で決まっていません。
勤務表のルール(〇〇病棟)
夜勤回数: 1人あたり月_回まで、最低月_回(夜勤専従の人は別枠)
希望休: 1人あたり月_日まで。重なったときの優先順位は__(先着順/育児・介護などの事情を優先)
必要人数の下限: 日勤_人、夜勤_人(重症の患者が_人以上の日は_人)
あわせて書き出しておくもの
深夜業の制限を請求している人: _人(一人ひとりの期間は別の一覧)
登録する条件を、根拠ごとに4つに分ける
病棟で決めたルールのほかにも、ツールに登録する条件があります。根拠によって、守らなかったときの結果も違います。
| 根拠 | 主な条件 | 守らなかったときの結果 |
|---|---|---|
| 診療報酬 | 一般病棟入院基本料などでは、看護職員の月平均夜勤時間数を72時間以下にする | 入院基本料が減算される |
| 法律(育児・介護休業法) | 請求した人を午後10時から午前5時まで働かせない | 育児・介護休業法の違反になる |
| 勤務編成の基準(日本看護協会) | 勤務間隔を11時間以上あける、夜勤の連続は2回までなど11項目 | 協会が示す基準から外れる |
| 施設のルール | 夜勤回数の上限と下限、新人同士を組ませないなど | 院内の決まりから外れる |
表の上の2つは、施設の判断だけでは外せない制限です。下の2つは、施設が採るかどうかを決めるものです。施設で決めていないことは、AIに条件として登録できません。
72時間ルールは、同じ入院基本料の病棟をまとめて判定する
一般病棟入院基本料などを算定する病棟では、看護職員の月平均夜勤時間数が72時間以下であることが施設基準の1つです。月平均夜勤時間数の基準だけを満たせなくなった場合は、入院基本料が減算されます。4
月平均夜勤時間数は、同じ入院基本料を算定する病棟全体の延夜勤時間数を、夜勤時間帯に従事した実人員数で割って出します。病棟(看護単位)ごとに72時間以下である必要はありません。8
平均で判定するため、一部の人に夜勤が偏っていても72時間以下に収まることがあります。そのため、1人あたりの夜勤回数の上限は、施設のルールとして別に登録しておく必要があります。
計算方法は診療報酬の改定で変わることがあるため、現行の方法は届出を担当する部署(医事課など)に確かめておきます。
育児・介護をしている人の深夜業の制限
小学校に入る前の子を育てている人が請求すると、事業主は午後10時から午前5時までの深夜に働かせてはいけません。請求は、制限を始める予定日の1か月前までに行います。1回の請求で1か月以上6か月以内の期間を指定でき、請求の回数に制限はありません。勤続1年未満の人などは対象外で、事業の正常な運営を妨げる場合は、事業主が請求を拒めます。5
要介護状態の家族を介護している人も、同じように深夜業の制限を請求できます。6
夜勤の多くはこの時間帯を含むため、請求した人については、その期間は夜勤に入れないという条件を登録します。期間は人によって違うので、人ごとに登録できるかを確かめておきます。
日本看護協会の「勤務編成の基準」
日本看護協会は2013年のガイドラインで、夜勤・交代制勤務の負担を減らす「勤務編成の基準」11項目を示しました。法律ではなく職能団体としての提案で、夜勤専従や日勤専従の人は対象として想定していません。3
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 勤務間隔 | 勤務と勤務の間を11時間以上あける |
| 勤務の拘束時間 | 13時間以内 |
| 夜勤回数 | 3交代制勤務は月8回以内が基本 |
| 夜勤の連続回数 | 2連続(2回)まで |
| 連続勤務日数 | 5日以内 |
| 休憩時間 | 夜勤の途中で1時間以上 |
| 夜勤時の仮眠 | 夜勤の途中で連続した仮眠時間を設ける |
| 夜勤後の休息(休日を含む) | 2回連続の夜勤の後はおおむね48時間以上 |
| 週末の連続休日 | 月1回は、土日とも前後に夜勤のない休日 |
| 交代の方向 | 正循環の交代周期 |
| 早出の始業時刻 | 7時より前を避ける |
勤務間隔や連続勤務日数のように数値で表せる項目は、そのまま条件にできます。休憩と仮眠は、当日の休憩の回し方で守るものです。
主なツールの比較
日本看護協会の「2025年 病院看護実態調査」(2026年3月発表)では、勤務表作成ソフトなどを導入している病院は32.4%でした。AIやICTを導入するときの課題には、初期費用の確保を84.3%、運用費の確保を69.2%の病院が挙げています。7
看護職員を確保するために、「夜勤回数や夜勤時間、曜日が選択できる」勤務を取り入れている病院も44.1%ありました。7 夜勤の入り方が人ごとに違うほど条件は増え、手作業では組みにくくなります。
| ツール名 | 特徴 | 料金 |
|---|---|---|
| エピタルHR | AIが約3分で勤務表の原案を作る | 要問い合わせ |
| ほすぴタッチ | スタッフ同士の勤務の交換がアプリ内で済む。チーム単位で条件をまとめて登録できる | 要問い合わせ |
| セルヴィスEX | 日本看護協会のガイドラインをもとに勤務表を作る | 要問い合わせ |
| 勤務シフト作成お助けマンDay | 条件を登録して勤務表を自動で作る。新人同士を組ませない条件も登録できる | 月額1万5000円(50人の場合。51人以上は別見積もり) |
| 看護配置マイスター | 過去のデータから、4か月先までの人員配置を試算する | 要問い合わせ |
| HRBEST | スタッフの役割や経験(リーダー・新人など)に応じたルールを登録できる | 月額1万5000円(50人の場合・ベーシックプラン)、初期費用5万円 |
| iBowKINTAI | 訪問看護向け。勤怠管理を含めて勤務表を作る | 年額8万4000円(50人の場合。無料版あり) |
50人で使うと、1人あたりの月額は、お助けマンDayとHRBESTが300円(月額を50人で割った額)、iBowKINTAIが140円(年額を12か月と50人で割った額)です。
表の並びは、おすすめの順ではありません。料金と特徴は、比較サイト「アスピック」の記事(最終更新は2025年8月26日)で2026年9月30日に確かめたもので、改定されることがあります。1
選ぶときに確かめる5点
- 原案の手直しのしやすさ。 最後の手直しにどれだけ手間が残るかはツールによって違うので、実際の画面で確かめる
- 施設のルールを、どこまで条件として登録できるか。 夜勤回数の上限や希望休の優先順位を反映できないと、手直しが増えて、導入した意味が薄れる
- 上限や基準を超えそうなとき、確定前に警告が出るか。 72時間ルールの超過を確定前に警告するツールもある1
- 勤怠管理と連携できるか。 打刻や勤怠管理まで一体で扱えるツールなら、二重入力が減る
- 料金の総額。 人数の区切りで料金が変わるツールが多いので、部署の人数に当てはめ、初期費用を含めた年間の総額を計算する
導入後、ツールを現場に定着させる手順
導入後の数か月は、1つの部署で試しながら条件を増やしていきます。
- 1つの部署で、手作業の勤務表と並行して運用する。 手作業の勤務表とAIの原案を比べ、いまの運用をどこまで保てるかを確かめる2
- 原案は、師長などが確かめてから確定する。 AIに任せきりにしない2
- 直した理由を言葉にして、新しい条件として登録する。 登録しないと、翌月も同じ手直しが要る
- 登録した条件と優先順位を、スタッフに周知する。 希望が通らなかった理由を説明しやすくなる
病棟の状況ごとの次の一歩
- 手作業でも短時間で組め、手直しも少ないなら、いまはツールの導入を急がなくてよい段階です
- 希望や制限が多く、毎月の組み直しに追われているなら、雛形を埋めてから、2、3社のツールのデモで条件を登録できるか確かめます
- 導入を看護部に提案するなら、料金の総額と、手作業にかかっている時間を人件費に直した額を並べて、業務改善の提案書にまとめます
出典
- 看護師シフト作成アプリのおすすめ13選。メリットや料金、選び方 | アスピック|SaaS比較サイト(参照 2026-09-30)
- 看護師シフト自動作成AIはどこまでできる?メリット・限界・導入時のポイント|Pitat-Shiftスタッフブログ(参照 2026-09-30)
- 看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン(公益社団法人日本看護協会、2013年2月)(参照 2026-09-30)
- 平成28年度診療報酬改定の概要「医療従事者の負担軽減・人材確保について」(厚生労働省保険局医療課)(参照 2026-09-30)
- 深夜業の制限|育児休業制度特設サイト|厚生労働省(参照 2026-09-30)
- 深夜業の制限|介護休業制度特設サイト|厚生労働省(参照 2026-09-30)
- 「2025年 病院看護実態調査」結果(日本看護協会 ニュースリリース、2026年3月31日)(参照 2026-09-30)
- 入院基本料等の施設基準等(平成24年度診療報酬改定の通知、厚生労働省)(参照 2026-09-30)

