件数の集計をAIにどこまで任せるか — 数を数える仕事の線引き
委員会のアンケートや意見の集計で、生成AIに渡してよいのは自由記述の分類までで、件数を数えて確定させる作業は人が持つべきである。理由と手順、検算のやり方をまとめます。
件数の集計における生成AIの役割とは
件数の集計における生成AIの役割とは、自由記述の意見を分類するところまでであり、件数を数えて確定させる作業は人が持つ、ということである。
生成AIは電卓ではない。ここを混同すると、集計結果そのものが間違ったまま配布される。
アンケートや意見募集の結果を1枚の集計表にまとめる作業は、医療現場に限らず多くの職場で発生する。自由記述が多いほど、まず「同じ趣旨の意見を束ねる」作業に時間がかかり、そのあとで件数を数えることになる。この2つは性質の違う作業だが、まとめて「集計」と呼ばれてしまうことが多い。
なぜ生成AIは数え上げが苦手なのか
生成AIは、入力された文章をトークンという単位に区切り、次に来る単語らしさを予測して文章を生成する仕組みで動いている。四則演算や個数の数え上げを、専用の計算処理として実行しているわけではない。
トークン化と数え上げの精度の関係を扱った研究では、文字単位ではなくトークン単位で処理することが数え上げの正確さに影響し、モデルの理論的な計算能力そのものを損ないうると報告されている。数える対象の単位(例えば1件ずつの意見)と、モデルが実際に処理する単位(トークン)がずれることが、件数のずれにつながるということである。
Anthropic のガイドも、最も高度なモデルでも事実と異なる出力(ハルシネーション)が起こりうるとした上で、不確実性を認めさせる・引用で検証させるといった対策はハルシネーションを大幅に減らすが完全には排除しないとし、重要な情報は常に検証するよう明記している。件数はまさに「重要な情報」であり、検証を省略してよい対象ではない。
分担
| 内容 | 誰がやるか |
|---|---|
| 自由記述の意見を同じ趣旨ごとに分類する | AIに下書きさせてよい |
| 分類の名前(ラベル)を仮に付ける | AIに下書きさせてよい |
| 分類ごとの件数を数える | 人(表計算ソフトの関数など) |
| 集計結果が原本の件数と一致するかの検算 | 人 |
| 集計結果をどう報告するかの判断 | 人 |
手順
1. 分類だけを依頼する
自由記述の一覧を渡し、「同じ趣旨のものをグループに分けてラベルを付けてください。件数は数えないでください」と指定する。数える作業を最初から切り離しておくと、後工程で混ざらない。
2. 分類結果を原本と突き合わせる
AIが出した分類の一覧に、元の意見が1件も抜けていないか、二重に数えられていないかを人が目で確認する。ここを省略すると、分類が正しくても件数がずれる。
3. 件数は表計算ソフトの関数で数える
分類が済んだ一覧を表計算ソフトに入れ、COUNTIF のような関数で件数を出す。生成AIに「件数を数えて」と依頼し直す必要はない。関数は同じ入力に対して常に同じ答えを返すが、生成AIの出力は都度の生成であり、その保証がない。
4. 合計件数が原本の件数と一致するかを確認する
分類後の合計が、集めた回答の総数と一致することを確認する。一致しなければ、どこかで抜けか重複が起きている。この最終確認だけは省略できない。
FAQ
Q. 生成AIに「件数を数えて」と頼んだ結果は使ってよいですか。 下書きとしてはよいですが、最終値は表計算ソフトの関数か手作業で必ず検算してください。
Q. 件数が少ない(10件程度)なら生成AIに任せてよいですか。 件数の多寡ではなく、確定値として使うかどうかで判断してください。確定値は必ず人が検算します。
Q. 分類のラベル付けも間違えることがありますか。 あります。ラベルは仮の下書きとして扱い、報告前に人が目を通してください。
Q. なぜ表計算ソフトの関数なら信頼できるのですか。 関数は決まった手順を機械的に実行するため、同じ入力には常に同じ結果を返すからです。
Q. 生成AIが得意な集計作業はありますか。 自由記述を趣旨ごとに束ねる分類作業です。数える段階は人に戻してください。
集計や下ごしらえの工程をどこまで機械に渡せるかを含めて業務フローを整理する段階になりましたら、設計のご相談を承っています。
出典
- Counting Ability of Large Language Models and Impact of Tokenization(参照 2026-08-09)
- Anthropic — ハルシネーションを減らす(参照 2026-08-09)