要点
対象:AI導入の会議に出る病院の看護師
- RAGなら改訂は資料の差し替えだけ
- ハルシネーションは消えず出典は人が確認
- 事務用のAIは、ふつう医療機器の対象外
看護の現場で聞くAIの用語は、仕組み・院内の資料の活かし方・使う場面・リスク・制度の5つに分けると整理できます。RAGは「マニュアルを確認してから答える」仕組みで、ファインチューニングは「基礎のできた人に、配属先の決まりを追加で教え込む」ことにあたります。ベンダーの説明や院内の稟議書に出てくる20語を、看護の仕事にたとえて押さえておけば、導入の会議で話についていけます。
AIの仕組みに関する用語
生成AIは、文章・画像・音声などを作り出すAIの総称で、ディープラーニングの技術が土台になっています。会議でいちばんよく聞くLLMは、そのうち文章を作る中核の部分です。膨大なデータで学習したLLMが登場したことで、用途ごとにモデル(AIの本体)を作り直さなくても、1つのモデルを多くの仕事に使えるようになりました。3
| 用語 | 意味 | 看護の仕事にたとえると |
|---|---|---|
| AI(人工知能) | 人が頭を使ってこなす仕事の一部を、コンピューターにさせる技術の総称 | 看護師の仕事の一部を手伝う仕組みの総称 |
| 機械学習 | データから規則やパターンを学び、新しいデータに当てはめる仕組み | 受け持ちの経験を重ねて、よくある経過を覚える |
| ディープラーニング(深層学習) | 機械学習の手法の1つ。何層にも重ねた計算で、画像や言葉の特徴を自動で見つけ出す | 観察の勘所を、経験から身につける |
| 生成AI | 文章・画像・音声などを新しく作り出すAI | 記録や資料の下書き係 |
| LLM(大規模言語モデル) | 大量の文章を学習し、次に来る言葉を予測して文章を作る仕組み | 下書き係の頭の中にある、言葉の知識 |
| 自然言語処理 | 人がふだん使う言葉を、コンピューターで扱う技術 | 看護記録を読んで、要点をつかむ力 |
| マルチモーダル | 文章だけでなく、画像や音声なども一緒に扱えること | 記録の文章も、写真や音声も一緒に読める |
| 推論 | 学習を終えたモデルを動かして、答えを出すこと | 覚えた手順で、実際にケアをする |
表の3列目は、会議で話を追うためのたとえです。機械学習はAIの一部で、ディープラーニングは機械学習の一部です。ベンダーが「LLMを搭載」と説明したら、どの会社のLLMかを聞いておくと、入力したデータがどう保存・利用されるかを確かめる手がかりになります。
院内の資料をAIで使うときの用語
院内の資料をAIで使う方法には、資料を検索して答えるRAGと、モデルに追加で学習させるファインチューニングの2つがあります。 どちらを選ぶかで、マニュアルを改訂したときの手間が大きく変わります。導入の会議で「マニュアルをAIに覚えさせます」と説明されたら、どちらの話なのかを確かめておきましょう。
| 用語 | 意味 | 看護の仕事にたとえると |
|---|---|---|
| RAG(検索拡張生成) | 手元の資料を検索し、その内容を根拠に答える仕組み | マニュアルを確認してから答える |
| 埋め込み(エンベディング)・ベクトル検索 | 文章を、意味の近さを計算できる数値の並び(ベクトル)に変えて探す方法1 | 「床ずれ」と聞いて、「褥瘡」の手順書に行き着く |
| ファインチューニング | 学習済みのモデルに追加で学習させ、答え方の傾向を変えること | 基礎のできた人に、配属先の決まりを追加で教え込む |
埋め込みとベクトル検索は、RAGが資料を探す部分でよく使われます。言い回しが違っても、意味が近ければ拾えるためです。
改訂に強いのはRAG
RAGではモデルそのものは変えないので、院内マニュアルを改訂しても、差し替えるのは資料だけです。ファインチューニングは、改訂のたびに学習をやり直すことになり、費用も時間もかかります。そのため、改訂の多い手順書や院内の決まりごとには、RAGのほうが向いています。
使う場面で出てくる用語
生成AIは、質問や作業の指示(プロンプト)に応じて文章や画像を作ります。5 頼み方が曖昧だと、答えも曖昧になります。
| 用語 | 意味 | 看護の仕事にたとえると |
|---|---|---|
| プロンプト | AIへの質問や作業の指示 | 申し送りの伝え方 |
| 音声認識 | 話した言葉を文字に起こす技術 | 口頭の報告を、その場で文字に起こす |
| AIエージェント | 目的を示されると、手順を組み立て、検索やほかのシステムなどのツールを使って実行するAI | 仕事の順番を組み立てて進める助手 |
| API | ほかのシステムからAIの機能を呼び出す仕組み | 部署の間でやり取りする、決まった書式の依頼伝票 |
このうち、看護記録の話で聞くのは音声認識で、業務の自動化の話で聞くのはAIエージェントとAPIです。「電子カルテとAPIで連携」と説明されたら、電子カルテとAIの間で、データを自動でやり取りするという意味です。
エージェントに任せる前に決めること
AIエージェントは、モデルを呼び出し、ツールを選び、続けるかどうかを判断しながら動きます。米Cloudflareの基盤で動かすエージェントは、一連の会話ごとに途中経過を保存でき、中断しても再開できます。2
指示された処置を1つこなすのがこれまでのAIだとすると、エージェントはリーダー業務にあたります。そのため、導入する側が、任せる範囲と止める手順をあらかじめ決めておきます。
リスクに関する用語
生成AIの出力には、誤りや偏りが混ざることがあり、入力した個人情報や機密情報が漏えいするおそれもあります。4
| 用語 | 意味 | 看護の仕事にたとえると |
|---|---|---|
| ハルシネーション | 事実でないことを、事実であるかのように答える現象 | 自信満々の言い間違い |
| バイアス | 学習したデータの偏りが、答えの偏りとして出ること | 偏った経験からくる先入観 |
| オプトアウト(学習への利用の停止) | 入力した内容を、AIの改善のための学習に使わないよう設定すること | 自分の記録を、研修の教材に使わないよう申し出る |
ハルシネーションとバイアスは、使う側の確認で減らせます。漏えいには、オプトアウトの設定で備えます。ChatGPTでは、設定の「データコントロール」からオプトアウトでき、この設定にしてもチャットの履歴は残ります。6
ハルシネーションに備える手順
技術的な対策は進んでいますが、ハルシネーションをなくすことはできません。4 そのため、出典を出させて人が確かめる手順を組み込んで使います。
制度とガイドラインの用語
どんなAIが医療機器に当たるかは、厚生労働省が考え方を示しています。医療機器としての目的性があり、意図したとおりに機能しないと患者の生命や健康に影響を与えるおそれがあるプログラムは、薬機法の規制の対象です。7 議事録の要約のような事務用のAIは、ふつう医療機器には当たりません。
| 用語 | 意味 | 看護の仕事にたとえると |
|---|---|---|
| プログラム医療機器(SaMD。「医療機器プログラム」とも) | 医療機器としての目的性があり、意図したとおりに機能しないと患者の生命や健康に影響しうるプログラム。影響がほとんどないものは除く7 | 輸液ポンプのような医療機器と同じく、薬機法の規制を受けるソフト |
| 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン | 医療情報を扱うシステムの安全管理について、厚生労働省が示す指針。2026年6月に第7.0版が策定され、5つの編からなる8 | 感染対策の指針の、情報システム版 |
プログラム医療機器は製品の決まりで、安全管理のガイドラインは病院のシステムの決まりです。ニュースで「AIが画像から病変を見つける」と報じられたら、承認を受けた医療機器の話か、研究段階の話かを見分けることが大切です。
患者情報を入力する前に
患者情報をAIのサービスに入力する前に、院内の情報システム部門に、規程で認められているかを確認しておきましょう。 入力してよいかは、①院内の規程、②契約の条件、③個人を識別できる情報かどうか、の順に判断します。
よくある質問
Q. RAGは何と読みますか。
「ラグ」と読むのが一般的です。Retrieval-Augmented Generation の頭文字をとったもので、日本語では「検索拡張生成」と訳されます。
Q. 看護記録に生成AIを使えますか。
話した内容から記録の下書きを作る、音声入力型の製品があります。患者情報を扱うため、院内の規程と契約の条件を確かめてから使いましょう。
Q. 看護の仕事で、AIにできないことは何ですか。
AIは下書きや要約を作れますが、答えが正しいことまでは保証できません。患者の状態を見て判断し、その責任を負うのは、看護師や医師などの人です。
- 会議で出た案が、院内の資料を検索して答える方式なら、次は資料の置き場と、更新の担当を決めましょう
- モデルに追加で学習させる方式なら、改訂のたびにかかる費用を先に聞いておくと、比べやすくなります
- 患者情報を入力する前提の話なら、院内の情報システム部門に相談しましょう
出典
- Cloudflare Docs(公式ドキュメントのソース)— Vectorize(ベクトルデータベース / embeddings)(参照 2026-08-09)
- Cloudflare Docs(公式ドキュメントのソース)— Agents(参照 2026-08-09)
- 総務省「令和6年版 情報通信白書」生成AIの急速な進化と普及(参照 2026-09-30)
- 総務省「令和6年版 情報通信白書」AIの進化に伴う課題と現状の取組(生成AIが抱える課題)(参照 2026-09-30)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(参照 2026-09-30)
- 東京経済大学 情報システム課「ChatGPTに学習させない設定方法(オプトアウト設定)」(2026年6月更新)(参照 2026-09-30)
- 厚生労働省「医療機器プログラムについて」(参照 2026-09-30)
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版(令和8年6月)」(参照 2026-09-30)
