医療とAIの、これまでとこれから。

医療者のためのAI用語辞典 — LLM・RAG・エージェントを現場の言葉で

医療現場でAIの話をするときに出てくる用語を、看護業務の言葉に置き換えて短く定義する。LLM・ハルシネーション・RAG・ベクトル検索・AIエージェント・ファインチューニングの違いがこれで分かる。

医療者が押さえるべきAI用語

ベンダー資料や院内の稟議書に出てくる語を、看護業務の言葉に置き換えて短く定義する。筆者は前職が看護師で、現在はAIの実装をしている。用語のわかりにくさは中身より訳語の問題であることが多い、というのが両方を通った実感である。

用語定義現場の言葉でいうと
生成AI文章や画像を新しく作り出すAI下書きを書いてくれる相手
LLM(大規模言語モデル)大量の文章を学習し、次に来る言葉を予測して文章を作る仕組み生成AIの「頭脳」の部分
プロンプトAIへの指示文依頼の仕方。曖昧だと曖昧な物が返る
ハルシネーション事実でないことを事実のような文体で出力する現象自信のある口調の思い込み
RAG手元の資料を検索し、その内容を根拠に答えさせる仕組みマニュアルを引いてから答えさせる
ベクトル検索(embedding)言葉を数値の並びに変換し、意味の近さで探す検索表現が違っても同じ話を拾う検索
ファインチューニング追加学習でモデル自体の傾向を変えること新人の癖そのものを作り直す
AIエージェント目的を与えると手順を自分で決め、道具を使い実行するAI指示待ちではなく段取りをする相手
推論(インファレンス)学習済みモデルを動かして答えを出すこと実際に使っている状態

混同しやすい3つ

RAG と ファインチューニングは別物

RAG とは、質問のたびに手元の資料を検索し、見つかった文章を根拠にして答えさせる仕組みである。 モデル自体は変えないので、院内マニュアルが改訂されたら差し替えるのは資料のほうだけで済む。ファインチューニングはモデルそのものを作り変えるため、更新のたびにやり直すのは現実的でない。「院内のルールを覚えさせる」ではなく「探させる」ほうが運用は軽い。

その検索を支えるのがベクトル検索である。Cloudflare の公式ドキュメントは embeddings を、テキストや画像などを意味検索アルゴリズムが扱える形にした「表現」だと説明している。言い回しが違っても意味が近ければ拾える検索、と考えてよい。「褥瘡」の手順書を「床ずれ」で探せる、という違いである。

エージェントは「自分で段取りする」もの

AIエージェントとは、目的を与えると手順を自分で決め、道具を使って実行するAIである。 Cloudflare の Agents ドキュメントは、エージェントを判断のループと道具を含む構成として説明し、セッションごとに永続的な識別子・保存領域・再開可能な実行を持つ点を挙げている。要点は状態を持って続けられることにある。

看護の比喩でいえば、指示された処置を1つこなすのがこれまでのAIで、リーダー業務のように優先順位を決めて段取りを組むのがエージェントである。権限の範囲と止め方を先に決めておく必要があるのはこのためだ。

ハルシネーションは「不具合」ではない

言葉を予測して文章を作る仕組みである以上、もっともらしい誤りは構造上起こりうる。ゼロにはならない前提で、出典を出させる・元資料を人が確認する手順まで含めて設計する。

また、患者情報をAIサービスに入力してよいかは施設の規程と契約条件によって変わる。入力の前に院内の情報システム担当と規程を確認するのが先で、これは技術ではなく手続きの話である。

FAQ

Q. RAG と検索エンジンは何が違いますか。 検索は文書を出すところまで、RAG は見つけた文書を根拠に文章で答えるところまで行います。

Q. ハルシネーションは対策すればなくなりますか。 なくなりません。出典を出させて人が確認する運用で、影響を小さくする前提で使います。

Q. 用語がわからないまま導入の会議に出てもよいですか。 この表の9語が分かれば、提案が「資料を探させる話」か「モデルを作り変える話」かは判別できます。


用語の整理は導入判断の入口にすぎません。院内文書の検索や事務作業の自動化を具体的に検討する段階になりましたら、設計のご相談を承っています。

出典

  1. Cloudflare Docs(公式ドキュメントのソース)— Vectorize(ベクトルデータベース / embeddings)(参照 2026-08-09)
  2. Cloudflare Docs(公式ドキュメントのソース)— Agents(参照 2026-08-09)