要点
対象:人を雇って野菜を作る農業法人の社長
- 常雇いは5年で54.4%増
- 100人に聞くとAIの使い道は事務が最多
- 作業日誌と出荷の連絡から試す(筆者)
農業の新しい技術といえば、ドローンでの農薬散布や、写真から病害虫の候補を出すアプリ、収穫ロボットがよく取り上げられます。
この記事の目次(7節)
ところが、農業で働く人の顔ぶれも変わっています。国の農林業センサスでは、年間7か月以上の契約で雇われて働く人が、5年で5割以上増えました。2
人を雇えば、作業の記録や指示も増えるはずです。人を雇っている農業法人がAIを試すなら、ドローンやロボットより、こうした事務のほうが手を付けやすいと筆者は考えます。いま使っているスマホで始められるからです。
雇われて働く人は5年で1.5倍に
2025年農林業センサスは、2025年2月1日時点で全国の農家や農業法人を数えた国の統計です。最終の数字は2026年3月31日に公表されました。1
農家と農業法人を合わせた数は83万6千で、前回の2020年の調査より22.3%減りました。そのうち法人は3万4千で、10.1%増えています。1
家族経営で農業を主な仕事にしている人(基幹的農業従事者)は、24.0%減りました。2
その一方で、年間7か月以上の契約で雇った人(常雇い)は、前回の15万7千人から24万2千人へ、54.4%増えました。2
データを使う農家は39.9%、生育を測って分析するのは2.9%
センサスには、天気や作業の記録などのデータを農業に使っているかを聞く項目もあります。使っている農家や農業法人は39.9%でした。2
内訳で最も多いのは、天気や市況のデータを見て農業をしている経営体で、36.1%でした。作業の記録をパソコンなどに残している経営体は11.9%と、まだ1割ほどです。2
機器やセンサーで生育の様子を測って分析している経営体は、2.9%にとどまりました。2
いまの作業日誌が紙かどうかは、ここで確かめておきたい点です。作業日誌の下書きや集計をAIに頼むにも、元になる記録が要ると筆者はみています。
100人に聞くと、AIの使い道は事務が最も多い
農業のマーケティング支援やAIの導入支援を手がける株式会社農情人が、2026年2月から6月に、農業関係者100人に聞いた結果を7月に公表しました。同社のつながりを通じて集めた回答で、全国の農業者を代表する数字ではないと同社は断っています。3
回答者のうち、農家・新規就農者・農業法人(うち農業法人は5人)が51人で、残りはJAや自治体の職員、農家を支援する人などです。3
いま使っている、またはこれから使いたいという答えで最も多かったのは「記録・文書・事務作業の効率化」で、48人でした。そのうち41人は、日報や報告書づくり、メール対応の下書き、記録の整理などにすでに使っていると答えています。3
「栽培管理・現場判断」は12人で、すでに使っていると答えたのは9人でした。3
写真から病害虫を探すアプリと、農業専用の生成AI
写真で撮った作物から候補を出す「レイミー」
農林水産省が紹介した宮城県石巻市のたかはし農園は、水稲とネギを作っていました。作業は基本的に高橋健輔さん1人で、忙しい時期だけ知人や親戚に手伝ってもらっていました。4
高橋さんが使っていたのは、無料のAIアプリ「レイミー」です。作物や田畑をスマホで撮ると、病害虫や生育障害の候補を、診断の確度と一緒に出します。4
高橋さんは、診断を参考にして、対処の仕方を自信を持って決められるようになったと話しています。農作業の前に畑を見て回るのが日課になり、撮った写真がそのまま記録になって、前の年の様子も正確に振り返れるようになったそうです。4
普及指導員に向けた、農業専用の生成AI
国の農業の研究機関、農研機構は2024年10月、農業の知識を学ばせた生成AIを開発したと発表しました。研究のデータに加え、JAなどの栽培マニュアルや栽培暦、営農指導の記録も学ばせています。7
農研機構は三重県で、野菜担当の普及指導員(県の普及指導センターで農家に栽培の助言をする職員)に使ってもらう試験運用を、イチゴで始めるとしていました。7
普及指導員が農業者からよく聞かれる質問120問では、ChatGPTのような一般向けの生成AIより、正答率が40%高かったと発表しています。7
ほかの作物にも広げ、普及指導員が調べものにかける時間を3割減らすことを目指すとしていました。その後の試験運用の結果は、この記事では確かめていません。7
作業日誌と出荷の連絡を変えた例
次の2つはAIの事例ではなく、作業の記録と連絡をデジタルに変えた例です。AIに下書きや集計を頼む前の段階にあたります。
作業日誌を、その場でスマホに
農林水産省が2021年に紹介した東京都府中市の澤藤園では、5代目の澤井政善さんが、年に20品目以上の野菜を育てていました。5
以前は作業が終わってから、パソコンの表計算ソフトにまとめて入力していたため、細かいことを書き忘れたり、記録を後日に回したりすることがあったそうです。5
そこで、スマホのアプリ「AgriHub」で、作業しながらその場で記録するようにしました。最初に農薬を登録しておくと、作物に合う農薬が表示され、あと何回散布できるかも分かります。JAが対応していれば、記録をそのままJAに出せます。5
業務ソフトの中には、声で記録を残せるAIの機能を持つものもあります。例として、kintoneのiPhone向けアプリの音声入力AIを取り上げました。
出荷の連絡を、ファクスと電話からLINEへ
同じく2021年に紹介された神奈川県の事例では、卸売会社の横浜丸中青果が、システム会社kikitoriの「nimaru」を入れていました。農業者がLINEから出荷の情報や資材の注文を送れる仕組みです。6
横浜丸中青果の部長は、出荷の情報が早く届くようになり、販売先に前もって提案しやすくなったと話しています。nimaruは当初、専用のアプリから送る仕組みでしたが、LINEに変えたことで「一気に普及が進んだと思います」とも述べています。6
JA湘南の平塚営農経済センターは、JA向けの「nimaruJA」を使い始めていました。それまで出荷先にはファクスや電話で連絡していて遅れがちでしたが、出荷先を決めた時点で、出荷の内容をボタン一つで送れるようになりました。6
変わったのは、センターから出荷先への連絡です。組合員からセンターへの連絡は、取材の時点では紙のままで、センターがそれを打ち込んでいました。6
何をいつ作るかと売り値は、自分で決める
人を雇う農場でAIを先に試すなら、作業の指示や作業日誌、出荷の連絡、取引先への返信の下書きだと筆者はみています。どれも日々の仕事で、写真や声、短いメモから下書きを作れるからです。
どの畑で何をいつ作るか、農薬をどう使うか、取引先にいくらで売るかは、社長が決めるべきだと筆者は考えます。AIの答えは、JAや普及指導センターに確かめながら使うのが安全でしょう。
働く人の名前や取引先の連絡先をAIに入力する前に、サービスを出している会社が、入力した内容を学習に使うかどうかを確かめておきましょう。自社で確かめることは2026年7月に公布された改正個人情報保護法の記事にまとめています。
どこから見直すか
| 手間のかかる仕事 | 最初に確かめること |
|---|---|
| 作業日誌 | 誰が、いつ書いているか。作業の後でまとめて書いていないか |
| 出荷の連絡 | JAや市場、取引先が、LINEやメールで受け付けているか |
| 取引先やお客さんへの返信 | 同じ問い合わせが、何度も届いていないか |
| 働く人への作業の指示 | 指示を口で伝えるだけで、残していないか |
| 帳簿 | 青色申告の帳簿を、何で付けているか |
作業日誌と出荷の連絡は、多くの農場で毎日のようにある仕事です。ここを先に見直すと、AIに下書きや集計を頼める記録がたまっていきます。
道具の月額料金と補助金の関係は、ChatGPTの月額と補助金の記事で扱っています。
今日の作業の記録を、スマホのメモでもよいので、その場で残すことから始めてみてください。
出典
- 農林水産省「2025年農林業センサス結果の概要(確定値)」(令和8年3月31日公表)(参照 2026-10-10)
- 農林水産省「2025年農林業センサス結果の概要(確定値)」調査結果の概要(農林業経営体調査)(e-Stat)(参照 2026-10-10)
- 農情人「農業関係者100人に聞いた『AIの使い道』、半数が"事務作業の効率化"」(PR TIMES・2026年7月3日)(参照 2026-10-10)
- 農林水産省「AI病害虫雑草診断アプリを活用して生産性を向上」(農業DXの取組事例13・宮城県石巻市)(参照 2026-10-10)
- 農林水産省「スマホを使った農作物生産記録・農薬利用記録管理」(農業DXの取組事例6・東京都府中市)(参照 2026-10-10)
- 農林水産省「農業者と青果流通事業者間のやり取りのデジタル化による流通現場業務の効率化と見える化」(農業DXの取組事例9・神奈川県)(参照 2026-10-10)
- 農研機構「国内初の農業特化型生成AIを開発」(2024年10月18日)(参照 2026-10-10)

