要点
対象:顧問先の届出を数人で回す社労士事務所
- 顧問先は平均33.2社、所員は2.7人
- 最終の確認は人が行う前提
- 学習への利用は発表に載っていない
社労夢を使っている社労士事務所は、7月23日から、入退社の手続きの確認にAIを使えます。11月には、オフィスステーション Pro で、届出の申請データの作成までAIが行える予定です。345
社労士事務所は小さく、社労士は全国に4万7千人ほどいても、1人で営む所が半分を超えます。12
AIにどこまで任せてよいのかは、各社の発表と法律の条文を並べると見えてきます。
顧問先は平均33社、所員は2.7人
全国社会保険労務士会連合会は、2024年の4月から6月に、すべての社労士を対象に実態調査をしました。開業している社労士事務所は、所員が平均2.7人で、顧問先は平均33.2社でした。2
顧問先が30社以上あるのに、担当するのは2〜3人です。手間がかかる作業は多いのに、新しい道具を試す時間は取りにくいでしょう。
3つの会社の発表
入退社の確認を手伝う「AI社労夢」
社労士向けのクラウドソフト「社労夢」を作るエムケイシステムは、2026年6月11日に「AI社労夢」を発表しました。社労夢に追加して使う形で、使えるのは社労夢の利用者です。3
第1弾は入退社の手続きの支援で、7月23日に提供が始まりました。4
6月の発表には、算定基礎届と月額変更届のチェック支援、返戻(役所から戻ってきた書類)の読解、送信前のミスの検出が、対象の例として挙がっていました。9月の案内には、今後、社労士の業務に特化したAIを広げる予定とあります。34
最終の確認と承認は人が行うことを前提に、AIと人で役割を分けると、6月の発表は述べています。3
業務システムをAIが直接操作する「オフィスステーション Pro」
エフアンドエムは2026年10月1日、社労士事務所向けのソフト「オフィスステーション Pro」を、AIが直接操作できるようにすると発表しました。提供は2026年11月の予定で、このソフトを使っている社労士事務所が対象です。5
予定している使い方は、算定基礎や月額変更の対象者の抽出と、資格取得・喪失などの届出書、申請データの作成です。5
AIが操作できる範囲は利用権限で制限し、操作の記録を残すとしています。役所への送信前の確認は、人が行う運用が前提です。料金は発表に載っていません。5
法令の質問に答える「AI労務君PRO」
コマースロボティクスの「AI労務君PRO」は、法令の解説やよくある質問にAIが答える、社労士事務所向けのサービスです。2026年2月に提供が始まり、月額は3万円からです。6
答えられない質問は、問い合わせフォームにつなぎます。回答の元になる資料づくりの支援もあります。届出の作成や確認ではなく、顧問先や職員からの質問への答えを、AIに手伝わせるサービスです。6
届出を4つの段階に分けると
ここでは、届出を4つの段階に分けて見ます。対象者を探す、内容を確認する、申請データを作る、最後に確認して役所へ送る、の順です。
対象者を探す段階と申請データを作る段階は、オフィスステーション Pro が受け持つ予定です。内容を確認する段階は、AI社労夢が入退社の手続きから手伝っています。最後の段階は、人が確認する前提です。35
顧問先の申請書を作って出すのは、社労士の業務
社会保険労務士法の第2条は、申請書類の作成と、その提出の手続きの代行を、社労士の業務としています。第27条は、社労士でない人が、報酬を得て、これらの業務を業として行うことを禁じています。7
AIが作った申請データでも、顧問先から受けた仕事なら、出すのは社労士です。
第25条の2は、故意に事実に反する申請書を作ったときは業務停止か失格を、相当の注意を怠ったときは戒告か1年以内の業務停止の処分を、厚生労働大臣ができると定めています。7
AIが作った申請データを確認せずに出せば、この「相当の注意」が問われかねないと考えます。
顧問先の情報をAIに入れるときの決まり
第21条は、社労士が仕事で知った秘密を、正当な理由なく漏らしたり盗用したりしてはならないと定めています。第27条の2は、使用人などにも同じ義務を課しています。職を離れたあとも同じです。7
個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIサービスに個人データを入れるときの注意を呼びかけました。8
本人の同意なしに入れた個人データが、答えを出す以外の目的で扱われると、個人情報保護法に違反する可能性があります。サービスの会社が機械学習に使わないかを、十分に確認するよう求めています。8
3社の発表には、入力した内容を機械学習に使うかどうかが載っていませんでした。導入の前に、ソフトの会社の窓口へ問い合わせ、契約や規約で確認してください。
社労士事務所で確認すべき点は、2026年7月に公布された改正個人情報保護法の記事にまとめています。
職員が私用のAIに顧問先の個人情報を入れた場合は、会社が取る対応の記事をご覧ください。
試すなら、使っているソフトの会社の発表から
AI社労夢とオフィスステーション Pro は、社労士事務所が使っているソフトに追加して使う形です。まず、使っているソフトの会社が、AIの機能を出しているか、出す予定があるかを確認するのが近道だと考えます。
別のソフトを使っているなら、その会社に問い合わせるのが先です。
同じ士業の税理士事務所向けのAIは、税理士事務所のAI活用の記事で扱いました。
| 負担の大きい仕事 | 最初に確認すること |
|---|---|
| 入退社の届出の確認 | 使っているソフトの会社が、確認を手伝うAIを出しているか |
| 算定基礎届・月額変更届 | AIが抽出した対象者を、人が賃金台帳と突き合わせる手順を決めてあるか |
| 返戻(役所から戻った書類) | 戻された理由を、原本と一緒に人が読むか |
| 顧問先や職員からの質問 | 回答の元になる資料を、誰が作り、古くなったら誰が直すか |
| 顧問先の個人情報 | ソフトやAIの会社が、入力した内容を機械学習に使わないか |
上の3つは、期限と様式が決まっている仕事で、AIが見つけた誤りを人が直す形にしやすいと考えます。下の2つは、AIを入れる前に、資料と契約を整えておく仕事です。
顧問先の届出を1件選んで、いまの確認の手順を書き出してみてください。どこに時間がかかっているかが分かれば、AIに手伝わせる所も決まります。
出典
- 厚生労働省「第58回社会保険労務士試験の結果について」(社会保険労務士登録者数 令和8年8月31日現在)(参照 2026-10-11)
- PSR Network「大企業から小規模事業者まで幅広く社労士が関与/『2024年度社労士実態調査』調査結果(詳細版)などを公表」(全国社会保険労務士会連合会の調査・2024年11月11日)(参照 2026-10-11)
- エムケイシステム「社会保険労務士業務支援クラウド『社労夢』にAIエージェント機能を搭載した『AI社労夢』をリリース」(PR TIMES・2026年6月11日)(参照 2026-10-11)
- エムケイシステム「社労士向けAIエージェント『AI社労夢』、先行導入2事務所が導入50日の成果を公開」(PR TIMES・2026年9月8日)(参照 2026-10-11)
- エフアンドエム「社労士事務所向けクラウドソフト『オフィスステーション Pro』、AIが業務システムを直接操作する『MCPサーバー』を提供開始」(PR TIMES・2026年10月1日)(参照 2026-10-11)
- コマースロボティクス「社労士事務所向けAI労務アシスタント『AI労務君PRO』を提供開始」(PR TIMES・2026年2月2日)(参照 2026-10-11)
- e-Gov法令検索「社会保険労務士法」(昭和43年法律第89号。第2条・第21条・第25条の2・第27条・第27条の2)(参照 2026-10-11)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)(参照 2026-10-11)

