要点

対象:看護研究係に当たった病棟の看護師

  1. 指示文で「記載なし」を許し、推測は禁止
  2. 抄録の第1稿は結果の数値を空欄に
  3. 要約で条件が落ちていないかを確認

看護研究で生成AIに任せてよいのは、自分で集めた資料を整理・要約し、体裁を整える作業です。文献検索をAIに任せてはいけません。

この記事の目次(6節)
  1. 任せる作業と任せない作業
  2. 集めた文献を渡して整理させる
  3. 抄録の第1稿を作る
  4. 提出前の確認
  5. AIを使ったことの扱い
  6. FAQ

生成AIは、事実でない内容をもっともらしく書くことがあります。これをハルシネーションと呼びます。最先端のモデルでも起こりうることは、Anthropic も認めています。1

文献検索を任せると、著者名・雑誌名・発行年がそれらしくそろった実在しない文献が返ってくるおそれがあります。

任せる作業と任せない作業

看護研究係は多くの病棟で持ち回りで、係に当たった年は通常業務に上乗せになります。どの作業の時間を減らすかを見誤らないようにしましょう。いまのところ、次のように分けるのが、安全で手早いやり方です。

作業任せ方
文献検索任せない(文献データベースで自分で検索する)
集めた文献の要点抽出任せる(本文を渡す)
文献の比較表の作成任せる(本文を渡す)
研究計画書の構成の下書き任せる(内容は自分で見直し、指導者の確認を受ける)
抄録の第1稿任せる(結果の数値は自分で入れる)
結果の解釈任せない
倫理的配慮の判断任せない(指導者と倫理委員会が判断する)

「任せる」作業は、どれも材料を自分で渡すものです。

集めた文献を渡して整理させる

公表された文献には、ふつう患者の個人情報は含まれません。ただし、自施設のデータや未公表の結果を貼るなら、施設の規程とサービスの契約条件の確認が先です。

例えば、「申し送りにかかる時間」をテーマに、文献データベースで10本の論文を集めたとします。10本の要点を同じ項目で表にそろえる作業は、AIに任せられます。項目を先に決めておくと、比べやすくなります。

以下は看護研究の文献の本文です。次の6項目だけを表にまとめてください。1. 研究デザイン、2. 対象と人数、3. 介入または観察の内容、4. 主要なアウトカム、5. 結果、6. 著者が挙げている限界。本文に書かれていない項目は「記載なし」としてください。推測で補わないでください。(本文)

肝心なのは最後の2文です。「記載なし」を許すのは、Anthropic がハルシネーション対策の基本に挙げる方法で、これだけでも誤った情報が大きく減ります。「推測で補わない」は、渡した資料の情報だけを使わせる方法に当たり、同じ資料では応用の方法の1つに挙げられています。1

長い文献には、先に該当する箇所を一字一句そのまま引用させ、その引用だけをもとにまとめさせる方法もあります。1

  1. 「この文献から、6項目それぞれについて、書かれている箇所をそのまま引用して抜き出してください」
  2. 抜き出された引用を確認する
  3. 「抜き出した引用だけを根拠に、6項目の表を作ってください」

一手間増えますが、原文との突き合わせがそのまま確認になるので、結果的に早く済みます。

抄録の第1稿を作る

抄録は字数と構成が決まっていることが多く、AIが得意とする文書です。Anthropic の指針は、出力の形式と制約を具体的に指定するよう勧めています。Claude では、例を3〜5個見せると、形式や語調が安定します。2

学会の抄録なら過去の採択例を、院内発表なら前年の抄録を、見本として貼れます。

あなたは看護研究の抄録作成を手伝う編集者です。以下の過去の抄録3本と同じ構成・文体で、私の研究の抄録の第1稿を800字以内で作ってください。構成は 目的 / 方法 / 結果 / 考察 とします。結果の数値は私が入れるので「(数値)」と空欄にしてください。私が渡した資料に書かれていないことは書かないでください。(過去の抄録3本)(研究のメモ)

大事なのは、数値を空欄にさせることです。数値だけは自分で入れると決めておけば、最も誤りが起きやすい箇所を人の手で押さえられます。

提出前の確認

AIに書かせたあとで、各主張を裏づける引用を探させ、見つからない主張は取り消させる方法もあります。それでも、誤りが完全になくなるわけではありません。1

確かめるのは次の4つです。

  • 文献が実在するか(著者・雑誌・発行年・巻号を文献データベースで引き直す)
  • 数値が原文と一致するか
  • 引用の趣旨が原文と一致するか(都合よく要約されていないか)
  • 自分の研究の結果と考察に矛盾がないか

3つ目は見落としやすい点です。要約では、条件を示す部分が落ちることがあります。「〇〇の条件下では有意差があった」が「有意差があった」になっていないかを見ます。

AIを使ったことの扱い

所属施設や学会の方針によって、扱いは違います。先に方針を確認し、迷ったら指導者に相談してください。どの方針でも、内容の責任は研究者本人にあります。自分で説明できない文章は、提出しないようにしましょう。

FAQ

Q. 英語論文の翻訳に使ってよいですか。
下訳としては役に立ちます。ただし、結論に関わる文は、条件が抜けていないか原文で確認してください。

Q. 研究計画書の作成にも使えますか。
構成の下書きまでです。研究デザインの妥当性は指導者の確認を受け、倫理的配慮は指導者と倫理委員会が判断します。

Q. どのくらい時間を短縮できますか。
作業によります。効果が大きいのは形式が決まっている作業(比較表、抄録の第1稿)で、考察の執筆にはほとんど効きません。

出典

  1. Anthropic — Reduce hallucinations(ハルシネーションを減らす手法)(参照 2026-08-09)
  2. Anthropic — Prompting best practices(プロンプト設計のベストプラクティス)(参照 2026-08-09)