医療とAIの、これまでとこれから。

手順書からチェックリストを起こす — 読む文書から使う文書に変える

手順書が守られないのは、内容が悪いからではなく「読む文書」のままだからであることが多い。既にある手順書をチェックリストの粒度に組み直す作業を生成AIに渡す手順と、項目にしてはいけない判断の線引きを整理します。

チェックリスト化における生成AIの役割とは

チェックリスト化における生成AIの役割とは、手順の中身を決めることではなく、既に決まっている手順書を、その場で確認できる粒度に組み直すことである。

中身を決めるのは委員会と責任者で、組み直すのは作業である。この線を引けるかどうかで、使ってよい道具かどうかが決まる。

筆者は前職が看護師である。手順書が守られない理由は、たいてい内容ではない。手順書はファイルに綴じられて棚にあり、手が動いている最中に開かれることがない。実際に見られているのは、処置台の横に貼られた1枚か、先輩が口で言ったことである。つまり足りていないのは正しさではなく、その場で目線が落ちる形である。

渡してよい作業と、渡してはいけない判断

内容誰がやるか
手順そのものを変えるかどうか委員会・責任者(人)
院内基準・法令・添付文書との整合の確認委員会・責任者(人)
手順書の記述をチェック項目の形に分解するAIに下書きさせてよい
項目の順序を作業動線に合わせて並べ替えるAIに下書きさせてよい
「判断が要る箇所」をどう扱うかの決定責任者(人)
チェックリストとしての最終的な文責責任者(人)

順序が重要である。現行の手順書を正として確定させてから渡す。 「この手順はこれで妥当か」から相談を始めると、根拠が院内基準ではなくAIの一般論に置き換わる。

手順

1. 元の手順書をそのまま貼り、範囲を区切る

以下は当院の手順書です。この文書に書かれている内容だけを使って、実施者がその場で確認できるチェックリストに組み直してください。文書に書かれていないことは追加しないでください。追加すべきだと思った箇所があれば、リストには入れず「補足が必要と思われる箇所」として別に列挙してください。(手順書)

「書かれていないことを追加しない」が要である。Anthropic は、提供されたドキュメントの情報のみを使い一般的な知識を使わないよう明示的に指示することを、ハルシネーションを減らす手法のひとつとして挙げている。医療の手順書では、もっともらしく足された1項目が現場の実態と食い違う。

2. 根拠の箇所を先に引かせる

各チェック項目について、根拠になった手順書の該当箇所を一語一句そのまま引用して、項目の横に添えてください。引用が見つからない項目は削除してください。

Anthropic は、長いドキュメントを扱うタスクではタスクの実行前に該当部分を引用させることを推奨しており、また各主張を裏付ける引用が見つからない場合はその主張を撤回させる検証方法を挙げている。引用を添えさせると、作文された項目がその場で落ちる。

3. 粒度を1動作に揃える

各項目を「1つの動作」または「1つの確認」まで分解してください。1項目に2つ以上の動作が入っている場合は分けてください。各項目は40字以内にしてください。

「望む出力フォーマットと制約について具体的に指定する」というのは、Anthropic のベストプラクティスが一般原則として挙げている点である。字数と粒度を数字で指定すると、手順書の文がそのまま長い項目として残るのを防げる。

4. 動線の順に並べ替えさせ、人が確定する

項目を、実施者の動きの順(準備 → 実施前確認 → 実施 → 実施後)に並べ替えてください。並べ替えた理由を1行で添えてください。

理由を添えさせると、現場の動線と違う並びをすぐ見つけられる。並べるのはAI、選ぶのは人である。

判断が要る箇所は、項目にしない

これがいちばん間違えやすい。

チェックリストは「やったかどうか」を確認する道具であり、「どうするか考える」箇所を項目にすると、考えないで済ませる装置になる。 患者の状態によって手順が分岐する箇所、中止や報告の判断が入る箇所は、チェックボックスにせず「ここで判断する/迷ったら誰に相談する」と明記する形で残す。

分岐をAIに整理させたい場合も、選択肢を並べさせるところまでにとどめる。どちらを選ぶかの基準は、院内基準と指導者の判断で決まる。

運用に乗せるときの2点

FAQ

Q. 手順書を丸ごと貼ってよいですか。 入力の可否は施設の規程と契約条件で決まります。患者情報を含む記載がある場合は、その部分を外してから渡します。

Q. AIが足した項目が良さそうに見えるときは。 リストには入れず、次の改訂の検討材料として委員会に上げます。手順の変更は文書の改訂手続きを通します。

Q. どのくらいの項目数が適切ですか。 決まった数はありません。現場で目線を落として確認できる範囲かどうかで判断し、超えるようなら工程ごとに分けます。

Q. 出来上がったチェックリストの正しさは誰が保証しますか。 文責は責任者にあります。元の手順書との突き合わせは、引用を添えさせたうえで人が確認します。


手順書・マニュアル・記録様式の整理まで含めて、書き物の負荷をどこまで機械に渡せるかを検討する段階になりましたら、設計のご相談を承っています。

出典

  1. Anthropic — プロンプティングのベストプラクティス(参照 2026-08-09)
  2. Anthropic — ハルシネーションを減らす(参照 2026-08-09)