米OpenAIは9月30日(現地時間)、7月に組織的な蒸留行為を阻止していたと公表しました。活動の中心は、対話型AI「Kimi」を開発する中国の月之暗面(Moonshot AI)の関係者によるものだと判断しています。国内では9月30日、日立製作所とファナックが、工場の作業をAIとロボットで自律化する「フィジカルAI」で提携しました。
この記事でわかること
- OpenAIとシノプシスが共同開発するAIは、顧客の設計データを学習に使いません
- 日立製作所とファナックは、2027年度から半導体や食品などの顧客にフィジカルAIを広げます
- 千葉市のAIデータセンターは発電所から直接受電し、通常より数年早く稼働できるとしています
この記事の目次(5節)
日立とファナック、ピッキングや段取り替えをAIで自律化へ
日立製作所とファナックは9月30日、「フィジカルAI」の事業化に向けて戦略的パートナーシップを結んだと発表しました。フィジカルAIは、AIが現実の状況を認識・判断して、ロボットや機械を動かす技術です。4
ピッキングや段取り替えは、決まった動きを繰り返す自動化設備では対応が難しく、人手に頼ってきた作業です。両社は日立の茨城地区の工場を最初の実証の場にし、2027年度までに現場への実装に必要な技術を確立する計画です。4
実証では、形状の異なる部品のピッキングや、生産品の変更に伴う段取り替えに取り組みます。日立のAIとファナックの産業用ロボットを組み合わせ、認識精度や動作、タクトタイム(製品1個の生産に割り当てる標準の作業時間)、品質を検証します。2027年度からは、半導体、医薬品、自動車、物流、食品、造船、農業などの分野で、両社の顧客に展開していく予定です。4
こうした作業の人手不足に悩む会社は、取引のあるロボットメーカーやロボットSIer(ロボットの導入を請け負う会社)に、AIによる自律化に対応する予定があるかを問い合わせておくとよいでしょう。
OpenAI、4000を超えるユーザーによる推論過程の抜き出しを遮断
日立とファナックの発表の翌日にあたる日本時間10月1日、米OpenAIは蒸留行為の阻止を公表しました。蒸留は、あるAIの出力を使って別のAIを学習させる手法です。12
OpenAIの推論モデルは、答えを出す前に、内部で段階を踏んで考えます。この推論過程を、OpenAIはユーザーに見せていません。ところが7月、推論過程を書き出させようとするリクエストが、組織的に大量に送られました。OpenAIは、これを他社のAIの出力を無断で学習に使う「敵対的蒸留」とみなしています。12
動きは7月1日に小規模に始まり、24日と25日に急増しました。この2日間に、4000を超えるユーザーから約1万6000件のリクエストがありました。関連するユーザーは1万5000を超え、OpenAIは7月28日までに、すべて遮断しました。12
OpenAIによると、暗号が破られたり、ユーザーの会話を保存したデータベースに侵入されたりしたわけではありません。対策として、不正なアカウントを停止・制限し、登録時の確認を厳しくしました。AI開発大手でつくる業界団体「Frontier Model Forum」を通じて、ほかのAI企業とも情報を共有しています。ほかの企業のAIも、同じ手口で狙われるおそれがあるとしています。1
通常の用途でChatGPTやAPI(システムからAIを呼び出す仕組み)を使う企業が、すぐに対応を迫られることはありません。自社のサービスにAIを組み込んで公開している会社は、利用量が急に増えていないかを監視しておくとよいでしょう。
OpenAIとシノプシス、半導体設計向けの専用モデル「GPT-Synopsys」
蒸留行為の阻止を公表したのと同じ9月30日(現地時間)、OpenAIは半導体設計ツール大手の米シノプシス(Synopsys)と提携すると発表しました。両社は複数年の契約を結び、半導体設計向けの専用モデル「GPT-Synopsys」を共同で開発します。契約には、収益の分配と販売での協力も含まれます。3
GPT-Synopsysは、シノプシスの設計ツール(EDAツール)を、熟練の設計者のように使いこなすことを目指すモデルです。設計者が消費電力・性能・面積(PPA)やタイミングなどの目標を示すと、AIがツールを動かし、結果を解析して設計を直す作業を繰り返します。最後に設計者が結果を確かめる流れです。3
顧客の設計データはモデルの学習に使わず、保存時・通信時ともに暗号化します。データの保存期間や監査、アクセス権限の管理は、顧客が設定できます。大手半導体メーカーでの先行導入は始まっていますが、両社は提供時期や料金を明らかにしていません。3
業界向けのAIを比べるときは、データが学習に使われないか、保存期間、監査の記録の3点を確かめておくと判断しやすくなります。ChatGPTでデータを学習に使わせない設定は、画像の流出を取り上げた記事で解説しています。
JERAなど3社、千葉火力発電所に最大40万kWのAIデータセンター
発電会社のJERA、米デル・テクノロジーズ、英RHAELM(レルム)の3社は10月1日、日本のAIインフラ整備を加速するための覚書を結んだと発表しました。第1弾として、JERAの千葉火力発電所(千葉市)の敷地に、最大40万kWのAIデータセンターを整備する計画です。1カ所の規模としては国内最大だといいます。5
総投資額は、用地や電力設備、建物、サーバーなどのIT機器を合わせて150億ドル(約2.3兆円)以上を見込みます。発電所から直接受電するため、送電網(系統)に接続する通常の方式より数年早く稼働できるとしています。3社は、2028年ごろの稼働をめざしています。5
JERAとRHAELMは、ほかの火力発電所にも同様の施設を広げることを検討しています。2030年代には、国内で数百万kW規模のAIデータセンターの整備を後押しする考えです。5
いまは覚書を結び、計画を示した段階です。AIを使う会社がすぐに何かを変える必要はありません。
HENNGE、従業員を置かずAIが実務を担う新会社を設立
クラウドのセキュリティサービスを手がけるHENNGE(ヘンゲ)は10月1日、新会社「HENNGE AI」を設立しました。取締役2人のほかに従業員を置かず、実務はAIエージェントが担います。6
新会社は、社内でAIエージェントを安全に使うためのサービス「AI Gateway」を開発します。利用者ごとの管理や利用料金の可視化といった機能を備え、2027年9月までに提供を始める予定です。6
新会社の体制と、AIに任せる仕事の範囲は、HENNGE AIの設立を取り上げた記事で詳しく紹介しています。社員がAIをどう使っているか把握できていない会社には、提供が始まれば、こうした管理ツールが選択肢の一つになります。AIの利用料金の内訳を後から説明できるようにする方法は、LLMアプリのコストの記事で解説しています。
米連邦取引委員会(FTC)による調査の報道など、それより前のOpenAIの動きは、10月1日のAIニュースにまとめています。
出典
- OpenAI「Disrupting a coordinated model-distillation campaign」(参照 2026-10-02)
- ITmedia NEWS「OpenAI、推論過程を狙った組織的な“蒸留”行為を阻止 『Kimi』開発元の関係者が関与と主張」(2026年10月1日)(参照 2026-10-02)
- Synopsys「OpenAI and Synopsys Announce GPT-Synopsys: Frontier Intelligence to Revolutionize Chip Design」(2026年9月30日)(参照 2026-10-02)
- 日立製作所・ファナック「日立とファナック、フィジカルAI実装の共同事業化に向けた戦略的パートナーシップを締結」(2026年9月30日)(参照 2026-10-02)
- JERA「JERA、Dell TechnologiesおよびRHAELMによる日本における国家規模のAIインフラ開発の加速に向けた覚書の締結について」(2026年10月1日)(参照 2026-10-02)
- HENNGE「HENNGE、AI活用支援サービスを展開する新会社『HENNGE AI』を設立」(2026年10月1日)(参照 2026-10-02)

